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無力令嬢は闇堕ちいたします~わたくしに平伏なさい~  作者: やきいもほくほく
二章

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13/16

①③


* * *



意識が戻る。見慣れない天井が目に入った。

全身が重たくて、痛みで体強張ってしまい、うまく動かせなかった。

胸が潰れそうな痛みで、呼吸もしずらいけれど一つだけわかったことは、自分は崖下から救い出されたのだろう。


(あの人は……トリストン殿下、じゃない……?)


全身が激しく痛む。特に足が自由に動かせない。

ゆっくりと記憶を整理していく。

王国で魔法を使えない貴族を魔法研究所に送るという強制的に召集が決まった。

父であるベリルバード公爵はずっとティメアをそこに送ることを拒んでいたらしい。

そのため結婚という形で魔法研究所へ向かうことになった。

双子の姉、エミリアとともに……。

彼女はティメアにベリルバード公爵邸にとどまることを望んでいた。

その理由を思い出すたびに笑いが止まらない。


(わたくしがいなくなったら、エミリアのストッパーは誰もできないじゃない!)


地獄から抜け出して自由になれるかと思いきや、魔法研究所に向かう途中でエミリアに崖から突き落とされてしまった。

その絶望で〝ティメア〟は眠った。

その時のことを思い出すと、腹の奥底から怒りが湧き出てくる。


(……どれだけ〝ティメア〟から奪ったの? わたくしが表に出てきた以上は、誰にも傷つけさせない)


沸々と湧き立つ憎しみ。今までで一番最高の気分だった。

全身にまとわりついた鎖が解けたような解放感を覚えた。

それは家族という繋がりを断ち切れたこともあるが、太陽が出てるうちから自由に動けることも大きい。


今はティメアの影に隠れているが三匹の気配がする。

それと同時に魔法を使える喜びが全身を駆け巡っていた。

魔法が使える者と使えない者の間には見えない壁がある。

ティメアはそれを刷り込まれてしまった。



「おいで……」



ティメアの声に合わせて、三匹の犬たちが姿を現す。

ぼんやりとした黒い影になっていた。こちらを心配するように寄り添っている。

ティメアも彼らに応えるように笑みを浮かべ、頭を撫でていた。


──コンコンッ


ノックの音とともに、炎が消えるかのように影が消えてしまう。

扉を睨みつけたティメアだったが、ゆっくりと扉が開く。



「目が覚めたんだね」



美しく澄んだ声がした。それはティメアの名前を呼んでくれた男性と同じ声だ。

しかし顔を上げると初老の男性の姿があった。

ライトグリーンの瞳が傷だらけで戸惑うティメアを映し出している。


(トリストン殿下と顔合わせしたのは彼が二十一歳の時だった。ということは今は二十二歳ね……可哀想に)


エミリアの婚約者として、会ったときは若々しい青年だった。

今は六十代ほどの姿になっている。



「君には僕が〝トリストン〟に見えるのかい?」



ゆったりとした声色だが、その中に怒りを感じた。

おそらくティメアの外見にエミリアの姿を重ねているのかもしれない。



「えぇ、見えるわ」


「……!」



彼の問いかけに笑顔で答えた。それには目を見開いている。

普通に考えて、トリストンがこんなに老けてしまうことなどありえない。

血縁者だと思うのが普通だろう。

遠回しに不敬だと言っているのかもしれないが、ティメアは違うとはっきりとわかった。



「ティメア嬢……君は何を知っているのかな」


「さぁ……?」



ティメアは視線を逸らして首を傾げた。

トリストンは掴みかかってくるかと思いきや、フッと小さく息を吐き出した。



「体調は大丈夫かい? 足は骨が折れていた。しばらくは歩けないだろう」


「……まぁ」



ティメアは口元を押さえて、足元を見た。

たしかに包帯でぐるぐる巻きにされて固定されている。


(わたくしが逃げられないから冷静になれたということね)


足の骨は折れているため、ここから逃げることはできないようだ。



「それに魔力を枯れていた。危ない状態だったんだよ?」



ライトグリーンの瞳が観察するようにこちらをじっと見つめている。

どうやらティメアの人格に違和感を抱いているようだ。


(それも当然よね……あの時のティメアはもういないんだから)


魔力がない理由は、怒りのまま闇魔法を使ったからだ。


(今頃、届いている頃かしら。わたくしの気持ちが……)


どうなっているか楽しみだと笑みを深めた。

彼はティメアの挑発に乗ることはなく、持っていた紙をペラペラとめくっている。

白衣を着ていて、髪はグレーとネイビーが混ざったような色だ。

ティメアは彼が次にどんなことを言ってくるのか楽しみにしていた。


(わたくしを問い詰めるのかしら? それとも魔法について聞くの?)


トリストンはそんなティメアを無視するように言葉を続けた。



「魔法研究所に来る途中、君はエミリア嬢に殺されそうになった。その時に自身の魔法が発現した」


「…………」


「それからここは魔法研究所だ。本来、君が来るべきだった場所だよ」



穏やかに微笑んでいるが、どこか作り上げた表情に違和感を覚えた。



「君の魔法のことや、人格が変わったこと。僕の容姿について問い詰めると思ったんだろう?」



淡々と投げ返される言葉。まるでティメアを挑発するようだと思った。

柔らかい表情を浮かべているはずなのに、どこか鋭い視線がティメアに突き刺さる。

ティメアも反撃するべく問いかける。



「あなたは、どうしてそんなに怒っているの?」


「…………!」



彼は少しだけ目を見開いたあとに、すぐに言葉を返す。



「その理由を君が知る必要はないよ」



明確な拒絶の言葉を聞いて、ティメアの唇は綺麗な弧を描いた。


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