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無力令嬢は闇堕ちいたします~わたくしに平伏なさい~  作者: やきいもほくほく
二章

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12/14

①②

(闇魔法には何ができるか何もわかっていなかった。こうなってから発現したからといって意味がないわね)


ティメアの人生は常に絶望と隣り合わせだった。

光魔法だったら、怪我を治して生き残る道を探せたのだろうか。

今度は涙が零れ落ちる。久しぶりの感覚だった。今まですべて無駄だと感情を殺してきた。


(最期くらい、いい思いさせてくれたっていいのにね……)


ティメアのことを考えると、怒りや悔しさで頭がどうにかなりそうだった。

特にあの両親のことを考えるとはらわたが煮えくり返る。


(……あぁ、そうだわ。どうせ回復には時間がかかるし、魔力をすべて放出してしまいましょう。そのくらいいいわよねぇ?)


こうなったら今までの恨みを込めて、すべてを出し切ってしまおうではないか。



「ティメアの気持ちを十六年も踏み躙ったんだもの。同じくらいの痛みを与えてやるわ」



誰の仕業かわからずに苦しむ様を想像すると笑いが止まらない。

ティメアが死んだと思い込んでいるエミリアによって、うまくいくことだろう。



「あの女……相当、追い詰められているのね。愉快だわ」



何も見えないけれどティメアは闇魔法を使おうと手を伸ばす。

なんとか指を動かしていると皮膚が擦れた。ブワリと全身を駆け巡る魔力を放出する。

視界でそれを確認することはできない。

そのせいなのか髪が広がり、どこかから風が吹いて真っ黒な何かが巻き上がる。

それはティメアの手を離れてどこかに飛んで行ってしまった。


力なく腕が落ちると、激しい痛みが戻ってきたような気がした。

魔力を放出しすぎたせいで、ここから出る分を残しておくのを忘れてしまった。

どこを見回しても闇しかないが、不思議と居心地はいい。

朝になって魔力が回復したら、ここから抜け出せばいいだけの話だ。



「疲れたわ。少し休みましょう。この力を使って、あいつらを地獄に堕としてやるんだから」



何かがぽたりと頬を滑った。口端に液体が滑る。

鉄のような匂い、生温かいため血液なのだと悟った。

視界がない分、他の感覚が研ぎ澄まされているような気がした。


──ワンワンッ


どこかから犬の鳴き声が聞こえた。

その鳴き声は今までよりも、ずっと近くで聞こえる。

むしろすぐそこにいるかのようだった。


音がする方に視線を向けると、暗闇で光る六つの金色の光。

クゥ……と甘えるような声が聞こえた。

震える手のひらを撫でると、確かにサラリとした柔らかい毛の感触があった。

丸い頭とピンと立った耳はわずかに温かい。

ざらりとした舌が肌の上をなぞる。

それが三つもあるものだから、くすぐったくて自然と笑みが漏れた。

ティメアは三匹を引き寄せると、一匹ずつ頭を撫でてキスをした。



「ありがとう……わたくしの代わりに〝ティメア〟を守ってくれたのね」



ティメアが命を断とうとしたときは、この子たちが引き留めてくれていた。

一匹ずつ頭を撫でていく。今は小さな小型犬のサイズのようだ。

だが本当はもっと大きく恐ろしい姿をしている。

エミリアのユニコーンと同じ、召喚獣だ。

ティメアに命の危機が訪れそうになるときは、この子たちに見守ってもらっていた。



「ティメアにも見せたかったわ。きっとかわいがってくれたのに……」



自分一人じゃなかったとわかってくれただろうか。

彼女の気持ちを考えると胸が痛い。

だが、ティメアが幸せになることは許されなかったはずだ。

魔力を限界まで放出したせいか、次第に眠たくなってくる。

これからどうするのかは、起きたら考えればいい。

体が冷えないよいに、犬たちが寄り添ってくれている。


(今日から自由よ。いろいろなところを見て回りましょう。ねぇ、ティメア)


窮屈な生活から抜け出せる。今までにない幸せを感じて瞼を閉じると、暗闇から光が漏れた。



「……ああ、間に合ってよかった」



柔らかい光とともに、どこかから優しい男性の声がした。

わずかに目を開くと、そこにはぼんやりと影が見えた。

先ほどまで暗闇だったのに、目の前にあるのは人のシルエットだ。



「ティメア嬢……」



名前を呼ばれた瞬間に、くっきりと影が浮かんだ。

見覚えのあるライトグリーンの瞳が見えたような気がした。



「トリストン、殿下……?」


「……! 君は……」



ティメアが心の中で、ずっと後悔していたことがあった。

あの時、トリストンのの手を取っていたら何かが変わったかもしれない。

もう少し自分に勇気があったら、諦めていなければ……。

本当はどうしたかったのか、それを思い出して無意識の中で腕を伸ばす。



「……たす、けて」



ティメアが言えなかった言葉が自然と口から漏れる。

血塗れで汚い手が見えた。今まで誰もこの手を取ってはくれなかった。



「遅くなってすまない」


「……!」



当たり前のように手に触れたトリストンに驚く。

骨ばった腕、皺のある皮膚、明らかに年老いた男性がティメアを引き上げてくれる。



「今度こそ、僕が君を助けるよ」



その言葉を聞いた瞬間に、ティメアの意識が途切れた。




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