襲撃者トリア
劇場の前は賑やかだ、馬車、車が忙しそうに走りすぎていく。
遠くに港が見える。町が大きすぎる。
劇場の中から人が湧いてくる。人の波に逆らいながら歩く。
「パッチ殿?」
「ん?」
銀色の扇子で口元を隠す、ゼネルだった。やばい、この女。
「そなたも、レエベーヌの星の歌を鑑賞かい?」
星の歌?なんだそれは・・・
「ん?わからんか?劇!」
「いや・・港へ帰るところだ」
「なんだ・・つまらぬ」
無視して船へ帰ろう・・
「ちょっとまてぃ」
「ここで会ったのも何かの縁」
「聞いたぞ!侯爵になったとか」
そういえば、いろいろあって、すっかり忘れていた。
前から、来る馬車をゼネルは停める。
「港まで、お願いできるか?」
ゼネルは乗り込む。ゼネルありがとう!
バシッ!
馬車の取っ手を握った手を銀色の扇子で叩かれる。
「まて!
そなたは、走るのだ!」
馬車は方向を変え、窓から顔を出す。
「鍛えるといったろ、ついてくるのだ!」
「おそーい!」
無視。トュリスとの全力疾走で、疲れ走る気力が全く出ない。
「やすむな!」
馬車から怒鳴り声がする。
次第に遠く離れ、声はしなくなった。
ゼネルを乗せた馬車とすれ違う。
港の入り口でゼネルが腕を組んで待っている。
「おそい!朝になるわ!
そなたの船がわからんでの」
あ~。船、一番奥だった。疲れたから休ませて。
座ろうとしたときに、手を引っ張られ、引きずられていく。
なんなの、この子。この力。
いろいろあったが、船の下についた。騎士が4人、階段下で警備していて、
馬車が4台止まっている。ナルの馬車かな。
二階に腕を組んだセインが待っていた。
「おそい!」
いや、水浴びさせて。
ゼネルに引きずられて避難者がいた部屋に入ると、みんな集まっていた。
サーリャは椅子に座ってぐったり肩を落としている。
ランタンの光がサーリャの表情をより暗くさせている。
横で気遣うナル、トュリスの所へ行く。
「ごめん、捕まえれなかった」
頭を掻くしかない。
「そっか・・・」
耳が垂れさがり元気がない。
「シオン達が追っているから、
安心・・できないか」
ナルはサーリャの手を握る。
「お城も、ギルドも、安全じゃない、
ここに、いた方がいいわね」
ナルは騎士と目を合わせる。
「そうね・・」
事情はみんなに共有され、ゼネルは頭を下げる。
「そういうことがあったのだったら、言ってくれれば、ここまで送ったのだが」
言う機会を作って頂きましたでしょうか?
笑いながら、赤い実を齧る。齧った実を眺め、
「美味だの」
「こんな実、初めて見た」
「じゃあ、俺のをやるわい。こっちの実が好きじゃ」
ヴァクーはゼネルの口に赤い実を突っ込み、ゼネルが持っていた茶色い実を奪う。
「ええい、じじい!全部食べてないのだ!返せ!」
見たことの無い料理が並んでいて、どれも豪華でどうやって手を付けていいのか。
オルド、ヴァクーは皿に山盛りに積み上げている。
ナルがお城で用意してくれていた料理をここへ運んでくれたようだ。
料理長も同席しているので何の料理か教えてくれる。
「酒がうめぇぇ」
ヴァクーは樽の横に座り、何度も注いで飲んでいる。
サーリャにお菓子をお皿にのせて持っていく。
食べれる元気があって良かった。
ナルからフレイロア侯爵を紹介された。
同じく新たに領主になる者での顔合わせだ。
オルドが言っていた綺麗な人で、銀髪が腰まで伸び、左腰には丸めた鞭が付いている。
何を叩くんだろうか。
フレイロア侯爵はシオンに会えることを楽しみにしていたようだが、話を聞いて残念がった。
フレイロア侯爵は料理より船の方が気になる用だ。いろいろ質問が飛んでくる。
「島で見た時と変わっているが」
秘密で・・
「配管むき出しなのか」
壊れるから修理しやすいように・・
「なぜ外壁装甲があるのか」
最初から付いているからわからない・・
「動力パイプの1系統を使用していないのか」
