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無力令嬢は闇堕ちいたします~わたくしに平伏なさい~  作者: やきいもほくほく
一章

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1/16

①


『あんたなんて産むんじゃなかった』

『役立たずなどいらぬ。魔法の前では無力だ』

『あなたとは他人よ! 二度と顔を見せないでちょうだいっ!』

『ベリルバード公爵家にお前の居場所はない。顔も見たくない』


一方的に投げかけられる言葉はナイフのようにティメアの心を傷だらけにした。

こうして思い出すのは最悪の記憶ばかり。

エミリアはずっと自由で、愛されていて、必要とされている。

何も与えられなかったティメアは最期まで一人きりだ。


心にぽっかりと穴が空いた。真っ黒で深い深い穴だ。

ずっと見ないふりをしていたけど、もう……それは無理なのかもしれない。

このまま闇に溶けるように消えてしまいたい。

そうすれば何も考えることなく、ゆっくりと眠れる気がした。


もう一人の自分が、闇の中に溶けて消えていく。

それと同時に、体の奥底から湧き上がる初めての感覚。


(魔力が巡る……やっと魔法が使えるのね……)


絶望的な状況なはずなのに、ティメアの唇は弧を描いていく。

裏切られて、捨てられた直後に、ずっと欲しかったものが手に入るとは滑稽なものだ。


まったく光が入らない深淵。

暗闇で光る六つの金色の光。

ティメアは三匹を引き寄せると、一匹ずつ頭を撫でてキスをした。



「ありがとう……わたくしの代わりに〝ティメア〟を守ってくれたのね」



緊張して強張っていた力が抜けていく。息を吐き出しつつ目を閉じた。

何故かおかしくて仕方ない。



「ふふっ、もちろんこのままにしないわよ? 報いは受けさせないと……ね?」



もう屈辱的な日々を送ることはない。

今度は奪われる弱者じゃない。こちらが奪い取る強者になるのだ。



「皆さま、ごきげんよう」


「まさか……ティメア、なのか?」


「……地獄の底から這い上がってまいりました」



ティメアの唇が大きく弧を描いていく。

捨てられて死んだはずの〝ティメア〟がなぜここにいるのか。

そんな表情をしている。


(もう誰にもわたくしを踏み躙らせない。この力は……そのためにあるの)


いつものように笑みを浮かべて、こう言い放つ。



「今すぐわたくしに平伏なさい」



* * *



ティメア・ベリルバードはパディトム王国のベリルバード公爵家の次女として生まれた。

パディトム王国の貴族たちは魔法を使うことができた。

中でも王族は珍しい魔法を使い大きな力を持って国を繁栄させていた。

王国の貴族たちは裕福で国は栄えていた。

魔法の恩恵を受けて領地の作物は豊かに実るおかげで、王国は周辺諸国よりも栄えていた。

しかし一歩外に出れば周囲には魔獣が蔓延り、ひどいありさまだった。


大抵、三歳頃までには必ず魔法が発現する。

水に触れれば水魔法、風に撫でられたら風魔法、火に近づけば火魔法、地面に立てば土魔法。

植物に触れれば緑魔法、毒草ならば毒魔法、氷に触れたら氷など、自ら適正のある魔法属性に関与するものに関われば魔法が生まれた。


父は雷魔法を代々引き継いだ。母は土魔法と風魔法と二属性を持つ。

由緒正しいベリルバード公爵家で初めて、ティメアは何の力も持っていなかった。

役立たずで魔法が無いという皮肉の意味を込めて『無力令嬢』と呼ばれていた。

十六歳になった今でもそう。ティメアの力は何もない。無なのだ。


貴族であれば持ち合わせているはずの魔法の力。

それを受け継がなかったことで大騒ぎだった。

母親はそのことでティメアを毛嫌いして、いないものとして扱っていた。


一方、双子の姉のエミリアは違った。

プラチナブロンドの髪とライトピンクの瞳は天使のようだった。

生まれたその瞬間から光魔法を発現した彼女は祝福された。

雷魔法を持つ父はこの日を心待ちにしていたそうだ。

両親がもっていないヴァイオレットの髪色、濃いピンク色の瞳はエミリアとは真逆だった。


光魔法は病や怪我の治癒ができる。

エミリアは公爵邸の中で宝物のように育てられた。

光魔法はとても珍しく、貴重な魔法だ。

どんなに強い魔法が使えたとしても、病に勝つことはできない。


最初はティメアも珍しい魔法が使えるのではないのか、そう期待がかけられていた。

けれど五歳になっても魔法が現れなかったことで見限られてしまった。

エミリアはティメアとの接触を禁じられた。ティメアを本邸の隣、物置小屋へと移動させたのだ。

エミリアまで魔法が使えなくなるのではないかと恐れたからだった。


両親はエミリアに愛情を注いで、ティメアを罪人のように扱った。

魔法を使えないことで父に名前すら呼ばれない。目を合うこともなかった。



『役立たずなどいらぬ。魔法の前では無力だ』


『ごめんなさい……おとうさま』


『ベリルバード公爵家にお前の居場所はないわ。顔も見たくない』


『……ごめんなさい、おかあさま』



まるで存在を否定されているようだ。いや、実際その通りなのだろう。

愛情に飢えていたティメアは魔法以外のことを懸命に頑張った。

どうにかして両親に必要とされたい、その想いだけだった。


(いつか私もエミリアのような特別な力が目覚めるかもしれない……!)


幼い頃はそんな期待に満ちていた。けれど現実は物語のようにいかない。

歳を重ねるたびに、ティメアは何もかもを失っていく。


(……っ、どうして私は魔法が使えないの!? なんで……?)




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