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文化祭

「・・・見つけた」

闇の中、ナニカは呟いた。

「彼女は返してもらうぞ」

その声は、恐ろしいほどの感情がこもっていた。

そして、ナニカはそっと闇に混じり、消えていった。



「文化祭の出し物に希望がある奴はいるか~?」

クラスにノエルの声が響く。

仕切り屋の彼女がクラスの先頭に立つのは、当然のことと言えるだろう。

ただ、俺はそんな事を気にしてはいなかった。

問題なのは、なぜ俺が教壇にいるのか、だ。

確かに、俺は運動会の時は、クラスを仕切った。

その時は、俺たちのクラスは、優勝という結果にまでなった。

その事から、俺は前に立たされているのだろう。

あれ、今思えば妥当な理由じゃね?

そんなこんなで、俺がため息をついていると、静寂を迎えたクラスの中、男子生徒手を挙げた。

「やっぱり、メイド喫茶がいいです!!!」

さすが、勇者。俺たちには言えない事を平然と言ってくれた。

もちろん、レイトやリョウのような勇者のことではなく、クラスに一人はいるお調者という意味だ。

このお調子者の言葉に女子達は声を荒げる。

「嫌よ。私たちだけなんて!」

「そうよ。男子達も執事をしなさいよ!」

しかし、女子の論点は、メイド服を着る事ではないようだ。

確かに、このクラスは美男美女が多い。

執事姿が絵になる奴も、そこそこいる事だろう。

もちろん、俺みたいなフツメンのことは最初から省いているからな。

「それじゃ、執事・メイド喫茶でいいか?」

俺の最終確認に、クラスは同意の色を示した。



「ほら、それはあっちに持っていけ」

文化祭の準備が始まった。

クラス代表となった俺とノエルの指示のもと、準備は順調に進んでいった。

本来、クラス一丸となってやるイベントは、サボるやつが出てくるものだ。

しかし、俺たちのクラスには、そんな奴はいなかった。

男子は俺が女子はノエルが、厳しく優しく仕事を与えていったからだ。

そんな俺は今、準備全体の監督をこなしていた。

「シオン、ちょっとこっち来て~」

「うーい」

女子の声に、気の抜けた返事を返し、ケーキ作りを中断した。

「んじゃ、このメニューはコストを下げれるよう検討しといて」

レシピを作るのは、料理が出来る奴、その中でもお菓子作りが得意な奴が中心だっ。

喫茶店とは言っても、学校の中での話だ。

あまり、がっつりとしたメニューよりかは、ケーキなどのデザートに主力を置いたうがいい。

そのほうが、需要もあるからな。

「衣装が出来たんだけど、確認してくれない?」

俺を呼んだ女子生徒は、女性用の衣装を見せてくれた。

衣装といってもメイド服だ。

フリルが少なめで、控えめな印象を与えてくれるメイド服は、グラシス家のデザイを参考にしたものらしい。

「ああ、これで大丈夫だと思うぜ」

これなら、客寄せもしやすいし、着るほうもあまり恥ずかしくはないだろう。

「シオン~」

「はいよー」

悲しい事に、監督である俺に休める時間は存在しないのだ。

俺は、呼ばれたほうに足を向けていった。



「つ、疲れた・・・」

俺は寮にある自室に帰ってきた。

文化祭準備期間中は学校に泊まる事が許可されている。

まあ、敷地内に寮があるから、あまり関係ないけどな。

そんな俺が、部屋に帰ってきた理由は、これだ。

「シ~オ~ン~。おなかすいたよ~」

腹ペコ魔王様のご飯を作るためだ。

この魔王は、料理が出来ない。

練習はしているんだが、この前は台所が吹き飛びかけたほどだ。

だから、カレンをほっておくと餓死してしまう。

さすがに、それまでには魔王城に帰るとは思うが、なにせカレンだ。

帰り方を忘れたとか言いかねんからな。

俺は、疲労が溜まった身体を引きずるように歩く。

「カレン、お前も文化祭に参加するのか?」

台所の横で待機している彼女は、しばし思慮を巡らせ、

「うん、そのつもりだよ」

俺が欲しかった答えをくれた。

「なら、喫茶店を手伝ってくれ。人が足りないんだ」

あえて、メイドという単語は省略した。

それを言えば、断われる可能性がグンと上がるからだ。

「別にいいよ~。ご主人様」

そんな思惑を知らない魔王の返事に、俺は内心安堵していた。

もし、断られたら俺はクラスの連中に血祭りに挙げられるからな。

俺のために、クラスの生贄となってくれ、カレン。

未だに、料理の期待から目を輝かせる少女に、俺は心の内で合掌した。




文化祭、当日。

俺たちのクラスの準備はほとんど終わっていた。

道具などの最終点検は、朝学園に来た段階で終わっている。

後は、学園の制服から、クラスメイトの準備してくれた衣装に着替えるだけだ。

といっても、俺たちは既に着替えている。

クラスメイト達には全員が着替える事、だから覚悟をする事は伝えていた。

なら、なぜ着替えに手間がかかっているか

それは単純に、俺がクラスメイトではない奴らも使うよう指示を出したからだ。

「・・・話が違う」

「なんで、私まで・・・」

彼女らの名前は、カレンとコウ。

俺とレイトの使い魔にして、二人とも超がつくほどの美人だ。

二人は、それぞれ困惑の表情を浮かべていた。

「やっぱり、似合うな」

俺は、少し顔が紅潮している二人を見て、素直な気持ちを称賛の言葉として贈った。

もちろん、彼女らはそんな俺を睨みつける。

俺が、彼女らを巻き込んだ張本人なのだから。

しかし、彼女らは俺の予想外の行動を各自でとった。

「そ、そうかな?」

「レイト様はどう思いますか?」

俺の言葉に、顔をさらに赤くし、各々確認の問いを投げたのだ。

カレンは俺に、コウはレイトへといったかんじだ。

反論の一つでも言われると思っていただけに、予想外だった。

レイトも予想していなかったのか、素っ頓狂な声をあげていた。

「二人とも、よく似合ってますよ」

アイリスが俺たちのフォローをしてくれた。

ただ、ため息をついているという事は、お前は予想が出来ていたのか?

