デザートは別腹(ただし、美人に限る)
俺は飛んできた赤黒い衝撃波を、上に逸らす事で避ける。
「俺流剣術、春水」
お返しとばかりに距離を一気に詰め、持っていた刀を振り下ろす。
予想通り、俺の攻撃は後ろにさがる事で避けられた。
相手が後ろにさがりながらも、剣を振りかぶっている姿を見て、俺は舌打ちを残し最短距離を貫く。
そして、響く金属音。
俺たちは位置が入れ換わっていた。
俺の突きを、相手が逸らしたからだ。
「もう、落ち着けって」
「うるさい、バカ!」
俺たちは、一言だけ言葉を交わして、ほぼ同時に動き出す。
俺は今、カレンと喧嘩の真っ最中だ。
しかし、チートと魔王の喧嘩は、口喧嘩で終わるようなものでもなかった。
気が付いたら俺たちは本気ではないとはいえ、殺し合いにまで発展していたのだ。
カレンは、俺を殺せない事は知っているし、俺もカレンを殺すつもりがないけど。
カレンが激怒している理由は、カクカクシカジカだ。
まあ、思い出していった方が早いよな。
「仕事が終わらない」
俺は、会議に参加しなかった罰として、オーバーランク逹の書類仕事を一人でしてた。
これは、恒例の罰ゲームとなっているから、拒否をする事は出来なかった。
決してルドラさんが怖かったからじゃないぞ。
「ハァ」
俺は誰に言い訳しているんだろうな。
早く、書類を片付けるとするか。
俺は、ため息を合図に仕事のペースをあげる。
「終わりそう?」
カレンが部屋に入ってきた。
「見てわからないか?」
俺の机の上には書類の山が築かれている。
もちろん、全て手付かずだ。
これでも、半分は終わらせているんだけどな。
「分かるけど、念のためだよ」
カレンは苦笑した。
朝から仕事をしている俺の機嫌が、最高に悪い事を察してくれたんだろう。
「まあ、仕事を頑張ってね。ボクはケーキを食べてくるから」
ケーキ?
それは、冷蔵庫に入れてあったものじゃないだろうな?
もし、そうなら俺が食っちまったぞ。
カレンの叫び声が聞こえた時、俺は自身の予感が正しい事を確信した。
どうするかな?
カレンとの鍔迫り合いの中、力を入れる事で離れる。
俺を殺せないと知っているはずだが、カレンは本気で殺気をぶつけてくる。
仮にも魔王が本気で殺しにかかってきてるんだ。
こちらも、それなりに本気で対処するしかない。
ただ、チートである俺からすれば、魔王も余裕を持って殺す事が出来る。
つまり、本気を出さないといけない相手を前に、手加減をしないといけない状況なだ。
「もう、落ち着きなよ!」
なおも、高速で剣を交わす俺たちの間に、レイトが割り込んだ。
いくら、勇者と言ってもまだカレンに勝つ事は出来ない。
簡単に言うと、レイトは瞬殺された。
いや、死んではいないが、俺たちの戦いには混じる事は出来なくなった。
まさか、流れ弾に当たるとは思わなかったな。
しっかりしろよ、主人公だろ?
そのまま、直線上にいた俺まで衝撃波が迫ってきたが、上に飛ぶ事で避ける。
飛んだ先には、カレンが剣を振りかぶって待機していた。
「ハァッ!」
俺は上にいるカレンに刀を振り下ろす。
今までで一番甲高い音と共に、衝撃波が俺たちを襲った。
衝撃波に耐えるのではなく、飛ばされる事でカレンとの距離をとる。
その間に、空中に一人残ったカレンを無数の矢が狙う。
サンキュー、アイリス。
「邪魔、だよ!!」
アイリスの矢は、カレンが剣を横に一振りする事で全て消された。
その隙を見逃す俺ではない。
刀の柄でカレンを気絶させようと接近する俺に視界に、カレンが持っているものと別の剣が映った。
柄を剣に当てる事で攻撃を避ける事が出来たが、またカレンとの距離が開けてしった。
「ハハァ。お前の好きにはさせないぞ」
俺の邪魔をしたノエルは、そのまま星になった。
空中を移動出来ないから、攻撃の威力を流せなかったのだ。
「アイリス、ノエルの面倒を頼む」
唯一無事であるアイリスには、レイトの介抱もしてもらっている。
アイリスに全部を押し付ける事には、少しながら罪悪感が沸くが仕方ない。
アイリスの為にも、早くカレンを止めないとな。
俺は覚悟を決め直しつつ、カレンと向き直す。
カレンはノエルの方向を見ていたが、俺に気付いて視線を向ける。
一瞬の交錯を経て、カレンの雰囲気が変貌した。
すなわち、倒すから殺す戦い方に変えたようだ。
殺気がさっきまでとは段違いになった。
「アナタはユルサナイ」
カレンが消えた。
俺は、ほとんど勘で刀を上に振り上げる。
「な!?」
刀に剣が当たる。
それだけでも驚きなのに、俺はカレンに力負けして宙を舞った。
全力ではないとはいえ、俺を吹き飛ばすだと!?
