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影響

ヤマト帝国滅亡。

そのニュースは、瞬く間に世界中を駆け巡った。

ある者は世界の終わりだと絶望に嘆き、またある者は軍事大国がなくなったと歓喜した。

弱い者は戦争の恐怖から震え続けた。強い者は化物への興味から励み続けた。

「絶対に、許さない……!」

そしてここにも一人、かつてヤマト帝国で最強候補の座まで上り詰めた元勇者の骸を抱き締め、唸る人物がいた。

「必ず同じ目に合わせてやる。大切な物を全部壊してやる」

しかし、彼女だけは反応が少し違っていた。国民の一人として、当事者としてこの世で一番大切だった者の骸を抱いていた。

「覚えてろ、シオン‼︎」

動かなくなったリョウから空の果てに目を逸らし、トスカは力の限り叫んだ。




「だから、充分な戦力を整える必要がある!」

「しかし、まだどこの勢力がしたのかも分からない! 情報を集めるべきだ!」

「何を甘いことを言っているんだ! 魔族の仕業に決まっているじゃないか」

「推測だけで動けば、やられるのはこっちなんですよ!?」

汗と唾液を散らしながら、そうしていなければ死んでしまいそうなほど必死に己の弁を飛ばす男たち。彼らは国の頭脳、大臣と呼ばれている人種だ。

ヤマト帝国は人間が作った国の中では最大規模の軍事国家。その首都が一日持たずに滅亡したのだから、楽観できない者、例えば大規模な命を背負う責任が生じている者などは、揃って舌を動かすだけの簡単な仕事をせっせとしていた。普段はふんぞり返っていて邪魔なだけなのだが、有事の際は保身のためだけに大層な仕事をしてくれる。

「なんで、僕を呼んだんですか?」

世界最強の勇者が口論だけで誰も実行に移そうとしない無意味な会議を眺めながらため息を吐いた。

世界に彼以外の勇者はいなくなった。ヤマト帝国が恐るべき実行力でこの男を除くすべての勇者を集めていたのだから、滅亡した今は必然と勇者も全滅してしまった。

彼はその事実に対して別に悲観していない。強いて言えるなら、勇者の皮をかぶっただけの偽善者がこの世から消えてくれて清々したぐらいだ。

「俺は参加を義務付けられているのでな。話し相手になれ」

かつて世界最強の名を欲しいままにした男が、ため息を吐く勇者のことなど気にもかけず自分の隣を指をさす。ここに座れということなのだろう。

「そんなことだろうと思ってましたよ、シヴァさん」

勇者は最強と謳われていた男、シヴァの隣に静かに腰を落とした。

「ここでは絶対の破壊者と呼べと言っているだろうが」

「話し相手が欲しいから、なんて理由で呼び出された僕の身になってくださいよ」

「レイトは学生なんだ。どうせ、暇だったろう?」

「生徒会の活動とか色々たまっているんですけどね」

レイトは苦笑して、諦めたようにやれやれと首を振った。

レイトもシヴァも、この場に来たのは理由がある。

そもそもここは王宮の会議室、特別な事情がなければ入る機会がない。それこそ、首都が滅亡なんてトップニュースがなければ。

二人は既に耳に入れていたが、実行に使われた手段は実力行使。つまり、軍事国家に真っ向から喧嘩を吹っ掛けたバカがいたということだ。殺し合いの匂いがする以上、この国の実力者しか持たぬ称号であるオーバーランクの面々が呼び出されないわけがない。もっとも、本来はレイトとシヴァの他にももう一人いるのだが。

「奥さん、ルドラさんの調子はどうですか?」

レイトが最後のオーバーランク、無敵の嵐姫ことルドラを話題に出した。

「ダメだな。魔神の時の後遺症がまだ抜けないらしい。この前やっと一人で起きれるようになったぐらいだ」

「そう、ですか」

ルドラは魔神に体を乗っ取られた過去を持つ。それ以来体調が優れず、今では一人で動くこともままならないらしいのだ。きっと、神を身体に降ろした時の代償だろう。

現在ではシヴァがつきっきりで介護しており、今みたいに外せない用事の時は娘であるアイリスとノエルに面倒を頼んでいる。最初は国から集合せよと要請があったら蹴ろうとしていたのだが、仕事を放ったらかしにするとは何事か、と今まで見たこともない剣幕で怒られてしまった。だから心配な気持ちを抑えつつ、彼はこの場に来ている。

「早くよくなるといいですね」

彼が表情の裏に隠した苛立ちから足を貧乏ゆすりしているのに気付きながら、レイトはあえて口に出さず微笑んだ。

このような身にならぬ話し合いなど聞いているだけ無駄なので、帰るに帰れないシヴァには同情する。

「魔神といえばお前こそどうだ? あの時の力は使えるようになったのか?」

シヴァが気を紛らわせるために話題を変えたのは明白だ。

「いえ、まったく進展してないです。本当に僕が使っていたんですか?」

「俺の目を疑ってるのか。失礼な奴だな」

「そんなつもりはないですよ」

レイトは微笑みを崩さず、シヴァの言葉をやんわりと否定した。

対魔神戦の時、レイトは一度覚醒した。シオン以上の密度と威力を持った神力を放出し、魔神の一撃を弾いたのだ。その後気を失ったレイトは当時の記憶が曖昧になっており、他の目撃者も半年経った今は、記憶が上書きされて覚えている者はいない。

