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無力令嬢は闇堕ちいたします~わたくしに平伏なさい~  作者: やきいもほくほく
一章

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2/15

②

認められたい、必要とされたい、貴族として敬われたい。

誰かの役に立ちたい。その想いだけだった。

魔法のことが書かれた本はすべて読んだ。魔法のことは何でも学ぼうと決めていた。

貪欲に知識を吸収するしかないのだ。


(もしかしたらわたしもいつか魔法が使えたら……お父様とお母様に認めてもらえるかもしれない)


そんな願いも虚しく、魔法が発現することはない。

不思議と夢では魔法が使える自分が現れる。

誰もが恐れるような魔法だ。そして朝目覚めるたびに現実を突きつけられるのだ。


物置小屋で朝から晩まで勉強しても見向きもされない。

誰もティメアを誉めてはくれなかった。

粗末な部屋で一人きり。

侍女ですらティメアを見下しているため、自分の世話は自分でするようになった。

その日の食事を得るのにも苦労していた。

死んでもいい……そう言われているようだ。


(わたしはいらない存在なんだわ……だけどエミリアは違う)


まるで光と影のようだった。エミリアはただそこにいるだけでいい。

ティメアは姿すら見せてはいけなかった。


そんなある日のこと。

エミリアの希望で、ティメアは週一の面会が許されることになった。

用意されたワンピースに着替えて、久しぶりに足を踏み入れる本邸。


最初は嬉しくて舞い上がっていた。自分も家族の一員になれた気がした。

お茶会では見たことがない豪華な食事を出される。

かなりお腹が空いていたので、すべて平らげるとくすくすとバカにするように響く笑い声。

ティメアは何が何だかわからずに首を傾げるしかなかった。

しかしその様子を見ていた両親は、ティメアの頬を叩いて罵った。

どうやらマナーが悪すぎたそうだ。

ティメアはエミリアのためにマナーを学ぶように指示を受けるが、彼らの怒りは収まらない。



『お父様、お母様……ティメアは悪くないわ』


『……エミリア』



エミリアが両親を止めてくれたおかげで、これ以上殴られずに済んだ。

彼女だけはティメアを見捨てないでいてくれるのかもしれない。

そう思った瞬間、ティメアにはエミリアが女神のように見えた。


毎週、一時間のお茶の時間はお腹も心も満たされて夢のようだった。

けれど同時に苦痛でもあった。

彼女が両親や周囲に愛されて大切にされる話ばかり。

幸せいっぱいのエミリアと自分を比べてしまい胸が苦しくなる。



『お父様ってば、またドレスやアクセサリーを買ってくれたのよ。もういらないって言ったのに……。でもどうしてもわたくしに似合うからって聞かないのよ』


『……いいな』



いつもは頷いているだけだが、今日は本心が漏れてしまう。



『あら、ティメアもお父様に買ってもらえばいいじゃない』


『わたしは……無理だよ』


『あら、どうして?』


『エミリアお姉様と違って……』



〝わたしは必要とされていないから〟

そう言いかけて下唇を噛んだ。認めるのが怖かったからだ。

ティメアは膝上でギュッと手を握った。声が震えてしまう。

毎週着ているワンピースはくたくただった。

ティメアにとって、彼女の言葉は猛毒のようだ。



『なんでもない……』


『そう? ああ、そういえばお母様が言っていたわ。わたくしが願えばなんだって叶うんですって!』


『…………』


『この魔法のおかげで、なんだって手に入るのよ。光魔法ってすごいのよ。どんなものでも治せるんだもの』



エミリアはナイフを手に取り、自分の肌を傷つけた。

侍女が悲鳴を上げるが、彼女はすぐに怪我を治してしまった。



『すごい……!』



初めて見た魔法に目を輝かせた。



『みんながわたくしを頼りにしているの。わたくしは必要とされているのよ』


『……ッ!』



息が詰まる。エミリアのほうを見ることができなかった。



『そうそう。魔力をコントロールするのって本当に大変なの。魔法を使えない、あなたにはわからないかもしれないわね』


『……わたしには、わからないわ』


『ふふっ、そうよねぇ?』



魔法を使える侍女たちも笑っていた。

それなのにエミリアはティメアを庇うことはない。

この中でティメアの地位が一番低いのかもしれない。

初めから魔法が使えない平民に産まれていたら、こんなに苦しまなかったのだろうか。


(いっそのこと捨てて欲しい……そしたらこんな思いをしなくて済むのに)


エミリアとティメアは双子のはずなのに何もかもが違った。


(……うらやましい)


表面上では笑みを浮かべていたが、心の中は悲しみでいっぱいだった。

まるで針でチクチクと刺されているようだ。

彼女と会話する度に違和感を覚えていた。

エミリアはどうしてティメアとの時間をとるのか。

こうして魔法のことを自慢げに話すのか。

だけどエミリアとの会うこの時間を何よりも楽しみにしていた。

唯一家族の一員だと、公爵令嬢だと思われるのがこの時だけだった。

けれどそんな日々も長く続かなかった。


ティメアとお茶を初めて半年ほどで決定的な出来事が起こる。


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