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107 再起動にはまだ足りない

物事には基本的に始まりと終わりがある。

今回でこの話は終わる。それは決めた事。だから終わる。

そして突然出てきた前回の謎は、明らかになる少しだけ。

だけど勘違いしないでほしい。


「物事とは必ずしも繋がっているかと言えば、そうでもないのだ」


所詮世の中は、そんな物の集合体で出来ているのだから。


 首都と呼ばれる国の中心地から実の所を言えば地図上で平坦な空間と言う限定であるのならば、そこまで離れているわけではない。

 けれど、周囲を天然の山脈と海に囲まれた要塞。その為、この地域に至るまでは僅か数年前まで何日どころか十日以上は掛かると言う難所の一つでもあった。けれど、この天然の要塞がある為に王家の直轄領であり独立自治区の様なままで居ても誰も何とも思わずにいられたと言う経歴を持つのが……。

 レン・ブランドンの家である公爵家の領地である。

 公爵家夫妻がこの地域に半ば逃げ隠れする様に……とは本人達だけが言っているもので、実際に周囲から見れば確実に王家から追われた扱いになっている彼らは王都からの目が届かないのを良い事に好き勝手に……自由に闊達(かったつ)と過ごしていた。農民と混じって鍬を振るう公爵や、地域の妻達に混じって内職に励む公爵夫人。

 周囲がどう言おうが、二人は確実に……人生を謳歌していたと言っても良い。

 それが、レンが生まれるずっと昔の話。

 詳しい事情を知る者は、王都には居ない。公爵夫妻も決して黙して語る事はなく、それで居て公爵夫妻は出入りの商人に混じってあちこちを旅する事も平気で行う豪胆さを持っていた。それは跡継ぎである公爵子息が二人ほど生まれた後でも変わる事はなく、次男は幼い為に旅に連れ出され、流石に一家揃って出奔したと噂されても困るので修行と言われて次男よりは長く生きている長男が悲鳴を上げるにも関わらず一人取り残されると言うのが割りと普通になるのに時間は掛からず。


 そんな旅の最中、公爵一行は「よくある光景」に出会った。

 盗賊に襲われたらしい行商人の、無残な姿だ。悲しい事ではあるが、こんな事は公爵領の内側ならばともかく国境と言っても過言ではない扱いをされている山脈に入った時点では本当に「よくある事」なのだ。

 長い歴史の中で生まれた、様々な闇や(こご)りと言ったものにより生じる様々な事象が盗賊に落ちる者達を作る事など珍しくも何ともない。貴族は下々の事として関わりあうのを嫌い、普通の人々ですら逃げ惑う。可能な限りそんな目に合いたくない……決して、悪い事ではない。非道な事でもない、それが普通なのが世界と言うものなのだから。

 でも、公爵夫妻は違った。

 とは言っても、出来る事は限りなく少ない。

 彼らは所詮、単なる一個人に過ぎない。彼らが王都から半ば追われる様にして拝領した領地に引っ込んだ理由の一つは、そこにあるともないとも言われているが……真実は定かではない。

 出来る事は少ないだけで全く存在しないわけではない公爵夫妻は、護衛と共に襲われて亡くなった人達を埋葬し残された遺物をかき集め……持ち主が判明すれば家族に送るし、判らなければ領地に持ち帰り領民の役に立てると言うのが公爵夫妻の方針だ。そんな中、公爵夫妻は己の下の息子が姿を消している事に気がついた。

 次男は未だ幼い事も含めて子供らしい無邪気さと、抑え切れない好奇心を兼ね備えている。どちらに似ても顔かたちからして将来有望と言われている自慢の息子……とは言っても、まだまだ幼い部類に入る次男が山の中で一人きりになって何が出来ると言うものではない為、護衛二人がその場を離れて探しに行く。

 本来ならば、護衛たる者が雇い主の側を離れるのは言語道断と言う話もあるが。近隣に敵となる様な存在が感じられないと言うのと下手に数が多いからと言って幼い子供の隠れ場所を探し当てるかと言われればそうでもないと言う事実に基づいていた。

