進攻と防衛
「どうした!?」
俺は、レイトを手に王宮に直接転移した。
服装は、俺が黒のローブで、レイトが金色のローブだを着ていた。
これは、オーバーランクに配られる特殊なもので、持ち主の魔法の影響を流すもの。
つまり、持ち主にはこのローブを魔法で破壊する事は出来ないのだ。
もちろん、俺も出来ないし、絶対の破壊者とまで謳われるおっさんでも出来はしな。
ついでに、これを売るだけで国が一つ作れるほどの財産が手に入ると聞いた時は、り払うか真剣に考えたほどだ。
「久しぶりだな、クソガキ」
「おっさんも残念ながら元気そうじゃねぇか」
俺たちは出会ってすぐに睨みあった。
「今は、そんな暇はないでしょ?」
そんな、久しぶりの再会なのに相変わらずの二人にため息をついたルドラさん。
この人を怒らせてはならない事を本能レベルで理解している俺とおっさんは慌てて戦闘態勢を解く。
「あなた方は?」
事情を呑み込めていなかったレイトが疑問を発する。
「お前が、無敗の剣帝か」
「はじめまして、私が無敵の嵐姫で」
「あのさっきから偉そうにしているおっさんが、絶対の破壊者だ」
おっさん、ルドラさん、俺の順番で説明をしてやる。
俺の言葉が気に入らなかったのか、殴りかかってきたおっさんの拳を避けながら、は蹴りをプレゼントする。
残念ながら蹴りを弾かれてしまったが、それも俺のけいか
「ふ た り と も ?」
俺とおっさんは土下座をしていた。
土下座の大会があれば、間違いなく優勝候補と言われるほどの綺麗なものだ。
「ルドラ、ソイツがシヴァの言っていた小僧か?」
今まで空気になっていた男が、口を開いた。
男は白髪が混じった髪をオールバックにしていた。
ちょうど、RPGの王様みたいな顔だな。
「そうですわ、王様」
ルドラさんの声が穏やかなものに戻った。
恐る恐る顔をあげると、そこにはいつもの雰囲気を纏ったルドラさんの微笑があっ。
「ここには、余たちしかおらんのだ。昔のように呼んではくれないか?」
王は静かだが、威厳に満ちた声に悲しみを混ぜた。
「そうだぞ、ルドラ。フィシックの言うとおりにしてやれ」
「あのー、そんな時間があるんですか?」
さすが、勇者。
空気も読まないどころか、会話の流れすらぶった斬るとは俺にはマネできる事ではいな。
確かに、俺も気になってはいたけどさ。
「心配するな、作戦はいつも通りだ。といってもお前らは知らんのだったな」
おっさんは、王とルドラさんの会話に目を向けながら説明をしてくれた。
要約すると、俺たちは個々に別れ、好き勝手に戦う。
そのフォローを騎士団とギルドの連中がしてくれるという事だ。
「俺が南、クソガキが北で無敗の剣帝は東だ」
このウオカイナ王国の首都、ログマは包囲されつつあった。
相手は魔獣らしいが、基本的に魔獣はそこまでの知能はない。
「普通は、魔獣の操作など出来るはずがないからな。俺たちは魔王の関与を疑ってる」
確かに、人間の知らない魔法も魔族なら知っている。
だから、魔族を疑うのは理解できる。
しかし、その考えが間違っている事を俺は知っている。
なにせ、俺の所有する魔法の知識は、この世界のあらゆる魔法についてだ。
その中には当然、魔族や魔王といった人外の使う魔法の知識もある。
その俺が知らない方法を使っているんだ。
魔法は使用されていないだろう。
それ以外の方法は、それこそあり得ない。
この世界は、魔法があって初めて成り立つ世界だ。
言ってみるなら、科学を一切使わずに何万という猛獣を支配しろ、といっているよなものだ。
出来るはずがない。
それに、魔王様は俺の家で遊んでいるんだぞ。
魔王の関与とかあり得るわけないだろ。
まあ、言ったら面倒な事になるから言わないけどな。
「それじゃ、蹂躙を楽しみましょうか」
王との話を終えたらしい、ルドラさんがそうまとめた。
どうでもいいけど、笑顔で言えるセリフじゃないと思うぜ、ルドラさん。
まあ、蹂躙する事になるだろうけどさ。
俺は、密かにため息をついた。
「すごい数だ」
後ろにいた騎士の一人が小さく呟いた。
本来なら、敵を前にした兵士が口にする言葉ではないのだが、他の騎士たちも同じうな状態だった。
《そろそろ、結界を張ります》
ルドラさんの声が全ての兵士の耳に届いた。
これが、ルドラさんの得意魔法の一つ、風による遠話だ。
小規模なものなら、風属性の扱えるものなら誰でも出来る。
しかし、この規模となると、ルドラさんと俺ぐらいしか出来ない。
なぜなら、離れれば離れるほど操作も難しくなるからだ。
ルドラさんの声が終わると、ログマが風の結界で包まれる。
近づくものを斬り裂く結界は、敵の侵入と共に、味方の逃走も許さない。
「それじゃ、隊長さん。後は任せましたよ」
俺は結界を確認した後、その場で少しかがんだ。
そして、その場にクレーターを残して、敵のど真ん中に飛び込んだ。
「さあ、タノシイパーティーを始めようか!!!」
