①①
どこまでも吸い込まれるように暗闇に落ちていく。
目を閉じた瞬間、背中を打ちつけるような強い痛み。
体内が引き裂かれるような感覚がした。
(全身が……割れるように痛い)
ゆっくりと瞼を開くが、何も見えない暗闇が目の前にあった。
自分は死ぬ時すら楽にさせてもらえはいのだろうか。
生まれた時から神に見放されているのかもしれない。
咳き込むと息ができないほどのひどい痛みがティメアを襲う。
誰にも愛されることもなく、誰かに必要とされることもない。
(苦しくて、惨めで……最低の人生だった)
魔法が使えたのなら自分の身を守ることができただろうか。
魔法が使えたのなら両親に愛されたのだろうか。
魔法が使えたのなら誰かに必要だと言ってもらえたのだろうか。
こんな時まで、誰かに手を差し伸べてほしいと思ってしまう。
その考えを捨てきれない自分が嫌になる。
(ほんとうに、馬鹿みたい……そんなこと絶対にあるわけないのに)
諦めても、捨てても、影のようにまとわりついてくるこの気持ちを、すべて無くしてしまえたらと思う。
『あんたなんて産むんじゃなかった』
『役立たずなどいらぬ。魔法の前では無力だ』
『あなたとは他人よ! 二度と顔を見せないでちょうだいっ!』
『ベリルバード公爵家にお前の居場所はない。顔も見たくない』
一方的に投げかけられる言葉はナイフのようにティメアの心を傷だらけにした。
「ごめ、んね……ごめ……なさ」
何に謝っているのか、もうわからなかった。
今までの我慢をすべて吐き出すように思いきり泣いた。
『愛されたかった』『認めてほしかった』『ここにいてほしい』
こうして思い出すのは最悪の記憶ばかりだ。
エミリアはずっと自由で、愛されていて、必要とされている。
何も与えられなかったティメアは最期まで一人きりだ。
(わたしは…………どうしてここにいるの?)
心にぽっかりと穴が空いた。真っ黒で深い深い穴だ。
ずっと見ないふりをしていたけど、もう……それは無理なのかもしれない。
このまま闇に溶けるように消えしまいたい。
そうすれば何も考えることなく、ゆっくりと眠れる気がした。
(もう限界だわ……このまま、休めたら…………)
目から涙がこぼれ落ちる。
誰かに名前を呼ばれた気がして、瞼を開くとそこにはもう一人の自分の姿があった。
まるで鏡みたいに向き合っている。不思議な感覚に手を伸ばして合わせた。
『やっと会えた。ずっとずっと……あなたを救いたかった』
「あなたは……誰?」
『わたくしはティメア。あなたが押し込めてしまったティメアよ』
目の前で自信ありげな自分を見るという不思議な感覚だった。
『今にも消えてしまいそう。もう限界なのね』
「えぇ……もう無理、みたい」
『大丈夫、全部わたくしがうまくやっておくから。しばらくはゆっくり休んで……』
ティメアは自分に甘えるように抱きしめた。
彼女の涙を拭う。今までの感謝を込めて額にキスをする。
『……おやすみ、ティメア』
彼女はわずかに笑うと、そのまま眠りについた。
もう一人の自分が、闇の中に溶けて消えていく。
それと同時に、体の奥底から湧き上がる初めての感覚。
(魔力が巡る……やっと魔法が使えるのね……)
絶望的な状況なはずなのに、ティメアの唇は弧を描いていく。
裏切られて、捨てられた直後に、ずっと欲しかったものが手に入るとは滑稽なものだ。
「ねぇ、ティメア、知ってる……? あなたは闇魔法が使えるのよ。とてもすごい魔法なの」
エミリアの光魔法とは対にある力だと文献に書かれている。
闇魔法は発現した人間はこの国には存在しない。
光魔法よりも情報は少なく、その存在は幻とまで言われていた。
けれどその理由が今ならばわかるような気がした。
(絶望と光が入らない闇……ティメアが地下牢に閉じ込められたことで、わたくしは目覚めた)
そして今まで闇魔法を持っていたとしても、本当の暗闇に触れなければ闇魔法は目覚めない。
大抵、その機会は訪れることはない。
(何も見えない.……でも心地いいわ)
今はまったく光が届かない場所にいるのだろう。
痛む体を押さえながら、腕を持ち上げた。
やはり自分の腕がどこにあるかさえわからない。
それくらい闇が深いのだ。
魔力が巡っているため、やっとこちらでも魔法が使うことができる。
火、水、風、土魔法などは火や水、風や土そのものを操ることができる。
生活に役に立ち、人々の暮らしを助けていた。
珍しい魔法属性といえばエミリアの婚約者、フェルナンの氷魔法もそうだ。
氷を操ることもできるが、空気中の水分を集めて氷を作り上げる。
食材の保冷や冷たい飲み物を作り出すことができるのだ。
そしてエミリアの光魔法は傷や病を癒し、光で辺りを照らすことができる。
王女のルーシーは水魔法と未来予知。未来を見通すことができる。
誰よりも魔法を使う人たちを羨み、勉強はしてきたものの闇魔法には何ができるのかティメアは知らない。
公爵邸から出たことがないティメアは身近な人の魔法しか見たことがないからだ。
もちろん魔法が使えなかったことで、当たり前な魔法教育を受けてこなかった。