 よって、護衛二人は次男を探しに出向き。

 そこで何があったのか、正確な所を知る者はこれまた存在しない。

 ただ、僅かに判っている事がある事はある。

 それまで護衛として雇われていた一組の男女が、メイドと執事として雇われたと言う事。そのメイドと執事は夫婦で短期間でメイド長と執事長にまで上り詰め、幼い子供が存在すると言う事。

 メイド長と執事長の子供は、年齢が同じ為に公爵の次男坊の遊び相手として領主の城に住み込み。子息兄弟に気に入られた子供は仲良く公爵家と共に過ごしていると言う。

 それまでも公爵夫婦の、貴族からして見ると「奇行」は暫く続いたが……正式にメイド長と執事長が現在の人物に変わり次男が旅に着いていかなくなり。同時に、長男が不在になる事が増えた頃には領内だけで済む様になった……ちなみに、今でも領内では公爵夫妻の言動は続いている。

 原因はそこだけではないだろう、けれど領内での公爵夫妻の人気はなかなかのものだ。

 公爵家次男、レン・ブランドンが6歳になる頃には正式に後継者と認められた。


「……レン」

 天然の要塞に囲まれた公爵領は、王都の現実を知らない人々に言わせれば気候の厳しく生産性に乏しく、王都から直線距離はともかく簡単には行き来が出来ない不便せいから蔑みの色を含ませた同情を浴びる事が少なくない。

 実際の住民にしてみれば、王都の様な煩わしい決まりごともほとんどなく。気をつけてさえいれば海にも山にも豊富な恵みは幾らでも分け与えて貰う事は出来るし、そんな事が普通に生きてきた人々にしてみれば不便だといわれる場所は少しの知恵と工夫をすれば幾らでも改善が出来ると言う事実を当然の事として受け止めてきただけに外部の者の言動が理解出来ない。

「レン」

 そんな中、公爵領地の中央に位置する公爵家を含めて街を一望出来る場所に居た。

 常ならば長い、フードの着いた長衣を身に纏い眼鏡をかけ、ほとんどろうに口を利く事もない存在として尾それら得れている……その名をスターレット・ドーン・クリムゾン。

 紅の星とされ、黄金の夜明、夜明のクリムゾンと称される歴史に名を刻み続けていると言われている……少女だ。彼女の持つ知識から様々な物が生み出されては人々の生活を変えて行っている……それが必ずしも全面的に受け入れられているとは限らないけれど、それでも周囲の言葉など関係ないとばかりにわが道を進んでいる。

「いい加減にして欲しいんだけど……レン・ブランドン?」


 びくり


 領地街を一望出来る場所は、ドーンにとってお気に入りの場所だ。

 様々な理由により一部の者を除いた人達によって疎まれているドーンには関係ないと言う立ち位置を貫いているが、理由の半分以上は本人の意思でも無ければ意志でもない。

「怒ってる……?」

 幾ら、両親を雇っている家の子息だからと言ってドーンにはたいした関係はない。そもそも、当の公爵夫婦から「息子(の教育)をよろしく」と言われているのだ。普通の神経の持主ならば頭を抱えて天を仰いだ所で何の不思議もないし、ドーンは普通の理性ある常識人だ。

 こんな事、学園都市で普段ドーンと接することのある人々からしてみれば驚天動地の出来事だ。

「怒られる様な事をしたの、レンは?」

 今、ドーンは常にまとい身を隠している長衣も眼鏡も付けては居ない。元々、幾つもの魔法の掛かった品物である為に簡単に作れる代物ではないと言うのが最大の理由だ。

 けれど、金の髪と碧の瞳を晒してシャツにパンツ、さらりと首にかけているリボンタイ姿のままで外出しようとしたドーンに酷く腹を立てたのである。もっとも、本人は意に介さずドーンの立場を知っている者達は二人を微笑ましく見つめるだけで特に何かをしようとはしない……本来ならば主に対して叱責するのは第三者であるドーンがやるべき事ではないとは思うが、公爵夫妻直々に頼まれている事や他の人ではレンを甘やかしてしまうのは先刻承知。ラーカイル医師でも居れば話は変わるかも知れないが、レンは比較的ラーカイル医師には無駄に張り合っている所があると踏んでいるので言う事は聞かないだろう。

