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シオン無しで進めよう回

ボクの朝は、シオンを呼ぶ事から始まる。

いつも、朝まで魔法で作った人形相手に、戦い続けているからだ。

集中したいから、ボクが呼ぶまでは続けたいんだってさ。

でも、今日は違う。

今日は、アイリス逹に朝ご飯を誘われたんだ。

だから、もう行かないとね。

シオンはどうするって?

ナンノコトカ、ワカラナイナ〜。

まぁ、シオンはなんとかなるでしょ。

ボクは、根拠もなくシオンを信頼して、部屋から出た。



ボクは、扉をノックする。

「おはようございます、カレン」

アイリスが扉を開けてくれた。

「いいにおいだね」

部屋の奥からは、料理のにおいがしていた。

アイリスは、まだ見ぬ料理に心躍らせているボクを見て、微笑んだ。

「そろそろ来ると思ってましたからね。ノエルと準備してたんですよ」

アイリスはボクの手をとる。

「さあ、こっちですよ」

ボクはアイリスについて行った。

「これ全部、二人で作ったの?」

テーブルの上には、さまざまな料理が並んでいた。

視覚から襲う味の数々に、ボクは少し頭が痛くなった。

「うん?カレンには少しキツかったか?」

最後であろう料理を運びながら、ノエルも部屋に入ってきた。

持っていた皿をテーブルの空いている場所に置いたノエルは、そのままお皿の向きを微妙に変える。

あれ?さっきまでの視覚を責める味がなくなった。

「この料理の極意は、どこから見せるかによっても変わってくるところなんです」

少し困惑するボクを、アイリスが助け舟を出してくれた。

まあ確かに、今考える事ではないよね。

こんなに美味しそうな料理達がいるんだからさ。

「いただきま~す!」

「「召し上がれ」」

そして、ボク達は料理を食べ始めた。



「あ~、美味しかった」

ボクは、おなかをさする。

「やっぱり、シオンの料理より美味しいね」

ボクの言葉に、二人は対称的な反応をした。

「当然だ。グラシス家の料理長の名は伊達じゃないからな」

ノエルは素直に喜んだ表情を浮かべ、

「そ、そんな事ないですよ」

アイリスは、両手を前に出し、謙遜した。

その後もボクとノエルがいくら褒めても、アイリスの意見は変わらなかった。

「そろそろ、時間だな」

ノエルが時計に目を向ける。

確かに、今から準備をすれば丁度いい時間になるかな。

・・・シオンはちゃんと学校に行ったよね?

「それで、話って何?」

ボクが、今日アイリス達に呼ばれたのは、話があるから、らしい。

時間がないなら、ちゃんと本題に入らないとね。

ボクを呼んだ張本人であるアイリスは、ノエルに視線を向ける。

「それじゃあ、準備をしてこようかなっと」

アイリスの考えを読み取ったノエルは、そのまま部屋を出た。

「単刀直入に聞きますね。貴女、シオンの事が好きでしょ?」

・・・え?

「えええええええぇえぇぇぇぇぇぇええ!?気付いてたの?」

「当たり前でしょ、カレンは分かりやすいんだから」

アイリスのいつもの微笑にからかいの色が混ざる。

でも、アイリスに気付かれていたなら、シオンも気付いているのかな?

「シオンは気付いてないと思いますよ。あの人は鈍感みたいですし」

どこかで、チートがくしゃみをした。

(どこかで、アイリス達が噂でもしてんのか?)

