②
認められたい、必要とされたい、貴族として敬われたい。
誰かの役に立ちたい。その想いだけだった。
魔法のことが書かれた本はすべて読んだ。魔法のことは何でも学ぼうと決めていた。
貪欲に知識を吸収するしかないのだ。
(もしかしたらわたしもいつか魔法が使えたら……お父様とお母様に認めてもらえるかもしれない)
そんな願いも虚しく、魔法が発現することはない。
不思議と夢では魔法が使える自分が現れる。
誰もが恐れるような魔法だ。そして朝目覚めるたびに現実を突きつけられるのだ。
物置小屋で朝から晩まで勉強しても見向きもされない。
誰もティメアを誉めてはくれなかった。
粗末な部屋で一人きり。
侍女ですらティメアを見下しているため、自分の世話は自分でするようになった。
その日の食事を得るのにも苦労していた。
死んでもいい……そう言われているようだ。
(わたしはいらない存在なんだわ……だけどエミリアは違う)
まるで光と影のようだった。エミリアはただそこにいるだけでいい。
ティメアは姿すら見せてはいけなかった。
そんなある日のこと。
エミリアの希望で、ティメアは週一の面会が許されることになった。
用意されたワンピースに着替えて、久しぶりに足を踏み入れる本邸。
最初は嬉しくて舞い上がっていた。自分も家族の一員になれた気がした。
お茶会では見たことがない豪華な食事を出される。
かなりお腹が空いていたので、すべて平らげるとくすくすとバカにするように響く笑い声。
ティメアは何が何だかわからずに首を傾げるしかなかった。
しかしその様子を見ていた両親は、ティメアの頬を叩いて罵った。
どうやらマナーが悪すぎたそうだ。
ティメアはエミリアのためにマナーを学ぶように指示を受けるが、彼らの怒りは収まらない。
『お父様、お母様……ティメアは悪くないわ』
『……エミリア』
エミリアが両親を止めてくれたおかげで、これ以上殴られずに済んだ。
彼女だけはティメアを見捨てないでいてくれるのかもしれない。
そう思った瞬間、ティメアにはエミリアが女神のように見えた。
毎週、一時間のお茶の時間はお腹も心も満たされて夢のようだった。
けれど同時に苦痛でもあった。
彼女が両親や周囲に愛されて大切にされる話ばかり。
幸せいっぱいのエミリアと自分を比べてしまい胸が苦しくなる。
『お父様ってば、またドレスやアクセサリーを買ってくれたのよ。もういらないって言ったのに……。でもどうしてもわたくしに似合うからって聞かないのよ』
『……いいな』
いつもは頷いているだけだが、今日は本心が漏れてしまう。
『あら、ティメアもお父様に買ってもらえばいいじゃない』
『わたしは……無理だよ』
『あら、どうして?』
『エミリアお姉様と違って……』
〝わたしは必要とされていないから〟
そう言いかけて下唇を噛んだ。認めるのが怖かったからだ。
ティメアは膝上でギュッと手を握った。声が震えてしまう。
毎週着ているワンピースはくたくただった。
ティメアにとって、彼女の言葉は猛毒のようだ。
『なんでもない……』
『そう? ああ、そういえばお母様が言っていたわ。わたくしが願えばなんだって叶うんですって!』
『…………』
『この魔法のおかげで、なんだって手に入るのよ。光魔法ってすごいのよ。どんなものでも治せるんだもの』
エミリアはナイフを手に取り、自分の肌を傷つけた。
侍女が悲鳴を上げるが、彼女はすぐに怪我を治してしまった。
『すごい……!』
初めて見た魔法に目を輝かせた。
『みんながわたくしを頼りにしているの。わたくしは必要とされているのよ』
『……ッ!』
息が詰まる。エミリアのほうを見ることができなかった。
『そうそう。魔力をコントロールするのって本当に大変なの。魔法を使えない、あなたにはわからないかもしれないわね』
『……わたしには、わからないわ』
『ふふっ、そうよねぇ?』
魔法を使える侍女たちも笑っていた。
それなのにエミリアはティメアを庇うことはない。
この中でティメアの地位が一番低いのかもしれない。
初めから魔法が使えない平民に産まれていたら、こんなに苦しまなかったのだろうか。
(いっそのこと捨てて欲しい……そしたらこんな思いをしなくて済むのに)
エミリアとティメアは双子のはずなのに何もかもが違った。
(……うらやましい)
表面上では笑みを浮かべていたが、心の中は悲しみでいっぱいだった。
まるで針でチクチクと刺されているようだ。
彼女と会話する度に違和感を覚えていた。
エミリアはどうしてティメアとの時間をとるのか。
こうして魔法のことを自慢げに話すのか。
だけどエミリアとの会うこの時間を何よりも楽しみにしていた。
唯一家族の一員だと、公爵令嬢だと思われるのがこの時だけだった。
けれどそんな日々も長く続かなかった。
ティメアとお茶を初めて半年ほどで決定的な出来事が起こる。




