ヴァクーの酒が意外と活躍する
=首都上空に入る、これより先は全船、停船し発砲禁止=
=逃げる船は撃ち落とす、全ての船は射程圏内=
白い城が城壁と周囲の土台をつけて浮いている。
信号弾が数発城の真上に打ち上がった。
城壁には砲塔がこれでもか、という具合に搭載されて圧倒的な武力を見せつけている。
あれが、噂の移動要塞っていうやつで、この国の最大戦力を持っている船・・島か・・
強襲艇が停船旗を掲げて飛び回る。
こっちが本命だったのか!
「どうする・・」
「良い機会だ、奴らの狙いがわかる」
ゼネルは扇子をパチンと閉じて笑みを浮かべる。
まじ、本気で言っているのか・・もうわからない。
白兵戦ってことかい。
ゼネルは戦えるが、ナルやサーリャは?シオンも・・
「私は、戦えるぞ」
「シオン!大丈夫か!!」
「ああ・・何本か折れているが、痛みは・・」
頑丈なウインザードの鎧にヒビが入り痛そうだ。
「悪いな、ねーちゃんをのしたのは俺な」
小斧をぶら下げた男が入ってくる。
ナルはシオンの所へ行きたそうだが、怯えてサーリャの後ろへ隠れる。こいつらが原因か・・
「悪いなぁ、嬢ちゃん。傭兵やってる以上、
やるべきことはやんねぇといけないんだわ」
「まあ、一瞬でやられちまったが。運がわりぃ」
「俺は脚がすくんで動けなかった。
運も実力のうちさ・・それにしても・・痛えよ」
二人は壁にもたれてかかり船内をジロジロと眺める。
=これより順番に臨検を行う。執行人の指示に従え=
「船に乗り込んでくるってことさ」
「あんた達、残念だったな」
「何でよ」
「賊は捕まれば」
クンガーは手を首の前で引く。
「即」
「うぐっ、嘘じゃ・・わしゃ、賊じゃないわい」
「どう見ても賊だろ」
「あまりからかうな。それに、私は賊になった覚えはない」
「ははは・・わりぃ」
ゼネルが呟くと二人は頭をかいて黙り込んだ。
男達がヴァクーの肩を突く。
「あの酒作ったのオメェか?」
「よく分かったな」
「見た目で言ったら当たっちまった」
「どう意味じゃ?」
「あんなに強い酒初めて飲んだ」
「飲んだのか!!ワシまだ飲んでないのじゃぞ」
怒りながら嬉しいのか、顔がニヤけてる。
「わりぃなぁ」
「ワシの楽しみを・・・うぐぐ」
「面白いな、おめえ」
領主達はここで戦ってくれれば逃げる隙ができるかもしれないが、
圧倒的な火力の前で無条件停船を選択して臨検を待つ身。
強襲艇が数隻バラけて臨検を開始した。
隣のレイランの船の前に強襲艇が上がってきて向かい合う。
レイの船が先か・・
強襲艇はその場で回頭して要塞へ降りていく。
「レイさんの船、降りちゃったよ」
乗船なしの臨検か?
他の領主の船はどうだろうか。
強襲艇は船に横付けしている。執行人というのを送り込んでいるのだろう。
見ていると、武装のある船は要塞に降ろしている。
この隙に逃げ出せないか考えたが要塞の砲塔はこちらを捉えている。
今のうちに、セインを脱がせて傷の手当てをする。
「ヴァクーの酒を塗るか?」
「ヴァクー菌が感染するから嫌だ」
「そんなんあんのかい!それより、傷は早いうちに治すのがいいのだぞ」
クンガーに頭叩かれ渋々傷の処置を受け入れた。
「ヴァクー!酒あるか?」
「ゼネ殿でもワシの酒をご所望ですかな」
得意げに壁に手をつき横目でみながら、水筒をチラチラさせる。
「口つけてないやつがいい」
「何だよ」
ブリッジの窓下にある棚から水筒を引っ張り出す。
「ほらよ」
「ありがと」
「礼はいらんが・・・・・・やめた」
「シオン!少し飲め!怪我を見てやる」
シオンもゼネルが傷をみてくれるというので俺の部屋に入って行った。
「ギエーーーーー」
ナルの体がビクッと反射した。
「どうした?すげ〜悲鳴が」
しばらくして、誰かが部屋から出て奥の部屋に入って行く音がした。
何が起こったのか怖くて見に行けない。
「よし、これでいい。痛みは・・そうだな、次の月までには消えるだろ」
クンガーはセインの背中を叩いて体を起こさせた。
セインは体をくねらせて、調子を確かめ、
「ありがとう。大丈夫」
お礼を言えるようになったか。
「なあ、爺さんよぅ。俺たちにも酒くれないか?傷を消毒したい」
「何だよ、お前達もかよ」
「キャッ!!」
「すまんな」
ナルの後ろの折りたたみ座席の工具入れ引き出しの中から水筒を取り出した。
「おいおい!!この船の中にはどこにでもあるのかい?」
「これはまだ若いやつじゃ」
ヴァクーは水筒をクンガーへ投げる。
「うめぇ!」
「うぉっ!最高だ」
「そうだろ!ワシが作ったのじゃ・・・オィ!飲むな!」
「俺たちは体の中から治すんでな」
酒好きの言い方だな。本当に治るのか?
=ヴァクーの魚つり=
船長・・・
目撃者によると、ゼネルに攫われたと・・
借りた馬と共に数日留守にすると、
船長が書店で買った本と共に手紙が添えられていたのじゃ。
理由はともかくゼネルはみんなと話をするべきじゃ。
サーリャ、ナル、シオンは船長の部屋で生活し始めた。
広くて落ち着くと、三人のほうがいいのだろう。
セインは手紙の書き方を教えて欲しいと言ってきたのじゃが、書いたことがない。
船長の部屋にいる三人に聞けばいいと教えたが、笑われるから嫌だと言って戻っていった。
笑わせとけばいいのだ。書かないより書く方がいいに決まっている。ここから届くとは思えないが。
船の整備もひと段落して、時間ができたわい。
渓谷の空気は冷たく、下の谷底を流れる魚は美味しいと聞いたので早速、倉庫にあった釣竿と入れ物を持って釣り場に向かう。
綺麗に坂道が作られていてすれ違う人は部外者のわしに愛想よく挨拶をしてくれる。
馬車が通れる傾斜の緩い道はすれ違いもできるように作られている。
少し奥に行くと水汲み滝があり、そのまま飲料水として飲める貴重なものだと聞いたので、そこでは釣りはしないようにロイックが教えてくれた。
住人達はいろいろな場所で糸を垂らして魚を釣り上げている。
そんなに簡単に釣れるのかのぅ。
やってみるか。
たくさん釣って、干物にして酒のつまみにするのじゃ。
今から、涎が垂れてくるわい。
・・・・
・・・・
・・・・
・・・・
くそ・・
・・・・
周りは何匹か釣り上げすぐに帰っていくのだが、わしには一匹も来ない。
なぜだぁぁ
場所を変えてみても、
だめじゃった。
どれどれ、水汲みの滝というのはここかのぅ。
岩と岩の間から水が湧き出している。一箇所だけでなく、出てきた水を集めて汲み取り用の滝がある。
口に含んでみると。うまい。まろやかな口当たり。これは・・酒が作れるわい。
美味しい水には酒だ。
明日は、ここに水を汲みにこよう。
「今日は、たくさん釣れるね」
そこ、わしがさっき釣っていた場所じゃ。
ここの魚とは相性が悪いのかのぅ。