手始めに、手に纏っていた銀を撒き散らす。
銀は雷となり、その近くにいた魔獣の体を焼き斬る。
「よくも、文化祭を邪魔してくれたな、お前らァ!!!」
銀を纏った足を振り抜くと、進路上にいた魔獣は上下を分けて消滅していく。
おかしい。
魔獣は本来、スカルドラゴンのようなアンデッド系を除き、死体が残る。
だから、俺の知る限り黒炎に包まれて消える事はないはずだ。
俺の思考が、答を導きだそうとしているなか、赤黒い衝撃波が襲った。
俺はとっさに上空に逃げたから当たらなかったが、俺の近くにいた魔獣は衝撃波にき込まれて消えた。
「ボクも混ぜてよ。シオン」
衝撃波を放った犯人は、真っ赤な髪をしていた。
「カレン、俺ごと殺すつもりかよ?」
俺は、魔王様に軽口を返す。
おかげさまで、考えていた事を忘れたじゃないか。
「それに、断っても参加するんだろ?」
「当然!!!」
カレンは即答した。
魔王様も、文化祭を邪魔された事に、ご立腹のようだ。
さて、巻き込まれないように気を付けようかな。
「「「「「ガアァァッ!!!」」」」」
存在を忘れられたと思ったのか、魔獣共の大合唱が始まった。
心配するな、お前らの事は、忘れていないからさ。
俺たちは、餌を前にした猛獣の如く笑みを浮かべ、捕食のように殺戮を再開した。
わー、シオン楽しんでるなー。
僕は、左側を見てそう思わざるを得なかった。
魔獣の群れであろう黒い塊の中を、銀色の閃光が輝いていたからだ。
たまに、赤黒い衝撃波も見えるから、カレンも戦っているのかな?
僕は、そこまで考えてため息をついた。
「さあ来い、魔獣共!僕が相手だ!」
なぜなら、似非勇者の面倒を見ないといけないからだ。
コイツ、僕たちが魔獣に対抗する事をどこかで知ったようで、ワザワザここまで来ようだ。
雑魚の癖に、前線に立たないでほしいな。
守るのも面倒なんだよ。
しかも、後ろに下げてもすぐに戻ってくるし、シオンが嫌いなのも理解出来るよ。
コイツ、面倒臭すぎる。
僕は、とりあえず安い挑発にのって、向かってきた魔獣を斬り伏せる。
「お願いだから、下がっててくれない?」
僕は戦いが始まってから、何度も挑戦している交渉を、また試している。
「僕も勇者だ!だから、みんなのために戦うんだ!」
返事は全て同じだった。
勇者だから戦う、そんな下らない事はない。
僕も勇者だから思うんだ。
勇者だから戦うんじゃなく、どんな敵でも戦うから勇者なんじゃないかな?
戦場で守るために戦うというのは、疑問に思わないのかな?
守るために殺すことを矛盾に感じないのかな?
僕は思うんだ。
シオンのように、楽しまないと損なんだよ。
今までの人生は殺し合いと遠い位置で過ごしていたから、ゲーム感覚で戦う事が出るしね。
僕の思考が狂っている事を自覚出来ずに、僕はさらに虐殺を続けた。
モノクはため息をついた。
「ほお、戦場を前にため息をつけるとは、お前も偉くなったものだな」
モノクは苦い顔になった。
彼の元師匠に、咎められたからだ。
「あんな数を見たら、ため息もつきたくなるでしょ?」
元師匠であるシヴァに言い訳が通じない事は分かっていながらも、言わずにはいらなかった。
目の前に広がる魔獣の群れは、ギルドマスターである自分も見た事ないからだ。
「確かにあの数は俺も見た事はないが、だからって指揮官であるお前が堂々とためをついていい理由にはならんぞ」
んな事は分かっていますよ、とは言えなかった。
そんな事を言えば、さらに面倒になるからだ。
「それに、もういないぞ」
シヴァは、左腕を前に出す。
そこからは、白い光線としか呼べないものが放出された。
光線は、進むにつれ分岐していく。
そして、血を走るものも空に逃げだしたものも例外なく、全ての魔獣を貫いた。
「相変わらずっすね。俺の必要ないんじゃないっすか?」
待機している騎士たちの驚嘆の空気を背後に感じているモノクは特に驚いていなった。
これ絶対の破壊者だ。
かつて、壊せぬものなしとまで謳われたこの男なら、この程度は問題ないだろう。
「お前は、後始末を頼む」
シヴァは、返事を聞く前に消えた。
これは目標との距離を壊す事で移動する、シヴァにしかできない移動法だ。
行き先は予想が出来ていたから、驚きはしなかったが、思わず呟きが漏れた。
「・・・メンドクセェ」
そして、モノクは深いため息をついた。
どうも、数が減らないな。
俺とカレンは未だに戦闘を続けていた。
俺は向かってくる大型の狼のような猛獣を蹴り抜く。
その衝撃で近くにいた奴もひき肉になるが、計画通りなので気にしない。
「全然減らないね、どうするシオン?」
カレンも同じ事を思っていたようだ。
殺戮を繰り広げながらも、俺の近くに近づいてきた。
「カレン、お前は少し離れていろ」
カレンの返事を聞く前に、俺はカレンを転移で俺の部屋に飛ばす。
さてと、これなら多少は減るかな?
