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104 そろそろ起動しましょうか

※ 今回はドーンが活動する程度に想像するとギャグ的な残虐的なシーンがございます。心臓と精神の弱い方は想像をしない様にご覧頂くか、次回更新までお待ち下さい。保証はしませんが。













 秋水は知らなかったが、上級ランク保持者と呼ばれる人達は基本的に秘密主義だ。

 主義、と言うと少々語弊があるが、あらゆる局面の問題から人との付き合いが異常に上手いか非常に希薄になるかの二択になる。そして、割と過去は機密扱いにされる事が多い。

 簡単に言えば、本人はともかく過去に関わった人達を八つ当たりにされたり利用されたりする事も普通にある。 基本、成人した相手を守る義務はギルドにはないので個人の裁量に預けられるが評判が関わってくる為にギルドに入る場合は基本、過去を切り捨てられる。仕事用の個人情報を使用すると言う事だ。

 人とは、隠し立てをされれば余計に目を向けると言う習性がある。

 故にギルドに入る可能性の高いと黙された子供を学園都市等の大都市に幼い頃から預けられると言う風習が各国にあったりする。木を隠すには森の中、と言う言葉が適切だろう。


 で、何が言いたいかと言えば。


 実の所を言えば、ドーンは幼い頃から非常に面倒に巻き込まれていたと言う現実だ。

 はっきり言ってしまうと、人知れずにいい加減にぶち切れたと言うのが正しい……ガス抜きをしている所を見た事がない、とラーカイル医師ならば言うだろう。


「むかつく……」


 吐き出された言葉が、呪いや呪文でなかったのが不思議なほどの声だった。

 後に、ある者は全く何の関係もない時にさらりと語った。かも知れない。


「いい加減にして欲しいんだよね……」


 ぞわりと、全身が冷たい氷で撫でられたかの様な感じをしたのは一部の者だけではなく。

「ど、ドーン……ちょ、一体何を……?」

「やめとけ、アインス……死ぬぞ、下手したら」

 謎の吸盤がびっしり表面についている謎のぶっとい触手ですら、空気が変わったことを感じたらしい。

 つい今の今までランダムに伸びていた触手はドーンから発せられた言葉と共に漏れ出しているらしい空気を感じ取ったらしく、びくりと反応してから一斉に距離を保っている。


 じゃらり


 広げられたドーンの手から、何十本にも渡っている鋼糸が音を立てて落とされたわけだが……一体何本あるのか、作っている過程を見ていたにも関わらず全て繋がっている金属製の糸の長さを知る者は誰も居ない。

「うざいんだよね……」

 特に腕を動かしたようには見えないから、指の力だけで動かしているのか。それとも、指を通して魔力ででも操っているのか、それは指先が長衣の中にあるから見えないけれど。


 しゃらんしゃらんしゃらんしゃらん


 今度は、触手ではなくうねうねと鋼糸が生き物の様にうねりをはじめ。

「逃げろ!」

 慌てたレンと、何かを感じ取ったらしいアインスがその場を飛びのいて秋水の居る位置まで走り飛んだのはタイミングを計っていたのではないかと疑いたくなるほどだ。ちなみに、それは飛んできた二人の形相から「それはない」と判る程度のギリギリのものだった事が即座に判明したが。

「なななななななななななっ!」

「なが多いですよ、アインス君?」

「アレ何っ?」

「はいはい……レン・ブランドン君は剣をこっちに向けないで、アインス君は少し落ち着いて……と言うより、どっちについて二人とも言ってるの?」

 余裕ばっちりな大人に対して、呼吸する息すら節約状態のアインスは今にも死にそうだ。

「状況がわからないんだけど……聞いても良いのかな、この場合?」

「そうですね……私も拝見するのは始めてでございますが、あの状態が『夜明のクリムゾン』の異名の発端となったと言う所でしょうか?」

「うわあ……」

 状況だけ見ると、ドーンの周囲に発生した波が敵対するもの……この場合、触手に対して何枚も連なった剃刀で千枚切りにしていると言う感じだ。正確には、千枚切りとして薄く切り落とした触手を多方向から同じ様に押し寄せた鋼糸により何度も切りつけられる……入れ物に入っていないミキサー状態に近い。よって、本来ならば触手の中に含まれている体液が返り血として浴びせられる筈なのに幾重にも重なり襲い続けている糸の群れが本来ならば素通りする筈の液体すら塞ぐ完全なる防御膜の役割も果たしているのだ。

