右手のラーテ
「おかえり、ラーテ」
「え?」
体が女の方へ引き寄せられ、結界を跨いでしまった。
「ほら・・大丈夫でしょ」
女は俺の右手を両手でそっと握り頬につける。
「ラーテがいる。暖かい・・
ごめんね・・・しばらくこうさせてね」
女は涙を流していた。
俺を座らせ、その上に座って手をさする。
腕がまた熱くなる。続いて体も心の奥から熱いものが込み上げてくる。
しばらくでは無かった。光が真横からさすほど時間が経っていた。
涙を拭い立ち上がると振り返り手を伸ばす。
顔は女と言うより少女のような顔つきになっていた。
「ありがとう、少し気持ちは落ち着いたよ」
手をとって立ち上がると
「君は、長い旅をしてきたようだね」
「ラーテの力を感じたでしょ?」
ラーテの力?って
エルミウスから追われた時も
雪原に落ちた時も
魔獣の戦いの時も
感じたはずだよ!・・
「いずれ、魔法を覚えたら、ここへ来て欲しいの」
まほう?
「約束よ」
女が周りをキョロキョロし出した。
「ああ・・闇がやってくる・・私を苦しめにくるの」
「またね!ラーテ」
ラーナが遠くに消えていく。
ラーナの周囲に影が群がる。
ここは・・・
獣族の村か・・
パチっパチっ
木の燃える匂いがする。
デュリスの横顔が揺れる炎に照らされる・・・何かをかき混ぜながら、煮込んでいる?
部屋を抜ける風が気持ちいい・・・
「気がつかれましたか」
デュリスが差し出した木のコップには、緑色のとろみのある液体が入っていた。
「これを飲んで、一息つかれたら良いでしょう」
くぅ!苦い。
「人にはあわなかったようですかな」
苦いけど、甘みが出てくる不思議な飲み物だ。
右手の甲が熱い、コップを置いて甲を見ると黒い竜の形の傷跡が浮き上がっている。
「これは・・・」
「私も、驚きました」
デュリスは何があったのか語り始める。
光が集まり、魔幹樹の中に入っていった。
魔幹樹は俺の道を作るかのように。
光が沈んだ時に魔幹樹の中から現れ、その場で倒れたそうだ。
デュリスは思い出したように、あわてて立ち上がり、小屋の天井に飾ってある剣を持ってきた。
鞘には豪華な竜の彫り物がされている立派なものだ。
受け取ると剣の柄に同じ竜の紋章が入っている。
刃の部分を傾けると薄く文字が浮き出た。
「エテス文字だ」
「エテス?」
「我々が代々守っている教義だ。剣を収め石を奉る。
ミウスも、ラナロもエテスが元になっている」
「ごめん、宗教はよくわからないんだ」
「そうか、それはよくわからんが・・・
紋章を持つものは我々の先導する者である」
「先導する者?」
「ラーナ・ラーテとの対話をする者といってもいいだろう」
竜石戦争後にもそういう者が現れたことがあった。
耳長族の女性が魔法で黒い岩の落下を止めて、あの地下都市から人々を救い出した。
手の甲には同じような紋章があったと。
「星が浮かぶ神殿の中で会った女性がラーナと言っていた」
「やはり、あなたは、先導するものだった」
「いや・・ラーナは、俺のことをラーテと呼んでた。腕だけど」
デュリスは驚いて両ひざをついてひれ伏した。
「我らの新たな先導者として居てください」
え?待て!話が重い。それに、ひれ伏す必要もない。
「この話は?」
「まだ、誰にもしてはおりません」
「良かった・・この件は三人だけの秘密にしておこう」
「な・なぜ?我らを見放すというのか!」
そういう意味ではなくて、その覚悟はナルのようには出来てはいないということを言いたかった。
「ナルのように覚悟が出来ていないんだ」
まじめな目を作ってデュリスの目を見て答えた。
「いきなりですからな、わからなくもない話です」
そういう柄ではないのだがね
「今は、船長として、多くの人を導いているってことですか」
そういうことにしておこう。
それに俺は、間違ったことをする人間でもあるからね。
「オルド、そこにいるんだろ?」
「なんでわかった?」
小屋の影からオルドが難しい顔をして出てきた。
「いや・・なんか・・わかった」
「すべて、聞いてしまったよ
ここがまさか、ラーナ様の封印された土地だとは思わなかったぜ」
封印?結界の中にいたよな。
「魔法を覚えたら、また、ここに来いと言ってたけど問題だ・・」
「魔法・・・」
デュリスとオルドは互いに目を合わせ考える。
「魔法はどうやって覚えるの?知ってる?」
三人は顔を合わせる。
「しらないよな」
どうする・・上を向いて考えても何も出ない。
「それより!
ラーテ様がいると一族が繁栄すると聞いたことがある。パッチ様、俺の故郷へ・・」
「お主!抜け駆けか?」
デュリスとオルドは互いの体をぶつけあう。
「様はいらない。三人だけの秘密だぞ!」
「そういえば、ここの村では子供の歌でナンテ歌ってある?」
オルドはデュリスに唐突に質問を出す。
「ある」
簡単に答える。
オルドは、え?あるの?と驚いた顔をした。
「「ラーテはドジな子、ラーナは賢い子、ラーンは強い子~」」
おっさん二人が歌い出した。俺はこの歌はしらないけど右腕が嫌な感じと拒否した気がする。