俺は想像の創造により刀を創った。
そして、鞘に入った刀を腰の横に持ってくる。
「俺流剣術、虚空」
一閃。
俺の視界が赤に埋め尽くされた。
「ゴプッ」
他でもない俺自身の血によってだ。
やっぱり、未完成なだけあるな。右腕が千切れ飛んでしまった。
吐血したところから見て、内臓も潰れているかもしれないな。
だが、その成果もあって俺の周りにいた魔獣はすべて消えていた。
やべえ、血を流しすぎたかな?頭がくらくらする・・ぞ・・・・
「シオン?シオン!?」
誰かの声が聞こえた気がしたが、俺は崩れ落ちた。
「・・・知らない天井だ」
俺はゆっくりと目を開けた。
ここは・・病室か?
・・・ああ、そうか。
俺は、また倒れたのか。まさかこっちの世界でも倒れるとは思わなかったな。
「目覚めたか」
俺が部屋を見渡すと、窓際に体重を預けるおっさんがいた。
「目覚めにあんたの顔を見るとはな。我ながら不幸を恨むぜ」
俺の軽口を無視して、おっさんは話を続ける。
「襲撃は無事退けた。こちらの損害は病院に運ばれた一名だけだ」
つまり、俺以外は重傷者もいないという事か。
オーバーランクが4人いたんだから当然の結果だな。
「黒幕は分かったのか?」
おっさんは苦虫を噛み潰したような顔になった。
それだけで俺は察しがついた。
「まだ、見つかっていないか」
疑問ではなく確認。
俺に答えようとしたおっさんは、少なからず驚いたような顔をしていた。
「そうだ。他に聞きたい事はないか?」
俺は首を横に振る。
黒幕も分かっていないなら、聞きたい事もない。
「そうか。だが俺からはあるぞ」
俺は怪訝な顔をした。
おっさんから俺に聞きたい事?そんなものがあるのか?
「お前はなんだ?」
あん?それはいつぞやの質問と同じ意味でいいのか?
「ああ、つまらん冗談はいらんぞ」
おっさんは釘をさしてきた。
つまり、俺の本質についての質問か。
そりゃまた、面倒だな
「俺は俺だ。アイリスの友人の一人で黒夜叉の二つ名を持つシオンだ」
俺の答えには、やはり不満があるようだ。
「お前は腕が千切れたんだ。なのにどうして、また生えている?」
俺の右腕は、元通りになっていた。
それだけじゃない、さっきの戦闘の時に負っていた傷も無くなっている。
「それは俺が転生者だからだ」
俺は隠しきれないと判断した。
もとからおっさんは機会があれば、俺の事を話す予定だったしな。
「なるほどな、だからお前を壊せなかったのか」
俺の話した内容に全ての答えが繋がったのか、おっさんは何度も頷いた。
「まあ、俺も黒幕は知らないんだけどな」
これは、嘘だ。
本当は、姉さんと同じ神格の奴という事までは予想していた。
でも、さすがに姉さんに聞いた事までは言う必要はないと俺は判断した。
俺の話を、真に受けたおっさんは、頭を抱えて消えた。
あれがおっさんの縮地か。
実際にはおっさんの技に名前はない。
ただ、知識として知っていた俺が、名前を付けただけだ。
文字通り、地を縮めるからな。
俺は、また寝なおした。
文化祭に続いて、魔獣による襲撃を受けたんだ。
体力的にも、精神的にも今日は疲れたんだよ。
俺の思考が言い訳じみた事を考えているうちに、俺は眠りについた。




