弾道飛行
サーリャはヴァクーを睨んでいる。
「じゃあ行くよ!」
推進レバーを押し込むと、体が椅子に食い込む。
窓の外に一瞬霧がかかるがすぐに見えるようになり音が静かになる。
「これ、本当に大丈夫なの?」
固定具を気にして、サーリャは不安な声を出す。
「あ・・そういえば、人にやった事無い」
「「「えええ」」」
雲の層をいくつか突き抜けて船は上昇していく。
翼とバランサーを完全収納する。
天井に外し忘れていた、人形が落下してきてヴァクーの顔に当たる。
「痛えぇ!!」
「罰が当たったのよ」
サーリャは呟く。
船は引力に逆らい上昇していく。
「どこまで、上がるんだ!!」
セインは高度柱を指差す。
「こっちでも、振り切れているぞ!」
ヴァクーは計器を指差す。
「まだ先だ!!」
動力を二つ連動させる。
窓の外は、青色から黒色へ変わっていく。
船の揺れはおさまった。
ここまで昇ると、高度柱、速度計も意味がない。
やがて、地表の輪郭が弧を描いて広がる。
「ここは?」
「星の世界の入り口」
動力を停止して、ここから降下する。
「体が・・・軽い!?」
「手や足が浮いている」
人形が浮いている。
「外してもいい?」
「ダメ!すぐに降下する!」
再度、固定具の緩みが無いか確認させる。
「ここから、先が本当に星の世界なんだ・・・」
サーリャが手を伸ばしている。
輪郭の向こうから光が輝き出した。
静寂な世界。
青バルブを解放して、赤バルブを閉鎖する。
天井のレバーを引くと計測器が降りてきた。
引き寄せ覗き込む。
「それは?」
「これは、目標地点に降りるために使うもの」
浅すぎると、大気に弾かれ、深すぎると燃え尽きてしまう。
うまく操作できれば、狙った地点に下ろすことが可能。
少し流れているので修正をする。ボタン押すと噴射する反動で船体を制御できるようになっている。
計測器を天井に格納してロックさせる。
「後は、落ちるだけ」
「「「落ちる?」」」
「声を出したらダメだぞ!!声なんて出せないけどね」
翼とバランサーの格納を確認する。
体に加わる力の向きが変わった。
足の指先から頭に、抜けていく。
焦げた臭いが充満する。激しい振動と共に、外壁装甲が赤くなり、火の粉が船の下部から外壁を伝って上に流れていく。
窓の外は赤く燃える炎だけになった。
座席から浮き上がり、肩と太もも付け根が引っ張られて、痛い。
床に落ちていた細かい砂が床を飛び跳ねて、まるで生きているようだ。
船首をゆっくりと前に倒すと船首から赤く炎が上がり船が減速し始める。
窓の外は黒から水色へ変わっていきオレンジ色に、振動もおさまり、ブリッジ内は砂埃がたった。
炎も消え、船首からは白い雲が発生している。翼を少し展開して速度を落とす。
中層雲を抜けると、視界に雲海の間から、朝日に照らされた岩山が広がる。
ヴィデ山脈から流れる大量の雪解け水で岩肌が削られ、山地をえぐるように長い渓谷が作られている。翼をさらに展開。
霧が立ち込める、渓谷に突入することが出来た。
固定具を外したので、みんなも、同じように外した。
ヴァクーとシオンは気持ち悪く、眩暈がするというので自室で休む。
ここから、迷路のような渓谷が続くが、何度か来たことがあるので、大丈夫だ。
所々、見えにくい場所に監視櫓がある。人がいるはずだか誰もいない。
しばらく進むと、霧の中から人工的な構造物が見えてきた。渓谷の壁に張り付いた住居などだ。
渓谷から張り出した桟橋があるので船を寄せブリッジ接舷する。セインには何かあったら逃げるように頼んだ。