 結果、そうなるとレンを相手に対等に渡り合えるのはドーンだけとなる。

「ドーンは……知ってたの?」


 ぎゅう


 ドーンがお気に入りの場所は、小高い場所にある。

 寝転がるも良し、起きているもよし、しかも街や城からこちらを見る事は困難な位置になっていると言う場所。

 もし、ドーンが遠隔距離からこの街を狙い撃ちをすると言う前提ならば一番にこの場所を選ぶと断言出来るほどのベストポジション。ただし、誰も知らないというわけではないから早急に候補から外すことになるだろうが。

 そんな場所で、冊子を読んでいたドーンに背後から手を回してきたのはレンだ。ドーンは気配からかなり前でも気が付いていたが、それでも逃げるとか抵抗する事はしない。面倒だからと言うのは理由の一つだが。

「ねえ、レン。初めて会った時の事を覚えている?」

「覚えてる……その場に咲いていた花の数だって覚えてる」

 背後からぎゅうぎゅうに抱きしめられていても、普段ならばレンとラーカイルが用意した長衣の力でかかる力はほぼ皆無と言う状況だが今は違う。そんな事も忘れているのか、レンの腕は力強い。

「でも私は……昔の事を何一つ知らない。父様や母様の娘だと言われても今でも、その実感はない」

 ドーンは常に感情が希薄で、そのあたりも女性から嫌われる原因の一つと成っている。

 幼い頃の記憶。生まれて数年分とは言え、その人物の根源を司るのが幼い頃の記憶だと言うのに、それを持ち合わせていないドーンはさぞかし奇異に映った事だろう。

「私の知っている人物の中に卜部(うらべ)邦之(くにゆき)と言う人物が居て、その人物は少し違う気がしたけど秋水によく似ていた。

 同じ人かどうかは判らない、別人じゃないかと思うけど同じ人かも知れない。でも違う顔をしている。

 私の記憶の中で、卜部邦之は(ほう)ちゃんって呼ばれてた。親しかったのかどうかも判らない」

 レンが背後からぎゅうぎゅうと締め付けているので、レンとドーンのお互いの顔は見えないけれど……レンは何か苦しんでいるかの様な顔をしていたし、ドーンはどこか遠くを見つめている顔をしていた。

 秋水には記憶の幾つかが欠落していたのは判っていた、その中で偶然ドーンの「記憶」と不思議な一致をしていた可能性があるかと言われれば、偶然にしては有りえないと言う話もあるだろう。

「秋水は私を見ても、何も言わなかった。だから、きっと秋水は卜部邦之ではないんだと思った」

 でも。

 そう続ける事が、ドーンには出来ない。

 あの秋水が記憶の中にある卜部邦之と同じ人物ではないだろうと言う核心はあるけれど、だからと言って記憶が欠如している部分がある秋水本人に聞いた所で確証はない……何より、当の本人は今深い眠りについている。

「シュースイは……どうなってるの」

「判らない。でも、きっと……あの触手を取り込んだことによって元の秋水でも無ければ触手でもないんだと思う。最初に、触手を取り込んだ時からもう違ってた。私達の知っている秋水ではない……と、思う。

 親方も、最初に見た時とは秋水は変質していると言って居た。元々、秋水はあの姿になってから長い時間を保っていられるわけではなかった。魔力が尽きれば、きっといずれは元の物体に戻っていたんだと思う……アサイーは普通の植物より魔力を吸収する植物。それにより、本来は魔獣避けにも使われていた。でも、それを薬として使う事で魔力過多の症状を起こす事もあって、戒めの意味を込めて『悪魔の実』とあの地方では呼ばれていたんだけど……」

 呆れれば良いのか、それとも感心すれば良いのか判らない。

 他の誰にも想像もしなかった事をドーンは思案し、それが事実だと認識したからこそ秋水に魔力が豊富に含まれている……少なくとも、普通の人が生のままで口にするには問題のある植物を摂取させていた事になる。別に、生で丸齧りした所で即時効果が発揮するわけではないが、組み合わせと調理法次第で幾らかの方法はあると言う。しかし、丸齧りしてもそのままでは普通の味覚では美味しいとは感じられない所も一般的に出回らなかった理由の一つらしい。

