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無力令嬢は闇堕ちいたします~わたくしに平伏なさい~  作者: やきいもほくほく
二章

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14/15

①④


「わたくしとエミリアが似ているから……そうでしょう?」



トリストンは口端が少し動いただけで笑みを崩さない。


(さすが元王太子ね。感情を隠すのは得意なのかしら)


エミリアが何気なく首を傾げると、自分の髪が視界に入った。

そこで自分の髪の色素の変化に気づく。



「…………あら」



腰まで伸びた髪はヴァイオレットの色素が抜けて、真っ白になっているではないか。


(魔力のせいかしら……まるで白百合のよう)


何度も何度も髪を梳きながら確認するが、暗いヴァイオレットの髪はすっかりと明るくなってしまった。



「魔力が発現したことで髪色に変化があった。他に変化があったら、詳しく教えてほしい」


「わたくし自身かしら」


「……そうみたいだね」



髪以外の変化といえば、ティメア自身の変化だ。

トリストンの質問に適当に答えていく。

彼の目的がわからない以上は、ティメアも手の内を明かすことはない。

真面目に答えていないことがわかったからか動かしていた手を止めた。



「今度はこちらから質問してもいいかしら?」



彼は自分がトリストンだと明言していない。

絶対にありえないと思うが、本人が認めていない以上、万が一ということもある。


(〝ティメア〟なら、彼になんて言ったのかしら)


この状況に怯えて泣いただろうか。

何も言わずに黙って時が過ぎるのを待っているのだろうか。



「あなたは誰かしら?」


「君の結婚相手だと言ったらどうする?」


「…………!」



そういえば、とベリルバード公爵の言葉が頭に思い浮かぶ。


(わたしは『魔法研究所の所長』と結婚するから、ここに来たんだったわ)


つまりトリストンは魔法研究所の所長ということになる。


(そのへんの情報は疎いのよね……どうなっているのかしら)


それにトリストンが、山奥の崖下でどうやってティメアを見つけたというのか。


(もう一属性持っているといわれているけど、それで索敵を?)


なぜトリストンは崖下に捨てられたティメアをわざわざ助けてくれたのか。


(足も動かない。魔力もない。ここは大人しく従って、腹の探り合いといきましょう)


まださまざまな疑問は残るものの、ひとまずお礼を言うために頭を下げた。



「わたくしを助けてくださりありがとうございました」



足が動かないのだとしたら、間違いなくティメアはあの崖から抜け出すことに苦戦していただろう。

体も綺麗に清められているし、服も真新しいものだ。

おそらくクローシュの中には軽食が入っているに違いない。ほんのりと香ばしい匂いが届く。



「お名前を教えてくださいませんか?」


「僕は……トリストンだよ」



素直に自分の名前を明かしたことに驚いていた。


(やっぱり……)


あんなに答えるのを濁していたのに、すぐにトリストンと認めたことが意外に思った。



「疑いもしないんだね。こんな姿になっているのに、トリストンだと……」



彼は悲しそうに微笑んでいる。

深く刻まれた目尻の皺を見ながら微笑んだ。

本当の理由を話すのは後、探るように当たり障りない言葉を並べる。



「わたくしは公爵邸から出たことがありませんわ。それにライトグリーンの瞳は、トリストン殿下しか見たことがないのです」


「君とは一度だけしか会ったことがないだろう?」


「はい。あの時、もしトリストン殿下の手を取れていたらと、ずっと……ずっと後悔していましたから」



これは〝ティメア〟がずっとトリストンに伝えたかった言葉だ。



「そうか……あの時、僕も君を助けられなかったことをずっと後悔していた。君こうなることはわかっていたから尚更だ」



トリストンはティメアの状況をわかったうえで、救い出そうとしていたのだ。


(あの時の言葉と魔法研究所……何かが繋がりそうね)


ベリルバード公爵邸で魔法研究所の話はほとんど出ることはなかった。

むしろその話を避けているように思えた。

それはエミリアとトリストンの関係もあるだろうし、ベリルバード公爵の魔法研究所に対する態度を見ていればわかることだ。


(まずは情報を集めましょう。わからないことばかりだもの)


もしかしたら今回の結婚もティメアを救い出すために考えられたものだろうか。


(この姿になってまで、わたくしを助けるメリット……ふふっ、一つしかないわね)


あの時、トリストンの手を取れていたのらこんなことにはならなかっただろうか。  



「いいえ……わたくしが…………」



少しでも手伝えていたら〝ティメア〟にも幸せな人生が待っていたのかもしれない。

悔しさから力を込める。無意識に腕をギュッと握りしめて爪を立てていた。



「いや、君は悪くない。そこまで考えられない状態まで追い詰められていたのだろう?」


「…………!」


「これ以上、自分を責める必要はないよ」



その言葉が〝ティメア〟の心にじんわりと沁みていく。

トリストンはあの時の様子を見てティメアの状況を理解してくれたのだ。


(ねぇ……〝ティメア〟聞こえているかしら。ここにもあなたのことを想ってくれていた人がいるわ)


自身とトリストンのことを知れば、ティメアは闇落ちせずに済んだだろうか。

そう思うと悔しくてたまらない。



「君は〝禁呪〟を知っているかい?」


「…………知識としては」


「そう、なら話が早いね」



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