シオンが行方不明になったのは、その日だった。捜索に尽力していく中に、レイトが仕出かした出来事は埋もれた。

唯一、シヴァを除いて。

彼は最強だった。言い換えるなら、それだけ戦場に立った経験があるということだ。敵を倒す以上に、味方を失う経験がある。だから、シオンがいなくなってもそれほどショックがなかった。

シオンが行方不明になるよりも記憶に残った物、それがレイトの覚醒だ。シヴァはレイトだけに事態を伝え、オーバーランクだけの、現在ここにいる二人だけの秘密ということにした。

神の一角を退けるほどの力。世界の縮図を変える可能性を持つそれも、自身でコントロールが出来ないのではただの爆弾と変わらない。

誰かが、前例がないほどの強力な爆弾を所持しているならば、使う使えないに関わらず利用されることだろう。しかも所持者が無敗の剣帝という世界でも有数の有名人なのだから、及ぼす影響は計り知れない。

かつて人類そのものを相手に、平穏をかけて立ち回ったシヴァが内密にするのも当然だった。

レイトが神力を扱えること、その事実を知っているのはこの場にいるたった二人。神であるどこかのチートすら知らない話だ。

「シオンなら、経験者としてうまく教えてくれるんでしょうね」

「すまんな、俺はその経験がなくて」

「皮肉に取らないでください。僕はアナタだからこそ安心しているんです」

主に、仕事量的な意味で。

レイトは続く言葉を飲み込んだ。

「それでは、ヤマト帝国の二の舞になってしまいます!」

「じゃあ、どうすると言うのだ!? オーバーランクが二人脱落している以上、今までよりも仕事してもらうしかあるまい」

二人のオーバーランクの雑談が一息ついたところに、大臣サマのやかましい声が割って入ってきた。

「いつの間にか、僕らが頑張る方向で進んでいるみたいですね」

「面倒ではあるが、王が来るまでは流すしかないな。面倒だが」

シヴァが二度同じ単語を呟いて、盛大なため息をついた。どうやら、彼が帰るのはまだ当分先のようだ。

「正直に聞かせてほしいんですけど、今回の件は誰の仕業だと思ってますか?」

「人にモノを尋ねる時は、まず自分の意見を言うのではないか?」

「僕は、シオンが関係しているとは思ってます。今の世界は彼を中心に回ってますから」

「レイトの言うとおり、あのクソガキが一枚噛んでいるのは間違いないだろう。人間と魔族で比べるなら、魔族に利益が多すぎる」

シヴァにはシオンの現在の環境について、レイトが知る限りを教えている。魔王カレンに付き、万が一の場合はレイトたちの敵になるということも。

落胆した様子はなかった。むしろ敵になったことに喜んでいる節すらシヴァにはあった。

絶対の破壊者の二つ名が示す通り、彼に壊せぬものは今まで存在していなかった。唯一壊せなかったのはシオンだけだ。お互いにじゃれあっただけなので、当然と言えば当然なのだが、彼と本気でじゃれあえるだけの頑丈さを持つ人間は今までただの一人もいなかった。それは無敵の嵐姫ことルドラはもちろん、無敗の剣帝であるレイトも同様である。シオンとの戦闘を誰よりも楽しみにしているのは、間違いなく絶対の破壊者なのだ。

「対魔族国家でしたからね。戦争を起こす計画もあったみたいですし」

ヤマト帝国が勇者を集めていた理由は、魔族との戦争に備えてだ。備えが済めば、今度は不安要素を排除したいと考える。

魔族の次の矛先となることを恐れていた一部の国を除き、魔族に降り注ぐメリットは人間たちの比ではない。だから大臣連中も魔族の仕業だと考えているのだ。

「だが、短時間全部を終わらせたと報告が出ている。そうなると、クソガキの仕業である可能性が一番高いのではないか?」

「そうですね。アナタ以外で行える人間だと、シオンしかいない」

シヴァが重い腰を上げれば、シオンと同等、もしかしたら一般人を避難させる時間を割いたシオンよりも早く解決していたかもしれない。

他に出来る可能性があるとすれば、魔王であるカレンぐらいのものだ。レイトにはまだ不可能だった。

「なんだ、お前もそう思っていたのか」

「シオンならやるだろうと、何か確信めいたものがありましたから」

レイトはヤマト帝国を煩わしく思っていた。しつこく勧誘してくるかの国は、アイリスの誘拐という道から外れた行為を行ったりもしたのだ。いずれ潰そうとは考えていた。

もしかしたら、シオンが事前にその考えを看破していたのではないか。レイトには不思議とそう思えた。もしそうだとしたら、彼が手を汚した理由は一つだけ。レイトを守るため。

(君には守ってもらってばかりだ。だからこそ、僕は君を超えたい)

レイトは大臣の鳴き声をBGMに、考えを確固たるものにした。

(なーんて、あるわけないよね。神様じゃないんだから)

レイトはシオンが神になったことをまだ知らなかった。

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