俺は空中で体をひねり、勢いに身を任せながらも地を滑る事で、カレンから距離をる。
俺は今度こそ言葉を失った。
カレンの周りを紅いナニカが渦巻いていたからだ。
あれは、まさか神力か?
姉さんのような人外や、俺のような特殊な存在じゃないのに、神力を扱えるというか!?
「あなななあななあななななななあななななななあ」
カレンの目には、光が宿っていなかった。
あれだけの神力だ。
カレン自身も制御出来なかったんだと思う。
「ああ全く、楽しくなってきたじゃねぇか」
言葉と共に俺は銀を纏う。
ここから先は、文字通りの死闘だ。
チートな俺の弱点は、神力だけなんだからさ。
一瞬の気の緩みが、俺を殺すことだろう。
この世界に来てから初めての死闘に、俺は口角を緩める。
悪い癖だとは分かっているんだけどな。
そして、俺たちは音よりも早く命を削る。
全方位から、衝撃音だけが鳴り響く。
アイリスは衝撃波に煽られる前髪を押さえる。
音がした方向を見れば、別の場所から音が聞こえる。
さっきからずっとそれの繰り返しだった。
アイリスは、戦いを見る事すら出来ない自分に反抗するように、目を動かし続け。
「・・・これが、二人の全力なんだね」
「大丈夫ですか?」
ポツリと呟くレイトにも目を向ける事はない。
レイトも、二人を目だけでも追うと分かっていたから。
「もう、大丈夫だよ」
アイリスの考えが読めたレイトは、少し悲しそうな顔を浮かべる。
自分ではまだ、彼女を振り向かせる事は出来ない。
そんな事実だけを突き付けられると分かっていたから。
「ちくしょう、悔しいなぁ」
レイトの涙交じりの声が、今も戦いを繰り広げる二人に対してだと思ったアイリス、一度も視線を向ける事はなかった。
俺の拳を紙一重で避けたカレンが蹴りを繰り出す。
俺は銀色の腕でカレンの足を掴んで、そのままカレンの勢いすら使って投げ飛ば。
追撃を加えようと俺はカレンを追うが、紅い衝撃波が行く手を阻む。
俺も銀の衝撃波で相殺するが、その時には既にカレンに距離をとられていた。
決定打が与えられない。
さっきまでと同種で次元の違う膠着状態は、俺の体力を消耗させていった。
当然だよな、神力を使う奴とは戦った事がないのだから。
もう、数える事も億劫な鍔迫り合いの状態から、互いに力を入れる事で離れる。
・・・?妙だな。
カレンに勢いが無くなってきた。
この膠着から抜け出す考えでもあるのかね?
だとしたら、なんとかして阻止しないとな。
そこまで考えて、俺はカレンの動きを見逃さないように注意深く観察する。
しかし、俺の考えは外れたようだ。
カレンは、自身を渦巻く紅い神力を弱めていき、倒れた。
「って、マジか!?」
俺は、慌ててカレンを抱き止める。
言ってはいなかったが、今俺達は空中にいるんだ。
ここから落ちれば、軽度とはいえ、怪我をするだろうからな。
「スゥー、スゥー」
カレンは、静かに寝息を立てる。
気持ち良さそうに寝てるな。驚かせやがって。
「黙っていたら、可愛いのに」
俺の小さな呟きは誰にも届く事はなかった。
翌日。
俺とカレンは街中を歩いていた。
もちろん、目的は俺が食ってしまったケーキを買う事だ。
「ほら、シオンも早く来なよ」
カレンは、待ちきれないようだ。
さっきから、走り出しては俺が追いつくまで待ち、追いつくとまた走り出す。
ずっと、これを繰り返していた。
「そんなに急いでも、ケーキは逃げないって」
俺はペースを変える事もなく、カレンの後に続く。
「ほら、早く~」
俺は、満更でもないため息を残し、カレンを追い続けた。
このときは、ずっとこんな日常が続くと思っていた。
思って、いたんだ。