2系統使用すると船が暴れるから
「2系統使うことはあるのか」
さらに高高度を飛ぶときに使う。どこまで登れるか試したことが無い
「計器の赤線は」
ここまでなら安定する線
「最高速度は」
竜を振り切れないくらい
この人はブリッジに入って物色したってことか・・・
サーリャの顔色が良くないので俺の部屋に連れて行くことにした。
ナルも手伝ってくれる。
ベットに横に寝かせ、ランタンを天井にぶら下げる。
「サーリャ、何かいる?」
「何も、いらない・・」
「俺、ここにいようか?」
「え? 一人でいるわ。ありがと」
窓から月明りがサーリャを照らす。
「ゆっくり休んで!」
階段を下りているとナルに服を摘ままれる。
「パッチ、いろいろ、ありがとう
でも、ごめん」
「なにが?」
「侯爵に・・なってもらったこと・・怒ってる?」
怒っては無いけど、衝撃を受けた。
「エルミウス様から認められた人を放っては、おけなかったの」
俺が侯爵になったら住んでいる人が迷惑するのでは?と聞くと、笑うだけだった。
領主を出来る人物が欲しいという希望を出してみた。
「考えておくよ!」
ナルなら魔法について知っているかもしれない。
「魔法?失われた力のことですよね」
ラーナの事を話してみる。ミウス教でもラーナは始まりの一人、竜は使いであり代理人だという。
右手のグローブを脱いで、ナルにラーテだという傷を見せる。
まだ、オルドと族長デュリスにしか、話していないことを言っておく。
「始まりの人・・お方?」
「え?」
「ナルよりはだいぶ年上だけど始まりの人ではないと思う」
すこし、笑いながら、グローブをつける。
ナルは考えながら呟いている。
「魔法を覚えたらですか・・」
「魔法がまだ存在していると・・」
「エルミウス様の声の通り・・
竜に出会える・・か」
ナルは我に返り、
「とっ、とにかく!パッチにも、この船にも助けられた。
お礼がしたいの」
その言葉だけで十分なのに、お礼は手に余る以上にもらったので断る。
「じゃぁ、船を直させて」
直すところなんて無い。と、船の中を見渡す。
内装が剥がれかけていたり、
「お願いするよ」
ナルの表情は明るくなった。
「私、協力できることはするよ!」
修理は明日やってくれるそうだ。
フレイロア侯爵は明日の昼には、
プリエスタへ向けて出発するので、
エルディンまで乗せてもらうことにした。
船は中央駅近くの空中戦艦のあった港に停泊している。
ナル達は迎えに来た騎士と一緒に城へ戻っていった。
船の中は一気に静かになった。
ヴァクーとオルド、ゼネルの騒ぎ声だけだ。
ヴァクーの部屋で寝ることにした。
早朝、
隣部屋のドアの閉じる音がした。
しばらくして、
「ぎゃああぁぁ」
サーリャの声だ。また、誘拐?
急いで部屋に入ると、サーリャはベットの端で布団を足で押している。
布団をめくると酒瓶を抱えるトリアが寝ていた。
「ト・トリア?」
サーリャはベットから落とそうと、トリアを足で押している。
トュリスは指を指しながら、
「この人にしっぽ踏まれた。この人キライ!」
セインはしっぽをさすってあげる。
ドサッ!!
トリアが床に落ちた。
「いてっ、ありゃ?サーリャ?」
「ありゃじゃないわよ、何しに来たの!!」
「あれ?なんでサーリャ?レノの部屋だと思って・・・」
「レノ?あ~
あなた、毎回こんなこと、やっているの?」
「いつも、逃げられるの。今日は、動かなかったからいけると思ったの」
「あきれるわね・・」
サーリャは部屋の外を指さす。トリアはトボトボと歩いて出てきた。
「あ!レノ!!」
トリアがもじもじ体をくねらせた。
「ね~わたしをよめにしない?」
まだ、酔ってんのか・・
「むり!」
「え~ん」
ウソ泣きをしながら階段を下りていく。
「警備の抜け穴じゃ」
トリアはギルド職員だから通過できたので、出入禁止とした。