「ええ、マイクテスマイクテス」

放送が新しい空気を作った。

「今日から2日間、文化祭が始まります」

司会の声は、学園中に響いているだろう。

少なくとも、我がクラスは全員が作業を、談笑を止め放送に耳を傾ける。

「皆さんも、この日のために準備を頑張ったことでしょう」

放送の声を聞いているうちに、クラスに熱気の渦がまく。

いや、クラスだけではなく、学園中にこの熱気は広がっていた。

しかし、誰もが熱気を内にしまい、外に出そうとするものはいなかった。

これは、学園の生徒なら誰もが知っている暗黙のルールによるものだ。

「それも、今日という日を楽しむため、盛り上げるための事でしょう」

それは、俺も例外ではない。

冷静を装おってはいるが、俺自身も期待に胸踊らせている事を自覚していた。

「さあ、皆さん。今日という日を楽しみましょう」

生徒達の中には息を勢いよく吸い込むもの、あと少しの我慢と自らの手を強く握りめるものがいた。

「これより、第100回バラマンディ学園文化祭を、開始します」

その言葉を合図に、生徒全員の歓喜の雄たけびが鳴り響いた。



「3番テーブルにケーキ2、コーヒー1だ」

俺の言葉に、厨房担当が悲鳴を上げながらも、注文通りの料理を作っていた。

我がクラスの、執事・メイド喫茶は大繁盛していた。

「喫茶店でケーキでもいかがですか~?」

「かわいい子たちもいますよ~」

それも、売り子を務めてくれている使い魔ズのおかげだ。

文字通り、人外級の美しさを持つ二人に興味を持った客たちが来店してくれる。

そして、俺の友人たちで客たちはリピーターになり、評判を広めてくれる。

もちろん、俺の友人たち以外のクラスメイトも、仕事を頑張っている。

そのサイクルは、俺の計画通りだった。

そんな俺のおもな仕事は、従業員全員のフォローだ。

これは、監督として全体を指示を出していた俺にしか、出来ない仕事なのだ。

とノエルに言われたから仕方なくやったが、地味に辛いぞこれ。

俺以外にも、フォロー専門の生徒は何人かいる。

偶然ではなく、全員が男子生徒だ。

料理も出来ず、特に顔もよくないフツメン以下の存在(俺含む)である生徒たち、俺は彼らにしかできないであろう仕事を与えていた。

「ねぇ、君可愛いね。この後、遊び行こうよ」

「は、離してください」

「お客様一名様、特別コースにご案内」

つまり、勘違いをしだして、女子生徒のセクハラに手を出すゴミの掃除だ。

ゴミは、男子生徒達の手によって、別の教室に連れて行かれた。

俺が、彼らの自由に出来るように、防音の結界を隣の教室に張っているからだ。

「お客様方、店内でのセクハラ行為は禁止しております。くれぐれも注意してくだいね?」

俺は微笑んで礼をする。

昔、お屋敷の執事長を務めている人に、作法は教え込まれたんだ。

自分で言うのもなんだが、綺麗な礼だと思うぜ。

俺の言葉に、少なからず顔を青くしたお客様方は、友人たちのフォローでもとに戻。

さっきから、この繰り返しだった。



「これで、準備は整った」

ナニカの見降ろす先には、さまざまな魔獣があった。

あったと表現したのは、どの魔獣も意思が宿っていなかったからだ。

シオンが倒したスカルドラゴンでさえも少なからず意思があったが、ここにあるのそれがない。

故に静かに、ただそこに存在していた。

「さあ、始めようか。紫音」

その言葉を合図に、魔獣たちは動き出した。

その進む先には、シオン達のいるウオカイナ王国がある。



「どこ行こうかな?」

カレンはどこのクラスが何をしているか書かれたパンフレットを広げた。

俺は、広げられたパンフレットをカレンと共に覗きこむ。

今、俺たちは休憩時間中だった。

今日は、たまたまカレンと共に行動が出来るような休憩時間になっていた。

明日は、アイリスと同じようで、アイリスと明日一緒に回る約束をしていた。

休憩時間は、俺じゃなくノエルの担当だったから、これも偶然によるものだろう。

ノエルがアイリスとの自由時間を俺に譲るとは思えないしな。

(せっかく、ノエルをアイリスと一緒に説得したんだから、今日は楽しまなくゃ!)