まったく、その通りの事を予想して。

「で、どうなの?」

アイリスはあえて、ボクの言葉から聞きたいようだ。

「・・・うん」

ボクは、顔が熱くなっているのを感じながらも、頷いた。

「やっぱりね」

アイリスは自分の考えが正しかった事を喜んだ。

でも、

「負けないよ」

アイリスも、シオンに思いを寄せている事は知っているんだからね。

ボクの想いを知っていたんだったら、遠慮はしないよ。

ボクも全力でシオンを振り向かせて見せる。

宣戦布告を受けたアイリスは表情を改めた。

「私も負けない」

彼女はボクの親友だ。

そして、今この時を持って、ボク達は最大の敵になった。



二人を見送ったボクは、一人シオンの部屋に戻ってきていた。

部屋のテーブルに、置き手紙で、

〔帰ったら、覚えてろよ〕

と書かれてあったのは気にしない。気にしたら負けなんだ。

ボクは、シオンのお仕置きに体の震えを感じながらも、机に向かっていた。

「う~ん、手紙って何を書けばいいのかな?」

ボクは別れ際にアイリスから宿題を出されていた。

勝負の為に手紙を書いて、二人で同時にシオンに出すんだってさ。

そして、ボク達の前で、シオンに答えを出させる。

まさに、戦いの決着をつけるには、ふさわしい方法だとは思う。

思うんだけど、ボクは筆の動きが滞っていた。

カレンとしてボクが、生まれてから一度も手紙を書いた事がないからだ。

魔王として生まれたボクは、学校に行く事もなかったし、同年代の友人もいない。

そんなボクが手紙を書いたとしても、魔王の職務としてだけだった。

だから、書けない。書く事が出来ない。

魔王としてではなく、このボク自身であるカレンとしての手紙の書き方が分からなから。

「皆なら分かるかな?」

ふと、思った。

ボクの家族達なら、書き方を教えてくれるかも知れない。

ボクは、家族の待つ魔王城に向かった。



「それなら、思いをぶつけなさい」

ボクの部下であるジンは、説明を聞いた上で、あっさりと告げた。

ジンは四天王の中では、最強の地位を持ち、魔族全体でもボクの次に強い人だ。

彼は、ボクの世話役として、古くから仕えており、ボクがもっとも信頼している。

信頼しているからこそ、最初に相談に来たのに、

「それが出来たら、相談なんかしないよ」

実際にそれが出来ないから、ボクはここに帰ってきたんだからね。

いつもの事だけど、もうちょっと分かりやすく説明してよ。

「そんな事は許さんぞ」

ボクとジンの話を聞いていたのか、ドギーが唐突に話に入ってきた。

ドギーは筋肉の塊だ。

その筋肉の壁を破る事は容易ではなく、魔族の中ではボクとジンだけしか突き破るは出来なかった。

多分、シオンなら簡単に突き破れるんだろうけどね。

改めて、シオンがどれだけ無茶苦茶な存在なのかを理解したボクは、思わず苦笑し。

そんなボクの元に、一人の男が髪を手で後ろにかきながら現れた。

「そうだよ、カレン。そんな事より結婚しよう」

「キモい」

この金髪のオールバックの名前は、フォイド。

四天王随一の頭脳を持つ、冷酷なる策士だ。

そして、ボクの幼馴染でもある吸血鬼だ。

もちろん、魔族では力を持つものこそが正義だ。

そんな中を、策のみで生き抜いた彼の能力自体はボクも認めている。

でも、それとこれとは話が別だ。

だから、ボクがフォイドを窓の外に投げ捨てる事も仕方ないよね。

どうせ、フォイドは単純な打撃ぐらいじゃ死なないからさ。

そして、ボクは歩き出す。

ジンやドギーから、まともなアドバイスがもらえるとは思えない。

ジンは話が難しくて分からないし、ドギーに至っては論外だからね。

「あ、カレン様。久しぶりね」

ボクが足を向けたのは、四天王達の執務室。

入ってすぐに、一人部屋で書類仕事をしていたリザに声をかけられた。

リザはボクの一番の相談相手にして、四天王の一人でもあるリザードマンの女性。

ボクが事情を説明してすぐに、

「ふ~ん、カレン様はその人の事をどう思っているの?」

リザは尋ねた。

ほら、この時点で他3人とは違うじゃん。

あの3人は、質問もなかったからね。

「べ、別にシオンの事なんて好きじゃないんだからね!」

「ツンデレ乙」

シオンに教えてもらったツンデレ?をやってみたら、即答で言い返された。

まさか、リザも知ってるの?

「そうじゃないでしょ?」

リザはボクの顔を覗き込む。

あまり見つめないでほしいな。

昔から、リザの顔は怖いからさ。睨まれているような気分になるんだよね。

「その人の事を思い浮かべて最初に想った事を、カレン様の言葉で表現すればいいよ」

ボクの言葉?

そんなもので、シオンに伝わるのかな?

「もし、カレン様の言うとおりの人なら、ちゃんと分かってもらえるから」

リザは微笑む。

昔から見てきた、ボクに何かを教えるときの癖だ。

そして、これ以上は教える事がないという、意思表示でもある。

ここから先は、ボク自身で見つけろという事だね。

「分かった。後は、ボクで頑張ってみる」

「じゃあね」

ボクは、シオンの部屋に転移した。

「・・・貴女は、幸せになってね」

その時のリザの悲しそうな顔と言葉は、なぜか印象的だった。



よし、書けた!

書き始めたのは昼ごろだったはずなのに、窓の外の景色は赤く染まっていた。

もうこんなに時間が経っていたんだ、と人ごとのように思った。

これだけ時間がかかっても、ボクは書き終えたんだ。

ボクは、自分の成果を見ながら、やり遂げたという達成感を味わっていた。

これなら、シオンにもボクの想いは伝わるかな?

「「ただいま~」」

扉の開く音と共に、二人の声が聞こえてきた。

まだ、彼らには見られてはいけないものだからね。

ボクは、持っていた手紙を机の引き出しに押し込む。

「おかえり~」

ボクとアイリスは、どちらが選ばれるのだろう?

ボクだったらいいのにな。

二人を出迎えながらも、ボクは密かに願った。

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