元皇帝のメイド服
窓の外が明るい。目を覚ますと空が見える。
「お前は耳が好きなのか?」
ゼネルの声がする。
腕の上にゼネルの頭があり手は腰あたりに。
包み込むように、片方の手でゼネルの耳をさすっていた。
こっちに向きを変えると顔が真っ赤だった。
「・・」
「この傷は?」
ゼネルの腕に傷跡があった。
「子供のときに、木から落ちて出来た傷なんだ」
「子供の時って、何年前よ」
「150年前以上じゃないかなあ」
「え?そんなに年上?ババアじゃ」
拳が顔面に直撃して気がついたら床だった。
「ババアは禁句」
拳が全く見えない。
ベットに這い上がると、ゼネルは腕の傷をさすっていた。
「皇帝をやっていれば、あいつに逢えるかと思っていたが・・・」
「あいつ?」
「この傷を治してくれた男」
それ以上は話してくれなかった。同じ長耳の男か・・・
宿の前の道は、馬がすれ違える広い道だが、歩いている人は少ない。
生地の生産が盛んな所なのか、通る人の服装はきちんとしている。
「どうだ?パ・パルマ!」
振り返ると着替えたゼネルが立っていた。
「似合っている」
やっば・・・マナさんに借りた服を着ているゼネルは、とんでもなく可愛く見える。
フリフリのついたシャツと長いスカートと後ろにリボンがある服。
部屋の鏡の前で、腕を伸ばしたり、足を蹴り上げたり。
「これは、破壊力のある装備だ」
元皇帝がメイド服を着る。
「可愛い!」
朝食を持ってきたマナが驚いて声を出した。
「キツくない?」
テーブルにご飯を置いてゼネルの後ろに回り、調整しているようだ。
「これは・・ちょうどいい!
しばらく借りるよ」
「あげる、もう着れないから」
マナとゼネルを見ると姉妹のように見える。同じような服で夢雪亭の模様が前後に入っているからだ。
食事を終えて廊下に出ると、声が聞こえる。
「おい!こんなに金貨溜め込んで」
「いやです」
マナに兵士が絡んでいる。
階段を降りると兵士が3人いた。
「おやおや、寂れた宿にお客がいたんだ」
「今までのを含めて頂いていくぞ!」
兵士はマナの財布から金貨をとりあげた。
「待って、それは、食材を・・」
「草でも煮込んで出せばいい!」
金貨を手に持ち数えながら呟く。
「俺が食べるってこと?」
拳を握りしめる。
「似合っているぜ」
ニヤつく兵士に飛びかかろうとした時、
「待て!」
ゼネルの声が体を止めた。
「新人か?」
兵士の一人が階段を降りてきたゼネルと目があう。
「違います!お客さんです」
兵士とゼネルの間に割って入り、入り口ドアを開け、出ていくように促す。
宿のドアを閉めて肩を落とすマナの顔色は青くなっている。
「今日のノルマ達成だぜ・・帰って酒!明日は隣」
「ジジイ!明日来るからな!」
外で騒ぐ兵士の声が聞こえ、隣の店のドアを蹴る音がする。
「ごめんなさい。変な所を見せてしまって。
ああやって、数月に回ってくるの・・・」
受付に戻り、椅子にもたれ、ため息をつく。
「どこも、同じだ・・食事の心配はするな」
ゼネルは優しく声をかけてマナの手を握る。
手を開くと金貨が二枚あった。
「こんな大金ダメです!」
ゼネルに返そうとしたが受け取らない。
返そうとしてくるのでゼネルは困り、
「そうだな、人を探すのを手伝ってほしい」
少し、安心した表情になって、間をおいてから、
「私にできるかな」
「クレバーと言う男だ」
誰だ?それは・・例の男か。
「知ってる」
マナは勢いよく立ち上がる。
「え?」
「クレバー・エルネストって有名だよ」
「有名なんだ」
「西地区ガーランド・セイバー、東地区クレバー・エルネストは有名よ」
「あのババアが!?」
「そんなこと言ったらダメだよ!どこに子分がいるか・・」
「クレバーさんは奴隷市場を仕切っているボス」
ゼネルは俺の方を見て、
「あのまま売っておけば、接触出来たのか・・」
呟くので、背筋がゾッとなった。
「売る?彼氏でないの?」
ゼネルは首を振り、腕を掴む。
「夫なの」
ゼネルといると、奴隷になったり夫になったりと、忙しいぞ。