「どうして、他の部分の傷は治ってたのに胸の傷は残ってるの?」

「……これも想像だけど、きっと秋水自身が破損したんだと思う。だから、きっと元の秋水はもういない事の理由の一つとして、触手が秋水を複製し自我の一部とした結果が、そうなんじゃないか……って、痛いよ」


 ひょい


「うわっ!」

 座って締め付けるように抱きしめられていただけの筈のドーンが、何をしたのか気が付けばレンは体が宙に浮かんで世界が逆さまになっているのが判った。そのままでは地面に激突するかと思われたが、くるりと反転してドーンの目の前に降り立つ。

「危ないなあ……僕じゃなかったら怪我しちゃうよ?」

 と言うより、下手すると首の骨を折って死んでいるだろう。

「いつまでも締め付けるから痛いわ肩こるわで大変なんだもの……さて、そろそろ私は戻るわ。

 父様と母様に遅くらなら無い様に言われてるし、カーラがこっちに来るそうだから」

「……どういう事?」

 途端に渋面となった顔を隠しもしないのは、信頼の証だと知ってはいるが……正直、面倒くさいことになりそうだとドーンが思っていたのは口にしないだけの話。

「ええ、カーラが仕事ついでにテール君とヒルデちゃんと一緒に遊びに来てくれるんですって」

「……聞いてないんだけど?」

「あら、そうなの? アインスも課題の提出を兼ねてこっちに来るって言うからおもてなしの支度をしなくちゃいけないのよね、忙しくなるわ」

「そんなのしなくていいじゃん! てか、何ソレ! カーラが弟妹連れて来るって……アインスが来るって!」

「ラーカイル先生の代わりに経過報告を持ってきてくれるそうだから、私がお相手しなくちゃ失礼じゃない」

「そのラーカイルだって、昨日までこっちにいたじゃん! マリア・ビルカだって急に来てたし! なんだって入れ替わり立ち替わり……カーラだって、あんなに僕の方に来てたのに!」

「あら、焼餅? 男の焼餅ってみっともないと思うな」

 せっかく実家に帰って来たと言うのに、思ったより自由な時間が取れない事に溜まっている感情を理解して。

 だと言うのに、肝心の相手は何も考えていない様な表情をして。

 しかも、材料がない為に作れない魔具の為に素顔を晒して平気な顔で街中を歩いているから噂になっていて……そんな所も、当の本人は全て無視。

 ついでに、ここのところ急に増えたドーンを尋ねてきた人達の事を思うと心が千路に乱れて。

「でもね、レン。

 私だって焼餅くらい焼くんだよ? 皆、人の事を出汁にして結局レンに会いに来てるんだもの。それくらいなら、最初からレンに会いに来るって言ってくれればいいのにね?」

「え……いや、それ違うから! て、ちょっとドーン!」


 幼い頃の記憶がないと言う、スターレット・ドーン・クリムゾン。

 東宝の公爵領出身、幼い頃より天災とも言われる天才・鬼才の集まる学園都市で最年少の研究室保持者にして数々の異名を持つギルド上級ランク保持者。

 その姿、常に長衣と眼鏡に包まれ素顔を見た者は数限りなく少なく、言動は異彩を放つ。

 得体の知れなさの為に決して味方は多くはないが、権力者に顔が効くと言う特性を持つが故に一般人からの評判は更に良くない。

 出身地や数多く名乗りをあげる後援者の数は多いが、本人は性別すら知られていない謎多き人物。


 常にドーンへまとわり着いていると言うのが、学園都市の不思議の一つと数えられているレンにとって。

 ドーンの鈍感さ加減が一番のライバル……と言う事なのかも、知れない。



END

これにて閉幕と相成りました。

あえて言うのならば「始まりと始まりの始まり」と言う所でしょうか?

幾らでも広げることの出来る世界、幾らでも掘り下げようと思えば出来る設定。

今後の事は効かれれば応えられる程度には設定が沢山あります、でも入力するかどうかは別問題です。やる気になったらやるでしょう。

酷いですか?非道ですか?駄目ですか?

でも、とりあえずここで終わりです。


2012年12月31日23時。

予約投稿にて。

皆様良いお年を。

















あ、でも番外編くらいなら上げるかもしれません。

いや、ここに来て削った没とか丸丸入れ替えた話とかあるので。

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