俺は、カレンが密かに気合を入れている事も、ノエルとの壮絶な言い争いがあったも知らなかった。

「カレンはどこか行きたいところあるか?」

俺は強いて言うなら、寮に帰って寝たいぞ。

俺の思いは言葉にした途端、文字通り心身共に一刀両断されるだろうから言わな。

「・・・ボクはここに行きたい」

カレンが控えめにパンフレット上に指をさす。

「たこ焼き?」

そこには、たこ焼き~気になるあの子とアツアツに!?~と書かれた文字があっ。

どうでもいいが、これを考えた奴は文化祭で彼女を作りたいんだろうな。

多分、玉砕すると思うが、頑張れよ。

俺は心の中で、おそらく叶わないであろう思いにエールを送った。




「よし、お前ら今日も張り切っていくぞ!」

朝の教室に俺の鼓舞する声が響く。

今日は、文化祭二日目だ。

我がクラス開戦の時は、近づいている。

今日は、昨日の倍の数を準備するよう指示を出しているが、なんとか間に合いそうな。

昨日の時点でかなり名前は売り込めたんだ。

今日も、かなり忙しい事になるだろうからな。

備えあればなんとやらだ。

「よお、調子はどうだ?」

クラスが作業で忙しくなる中、ギルマスが教室に入ってきた。

「・・・シオン」

俺と同じく、準備の指示を出しているノエルもギルマスに気付いたようだ。

「ああ、分かっている」

俺たちの口角が少し上がるなか、ギルマスは空気が変わった事に気付いた。



「・・・メンドクセェ」

執事服を着たギルマスが愚痴をこぼすのを、現場監督の俺が聞き逃すはずもなかった。

「ギルマス、ちゃんと仕事してくれよ」

罰として、俺が持っていた料理の皿を持っていけ。

俺に料理を渡されたギルマスは小さく舌打ちをし、料理を客のもとまで持っていっ。

俺たちのクラスに従業員が一人増えた。

言うまでもないが、ギルマスの事だ。

昨日は、イアン先生のために自由にさせていたから、昨日の分まで働いてもらう。

ギルマスも顔はいい。

しかも、あの態度がきっちり着こなした執事服とギャップがあるようで、客の中で気も出ている。

そのおかげで、今日の客足も順調に伸ばしていた。

今日は、昨日よりも営業時間が短い。

俺たちのクラスだけではなく、学園による指示だった。

その代わり、今日はとあるイベントがある。

学園の美男美女を決める、いわゆるミス・ミスターコンテストだ。

これは、生徒に事前に配られたアンケートに名前を書くものだ。

だから、普段は目立たないような奴が一位を飾ることもあるらしい。

まあ、フツメンの俺には関係ないけどな。

俺はそこで結論付け、また出てきたゴミ掃除をするのだった。



「シオン、ここ入りましょうよ」

俺の隣を歩いていたアイリスに腕を引っ張られ、俺たちは教室に入った。

言い忘れていたが、俺たちは休憩時間も衣装から着替えていない。

ノエルいわく、休憩時間も宣伝をしてくれとの事。

だから、昨日今日と執事服とメイド服を着た生徒が学園をうろついている光景がった。

まあ衣装から着替えないクラスもそれなりにあるようで、廊下はいろいろな衣装を着たで混沌とした光景となっているけどな。

俺たちが入った教室も喫茶店だったようだ。

我がクラスほど混雑をしていなかったので、あっさりと席に座る事が出来た。

「カレンとも、こういうところを回っていたんですか?」

俺たちが注文したものを待っている間、アイリスが唐突に切り出した。

