①⑤
曖昧な答えで言葉を濁した。
魔法を使えないティメアだが、いつかのためにと魔法の勉強をたくさんしていた。
物置小屋には古い書物が山ほどあった。
その中には禁呪について書かれていた。
禁呪というのは魔力があれば使うことができるが、あまりの効力の強さの代わりに魔法を使った本人に反動がくるというものだ。
それは呪いのように魔法をかけた本人すら蝕む恐ろしいものだと書かれていた。
その最期はあまりにも凄惨で酷たらしいと書かれていた。
強力な魔法の代償は命すら奪うという。
「僕はその禁呪により、この姿にされたんだ」
トリストンの笑顔がスッと消えた。
彼と視線が絡む。
ニタリと笑みを浮かべたティメアはある名前を口する。
「エミリア・ベリルバード……」
「…………!」
その名前を口にした途端、トリストンの目が見開かれた。
エミリアの意地悪な顔が思い浮かぶ。
彼女が禁呪を使っているのをティメアは知っている。
〝ティメア〟は知らないが、ここにいるティメアは知っているのだ。
(まさかあの時、彼に禁呪を使っていたなんてね……)
トリストン相手に禁呪を使ったのだとしたら信じられない気分だ。
「──君は何か知っているんだね!?」
トリストンの勢いのある問いかけにティメアは首を横に振った。
興奮したのは一瞬だけで、こちらの反応を見て落ち着きを取り戻す。
頭をくしゃりとかいた彼はため息を吐いた。
「……あの日、彼女は自分ではなくティメア嬢に声をかけた僕が心底気に入らなかったんだろうね。それと婚約者に選ばなかったことで、さらに恨みを抱いたのだろう」
「たったそれだけで……?」
「ああ、彼女にとっては屈辱的だったのではないかな」
その言葉にティメアは納得してしまった。
今までなんでも思い通りにしてきたエミリアにとって初めて思い通りにならない人物。
もしトリストンの婚約者に選ばれず、王妃になれなかったとしたら、自分が一番ではなくなってしまう。
それだけは防ぎたかったのだろう。
(ベリルバード公爵はフェルナン殿下側と手を組んだ可能性も高いわね)
それにトリストンを追いやって第二王子が王太子となれば、エミリアは王妃になれる。
強引だが、いかにもエミリアらしいやり方だといえるだろう。
「けれどエミリア嬢は禁呪の代償を受けていない。おそらくは光魔法で相殺している」
トリストンの言う通りだった。
(さすが魔法研究所の所長を名乗るだけあるわ)
〝ティメア〟は気づいていなかったが、花瓶を石にして白目が赤くなっていたりと禁呪の兆候が出ていた。
そしてベリルバード公爵にティメアの代わりに差し出されるものが禁呪の本だとしたら……。
(まさかエミリアが禁呪に手を出しているとは思わないものね)
エミリアは健康そのもので、禁呪の代償を受けている様子はまったくないように見えていた。
両親や侍女たちの怯え方も、エミリアに逆らえばどうなるかわからないからだ。
おそらくエミリアの気に触った者がトリストンほどではないが、なんらかの被害に遭ったのかもしれない。
それを知る者たちが彼女の機嫌を損ねないようにと怯えていたのだ。
その他にも幼い頃から贅沢三昧の特別扱いの代償は大きく、無理難題のわがままばかり。
以前は周囲に大切にされていた彼女は、次第に畏怖の対象となっていた。
両親も、侍女も、令嬢も、エミリアの機嫌を窺うようになっていた。
思い通りにならなければ激怒。ルーシーのことや王妃教育のことでストレスが溜まり気性が荒くなっている。
(わたくしが知っているのは、その程度かしら。ここ一年はエミリアもわたくしとの約束を守っていたものね)
ずっとそばにいたはずなのに、住んでいる場所も違うため知らないことも多い。
よく考えていれば、少しずつ変化はあったのだ。
〝ティメア〟は何も見ないように心を閉ざして周りを見ないようにしていた。
ただエミリアはすべて持っている。自分は持っていない。
逆らってはいけない、それだけをしていればここにいることを許されるからだ。
『わたくしのものにならないなら、いらないわ。消えてちょうだい』
エミリアは何度もティメアが出てくることを望んでいた。
彼女がそこまで追い詰められていたとは思わなかった。
(まさかわたくしに会えないことで、こんな手段に出るなんて……禁呪の影響が出ているのかしら)
徐々に理性を失っている。そんなふうに思えた。
「やはり君は何かを知っているんだね」
「…………えぇ、少しは」
トリストンの目的にティメアが必要だとしたら、必要とされるためにもそこを利用するべきだろう。
(情報は小出しにしていきましょう)