 故に、ドーンの周囲は血まみれとなっているにも関わらず本人には一滴の雫すら触れる事はない。

 もしも、この対象相手が人の形をしたものであったとしたら……細切れ殺人となるだろう。

「いい加減にしなさい!」

 ほとんど動きらしい動きがなかったドーンだが、声と共に大きく手を振り上げる。

 タイミング的にキャシーの言葉に怒りを覚えたかと一部は怯えたが、当のキャシーは本当に怯えていないのか見えないだけかは不明だ。

 しかして、びくりと反応した人達……主にアインスと秋水の反応は杞憂だった様だ。と言うより、完全に杞憂だった。

 しゃりんしゃりんと金属的に走る音と言うより、地面を這いずり回る音とでも言うのか。そんな音が触手の現れた方向と幾つかの方向へと走って行くわけだが……アインスには状況が秋水以上に飲み込めないらしく「え、何?」ときょときょととしている。

 アインス曰く「狩りの経験から対生物には自信があるけど、それ以外には自信がない」と胸を張っていた所を「無駄に胸を張っても無様さ加減に変更はございませんよ?」とキャシーにさらりと言われて衝撃を受けていたのは遠い昔の話ではない。

「よし、かかった……」


 くん


 ドーンが片腕を上げると、細さの割りに鋼鉄でも切れないとキャシーとラーカイル医師が太鼓判を押した鋼糸は何かを捕まえたかの様にぴんと張った。らしかった。

 何しろ、薄暗い地下水路だ。薄暗いというよりは結構暗いと言う方が正しいのは出入り口からどんどん奥まってゆくと気が付けば暗くなった気がすると言う程度ではあるが。いかに謎多き地下水路とは言っても、やはりどうした所で限界と言うものはあると言う事なのだろう。

「ドーン」

 慌てて駆け寄ったレンの顔は真面目で、秋水がよく見る半ば目が血走っているのではないかと思うほどでも無ければ。アインスが良く知る誰も踏み込む事の出来ない人当たりの良い顔と言うわけでもなく、どちらかと言えばラーカイル医師はその手の顔を見たことはあったが口を開く事はなく……そして、キャシーは黙して語らない。

「怪我は? 疲れたりしてない?」

「……別に」

 つい今し方までの超活動的の言動はどこへやら、一言でぶった切った様子を見てアインスはほっと胸を撫で下ろす。

 普段は滅多にない事だが、ドーンが原因は様々だがぶち切れると言葉が多くなり活動的になる。

 どちらかと言えば、日頃の「これって何っ?」とばかりに人々に倦厭と恐怖と好奇心な目で見られている無口で物静か、必要な事すらほとんど口にせず、たまにふらりと何日も姿を消すドーンの方が慣れているわけで。

「アインス」

 一言のもとにぶった切る、これはアインスの良く知るドーンと言う人物の特徴だ。

 数少ない言葉から、質問の意図を推理するのは仲々に骨が折れる技術だ。

「……ええと、シュースイをはじめ全員無事。だと思います。

 レインさんも、大丈夫ですか?」

「え、ええ……」

 この事態をずっとぽかんと口を開いて見つめていたのは、レインだ。ラーカイル医師が保護していたのか側に居たのは確かだが、誰も声をかけなかったのは余裕がなかったり何と声をかけるべきか判らなかったからだと言う話がある。

 そして、少し首を傾げたように見えたが、ドーンは特にそれ以上の反応を返す事なく一歩を踏み出した。

 ドーンの場合、クイズと異なり正解でも不正解でも反応がほとんどないと言う恐ろしい事が日常的に行われているので慣れていない者からすれば「どうしたものか……」と悩むのは日常だったりする。

「ドーン?」

「むかついた」

 数少ない利点としては……ドーンが言葉を放つ時とは、割と荒唐無稽で斜めの更に上の事を語らないと言うこと程度だろうか?

「やってられない」

 憮然としたと言う感情が載せられているのだろう事が理解しやすい口調で、ドーンが言う。

 ちまちまと防戦しているのに飽きたとか、そう意味も含まれているんだろうかと言う気がしたのは何故だろうか?

「ええと……とりあえず、レインさんは口を閉じたほうがよくないですか?