「いや、カレンとは体を動かすような場所ばかり回っていたから、喫茶店とかはってないぞ」

もちろん、ここがつまらないというわけじゃないけどな、と俺は言葉を付け足した。

アイリスが少し悲しそうな顔をしたからだ。

「アイリスこそ、俺なんかと回って楽しいか?」

今朝から、ノエルの目が怖いんだよね。

とは、さすがに言えなかった。

「そんなことはありません!」

アイリスは立ち上がり、俺の言葉を大声で否定した。

「アイリス落ち着けって、な?」

教室にいる人が、みんな見ているからさ。

アイリスも今の状況に気付いたようだ。

少し、顔を赤くして、静かに椅子に座った。

俺は周りに軽く会釈をしてから、改めてアイリスに向きなおす。

「私は、シオンと一緒に回る事が出来て楽しいですよ。シオンは違うのですか?」

アイリスが泣きそうな顔をする。

どうも、俺はこっちの世界に来てから、泣かせてばっかだな。

「そんなことねーよ」

言葉は少なく、気持ちは多大にアイリスに伝えた。

それだけじゃ伝わらないと思ったので、アイリスの頭に手を置く。

本来なら、こんなフラグ建設はしたくないんだけどな。

それ以上に、誰かの泣く顔が見たくないからな。

「分かったか?」

アイリスの頭から手を離す。

アイリスが残念そうな顔を浮かべていたが、俺はあえて見ていないフリをした。



「それでは、これよりミス・ミスターコンテストをはっじめま~す」

生徒全員が体育館に集まっている中、司会の声は元気だった。

生徒たちも司会の声にこたえるように、あふれんばかりの声を送った。

「まずは、男女の各3位ずつを発表します」

ギャラリーの声に満足したのか、司会は何度も頷きながら進行を続ける。

「男子の名前はシオン君、女子はノエルさんで~す」

司会の声を合図に、俺とノエルはステージに上がる。

事前に説明を受けていなければ、さぞ驚いた事だろうな。

「続いて、男女第2位は、リョウ君とアイリスさんです」

やっぱり、リョウが2位か。

だったら、1位はアイツだろうな。

「第1位は、レイト君です!」

黄色い声援が体育館に響き渡る中、俺は一人納得していた。

リョウより上に行ける奴はお前くらいだもんな。当然と言えば当然か。

しかし、女子の1位が予想出来ないな、一体誰なんだろう?

俺が密かに期待しているなか、

「それでは、栄えある女子第1位は・・・」

司会は一度言葉を切った。

「ノア君です!!!」

・・・え?

司会の言葉に野太い雄叫びが聞こえるが、俺たちの耳には届かなかった。

ステージ上に向かってくる生徒は、どう見ても俺の義弟だからだ。

「なんという事でしょう、学園の歴史上初めて、ミス・ミスター共に男子生徒が頂に輝きました」

ステージに上がったノアは、少し緊張しているのか、どこかそわそわしていた。

「女である私も少なからずショックを受けましたが、この子なら文句もありませ」

いや、それは抗議しろよ。

ステージ上にいる全員が同時にそう思った。

「それでは、これをもって文化祭」

司会の言葉を切るように、ブザーがなった。

このブザーは、一般人には避難を意味するものだった。

そして、オーバーランクには王宮に緊急集合するよう命令するものだった。

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