③
『ああ、そうだわ。わたくしのドレスをティメアにあげるわ』
『……ドレス? 本当に?』
『えぇ、もう着ないもの』
ティメアは目を見開いた。
華やかなパーティーに出たことがなかった自分にとって、ドレスは憧れだ。
(エミリアだけだわ。こんなわたしを気にかけてくれるのは……!)
優しいエミリアに嫉妬などしてはいけない。改めてそう思っていた。
お茶会前日、エミリアからだと彼女の侍女がドレスとアクセサリーを届けてくれた。
(なんて素敵なの……! 夢みたい)
次の日、ティメアはなんとか一人でドレスを着てみる。
不恰好ではあるが、鏡の前の自分が誇らしく思えた。
少し遅れてお茶会の会場に向かうと、エミリアがなぜか泣いていた。
どうして泣いているのか、ティメアにはその理由はわからない。
いつもと違うことといえば、そばに両親がいることだ。
(もしかしてわたしも貴族だと認められたかもしれない!)
意気揚々とエミリアに駆け寄る。
ずっとずっと愛に飢えていたティメアは感激していた。
まるで自分がお姫様になったようで嬉しかったのだ。
喉から手が出るほどに欲しかったものが手に入る。
そう思った瞬間、二人はティメアの横を通り過ぎていく。
『エミリア、あなたの言うことは本当だったのね!』
『エミリアにこんな思いをさせてしまうなんて。気付けなくてすまない……!』
『お父様、お母様、わたくしは大丈夫……大丈夫ですから』
ティメアの手が徐々に下がっていく。
目の前でエミリアが二人に宝物のように抱きしめられている。
それから彼女は幸せそうに微笑んでいた。
エミリアの目から涙がこぼれ落ちるのをただ眺めていた。
(どういうこと? どうしてエミリアは泣いているの?)
両親が彼女の心配をしているとわかった瞬間、何故だかわからないが喉の彼らはティメアを睨みつけて完全に敵視していて、奥が締め付けられるように痛む。
『エミリアを羨んでドレスやアクセサリーを盗むとは、なんて意地汚いっ!』
『だからお茶会なんて反対だったのよ! この薄汚い泥棒がっ』
訳もわからないまま両親に罵倒されていた。
幼いティメアには、状況がまったく理解できなかった。
(どうしてお父様とお母様はわたしを嫌うの? 魔法が使えないから?)
エミリアは両親に抱きしめられていて、ティメアは一人きり。
どんなドレスを着ていても、豪華なアクセサリーを手にしても、この心の穴は埋まらない。
彼らの罵倒を聞きながら、ティメアの心が壊れていく。
『── やめてお父様、お母様……!』
『エミリア……』
『わたくしが羨ましくなっただけよ』
瞳を潤ませて涙を拭いながらエミリアはそう言った。
ただ一つだけわかったことは、自分が知らない間に両親を裏切ったという事実だった。
その次にはどうしようもない悲しみが押し寄せてくる。
『わたくしが悪いの。パーティーのことをティメアに話したりしたからっ』
『…………え?』
『だからティメアを責めないで! お願いっ』
『……エミリア』
『ああ、なんて優しい子なんでしょう』
ティメアはなんとなくではあるが自分が勘違いされて悪者になっているのだと気づいた。
(私はドレスを盗んだりしてない。エミリアがくれたものだもの。それを伝えたら……!)
どうにか誤解を解きたいと思った。固まった唇をなんとか開く。
『あ、あの……!』
『だって、わたくしは誰かにあげられるほどドレスをたくさんも持っているから』
『このドレスは……っ』
『きっと寂しかっただけ……だから怒らないで』
説明しようとすると、なぜかエミリアが阻止してくる。
そのあともティメアの言葉が届くことはなかった。
『役にも立たないうえに国の宝であるエミリアを傷つけるなんて許せないわ!』
『……お、おかあさま! 違っ……』
『あなたとは他人よ! 二度と顔を見せないでちょうだいっ!』
母親にそう言われたティメアの心は壊れる寸前だった。
声も出せずに、ただ唇を噛んで佇んでいた。
どんなにかわいいドレスを着ても、豪華なアクセサリーを身につけても、ティメアのようになれない。
魔法を使えない限りは嫌われ続ける……それだけはよくわかった。
(全部、わたしのせいになる……どうして? 魔法があったら、こんなことにはならなかったの……?)
拒絶されたショックが大きすぎて、涙すら出てこない。
ティメアが小さく震えていると、泣いているはずのエミリアと目が合った。
そこで彼女の本性を初めて目にすることになる。
彼女は母親と父親の愛情を受けなら微笑んで、こちらを見ていた。
今でもその光景が焼きついて離れなかった。
その時に気づいてしまったのだ。エミリアの本当の目的に。
『エミリア、もうティメアに近付くな。これ以上、傷つく姿は見ていられない!』
『ごめんなさい、お父様……それはできないわ。だって、たった一人の姉妹なんですもの!』
その言葉にゾッとした。本当に嫌いならば縁を切るはずだ。
なのにエミリアはティメアのそばにいようとする。
ティメアはエミリアがただただ恐ろしい存在に思えた。
両親に抱きしめられて、エミリアは去っていく。
『あんたなんて産むんじゃなかった』