 ここ、そこまで空気が良いわけじゃないと思うんですけど」

 理由は判る様な判らない様な気がする……何をそこまで不満に思っているのか、確かに色々と面倒な事になっているのは現在進行形だが。と思うと、何やらドーンから意識を切り離したほうが良いのではないかと言う気がしたアインスは無駄にフォローしたくなった。自衛の為だが。

「え、ええ……皆さん、お強いんですね?」

「いやあ……」

「アインス様は含まれおりませんので、照れるだけ動作の無駄となりますよ?」

「キャシーっ? なんでっ? 俺、あんなに頑張ってたのにっ?」

 アインスが涙目に近い状態で言い出したが、確かに素人目にアインスは前線で頑張って戦っているようには見えたが……強いかと問われるといかがなものかと言う話もある。

 幼い頃から英才教育の一環として帝王学と並び教育された自衛術を身に着けたレンと。ギルド上級ランクのドーンが下級ランクのアインスより実力が劣るかと問われたら否定するだろう。

「努力と結果が結ばれるかと言えばそうでもない……現実とは、常に残酷なものでございます」

「流れても無い涙拭く真似は止めたら?」

「おや、バレましたか……拙い演技をお見せした事をお詫び申し上げます」

 空々しいと言うより、棒読みと言うより、何やら馬鹿にされている気がしてならないのは馬鹿にしているからなのだろう。が、逆立ちした所でアインスにはあらゆる意味でキャシーに勝てるわけはないので歯軋りしたい気持ちはあるが反論は出来ない……するだけ無駄だからだ。

「て、ドーンは先に行こうとしない!」

「アインスの癖にドーンの足を止めるつもり……?」

「レン・ブランドン、その目止めて。何か色々なものに負けたような気になるからストップ、出来たら目を閉じてくれてもいい……キャシー、感情が目に出てる。わざとなのは判るけどレン・ブランドンの真似して蔑んだ目で見ないでくれていいから。あとラーカイル先生、そんな鮮やかな笑顔でどこから出したのか聞きたくない小刀を見えるように出さなくていいです、仕舞ってくださいっていうか……シュースイ助けてくんないっ?」

 そう言えば、このパーティのチームリーダーってアインスだった気がする……と、秋水がどこか遠くを見つめたい気分になったのはともかくとして。

「団体行動乱されると困るんだけど!」

「保たない」

 どこからか「ぐぎぎぎぎっ!」と言う、音なんだか声なんだかよく判らないものが聞こえたと思ったら。

「仕方ない……行きますよ、皆さん。

 だから、そんな物騒なもの仕舞ってくださいよラーカイル先生! 刃物をこっちに向けるな、レン・ブランドン! キャシーもついでに止めてくれると嬉しいですシュースイ!」

 半分以上はどう見ても悲鳴をあげられて、初めて秋水は何かがぱちんと弾ける様に「あ、もしかして今ぼんやりしていたかな?」と言う気になった。

「ええと……そろそろ行くみたいだけど、皆さん大丈夫? て言うか、なんでレインさんは呼んで上げないの?」

「レインさんにこの人達を止めろなんて無茶は、流石に言えないだろうが……」

 ああ、なるほど……などと納得できてしまうのはともかく。いやいや、そこで納得したら悪いんじゃないだろうかと言う気がしないでもないが、そう思っている時点ですでに終わりだと言う事に気がつかない時点でどうかと言う話もあり。

「キャシー? ラーカイル先生?」

 すでに歩き始めてしまったドーンとレンを見てから尋ねると、大人二人は何やらため息をついている様だ。

 レインに至っては、本気で状況についていけなくて困惑しているのが手に取るように大変よく理解出来てしまう。なんだか、こちらが悪い事をした様な気がするのは気のせいだろうか?

「いえ、何でも有りません……いきましょうか、レインさん?」

「え、あ。はい……」

「お手数をおかけしまして、誠に申し訳ございません秋水様」

 おたまとフライ返しは手に持ったままだが、深々と頭を下げるキャシーに秋水も少し悩む。

「はあ……まあ、いいんだけど……」


さて、状況は架橋じゃない佳境に入りました。

勢いで進んできましたが終わりは見えてきました。

常に終わりは寂しいものですが、その前のクライマックスの開始です。


では、次回予告。

「ここに来て思いつきで色々やろうと思ったら、内容が長すぎて削るハメになって来たじゃないですか、何考えてるんですか!」

と言うのは現実に現在進行形です。

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