竜の間
ヴァクー、セインと仕事をする前のこと、
レンティスから浮遊エルサンドラに出発しようとしていた所、
ギルドの職員が走ってやってきて、
「パッチ!!追加の荷物だ!少し待ってくれ」
「追加?貨物室を整理しないといけないぞ?」
「大丈夫だ!歩く荷物だからな」
「何人?」
「670人だ!詰め込めば何とか行けるだろ?
もちろん報酬は上乗せする!」
「そんなに乗せるなら、何人か雇わないとダメだな」
「それな・・予定が空いているやつがいないんだよ」
「俺一人で600人相手?」
「670だ!
定期船が故障して動かないんだ」
「ランシェットの船か?」
「そうだ!!」
「やってくれるよな?」
「あいつに言っておいてくれ!!収集している本から一冊もらうぞってな!!」
「本ってなんだ?」
「言えばわかる」
「エルセンドラの港に寄って客を下ろし、貨物港へ向かってくれ!!」
「わかった。向こうにも連絡しておいてくれ!掃除の手配も!!」
「ありがとうな!!」
謁見空間のようで太い6本の柱が2列並んで高い天井を支えている。
柱には竜の彫刻が、天井には夜空を飛ぶ竜が描かれ、竜信仰の強さが見て感じ不思議な感覚に襲われた。
天井から吊るされた明かりがこの世界の星を表しているのか・・
二つの大星と四つ星・・・。
天井に空間に引き込まれそうになった。
「どうした、行くぞ」
みんなが振り向いていた。
奥に見える椅子の後ろにも、竜の息吹から星が生まれ、生物が進化するようなガラス絵がある。
その手前に男が立って待っている。
案内役の女性兵士はゆっくりと、
ゼネルは堂々として先頭を進み、2000人以上の兵士の視線を受けながら。
ナルも姫に戻ったような仕草、口を固く閉じて前を見て進んでいる。
皆、負傷しているが兵士に悟らせないようにして歩く。
両側に兵士が綺麗に整列して、こっちを見ている。
正面の男は、腰に剣を差し、派手ではないが他の兵士の装備と異なる装いをしている。
その左側には縄で縛られた領主や家臣、400人ほど座らされていてこっちを睨んでいる。立ちあがろうとして兵士に取り押さえられる領主もいた。
正面の兵士は手を前に出し、留まるように仕草をする。
「情報の通りだな」
「暴獣に、元皇帝、それとウインザードのお姫様」
流石に「皇帝」と「姫」と兵士から発せられると周囲は騒つく。
「え?皇帝?」
「姫?」
「どれが姫?」
「あの獣人の子じゃない?可愛い」
「皇帝は?」
「先頭のあの小さい長耳?」
「可愛い」
どこからか情報が流れている。筒抜け?
「暴獣ってアタイ?」
アルインに小声で聞く。
「姉さん以外誰がいんの?」
肘をぶつける。
「ゼネルのこと可愛いって。可愛い裏の顔は獣ババアじゃ」
こんな時に冗談を・・。ゼネルの耳が動きヴァクーの体が震える。
コホン!
兵士が咳払いをすると元の張り詰めた空気に戻った。
兵士が手を挙げると衛兵がクンガーとバリーを捕まえ、領主達のそばに連れていく。
「悪いな。お前達はこっち側だ」
兵士は呟く。
「こうなるよな・・」
クンガーとバリーの顔が暗くなった。
兵士は捕えられた領主達を指差し、
「兵士諸君!
浮遊エルセンドラの破壊行為をこの国で実行しようとする者達と戦い防ぐことができた!ご苦労だった。
だが、国境付近に隠されていた7隻の輸送船のうち、3隻を見つけたのはこの周辺だった。墜落した形でだ」
7隻もいたのか。
「我々と共に戦った彼らを讃えたい!!」
拍手が湧き起こる。
バコン!
拍手に紛れてヴァクーの頭にゼネルの拳が降りていた。
「さらに、昨日、都で教王が倒された。諸君らは実際に見たであろうが神殿が跡形もなく消失している。
それは、我々が待っていたバーミリア様の復活」
兵士達の姿勢が整えられビシッと音が鳴った。
感謝?
「ヴィデを守るだけでなく、この国を救ってくれた。
教王を倒したのは?」
ゼネルは俺の手を掴み腕を抱える。
「そのお方か」
おかた?
「バーミリア様の・・・・
失礼、私はウェルターナ・アイゼル。ここを任されている者です。アイゼルとおよびください」
「あなたは何と」
空間は鎮まり、俺の名前を聞くために待っている。
「声が・・」
やべ・・声の調子が・・出ない。
ゼネルの薬の効果がまだ持続している。
そろそろ、切れるのではなかったのか?
「コエガ様」
なんで・・・また名前が違うものに・・。
ゼネル!下を向いて笑ってないで訂正してくれ。
ヴァクー、セイン!!これ以上名前を増やしたくない。
「教王を倒し、輸送船を撃ち落とし、家族、友を守ったバーミリア様の使徒、コエガ様にこそ、この椅子がふさわしい。
コエガ様!さぁ、この椅子にお座りください」
使徒って?嫌だ・・絶対に面倒な話になる。
あっちが勝手にやってきた。
横にいるゼネルは小声で、
「座らなきゃ話が進まん」
見えないように足をつねってきた。
この椅子は、玉座みたいなものじゃないか?
サーリャ、ヴァクー、セイン!!
無視するな!!
こういうの好きそうな、あの二人は?振り返り遠くにいるクンガー、バリーをみる。
そむけた・・
視線を遮断して、
「諦めろ」
仕草は可愛いが、心は・・・
これは、新たな苦労というやつを抱え込む儀式だ。
椅子に腰を下ろすと、
「バーミリア様の使徒が長い時を経て、ここにお戻りになられたのだ」
何で?勝手に・・バーミリアは迷惑だと思っているだろう。
そんな気持ちを知らない兵士達は歓喜の声を上げる。
「今日!我々は、勝ち負けで言うと負けていた。だが、彼らの活躍で災厄な事態は防ぐことができた」
なんか・・色々と話を聞いていると、
頭がぼやけ、何を言っているのか分からなくなった。
「コエガ様?」
「行きましょう!」
「お疲れでしょ?」
ゼネルか・・
玉座から立ちあがろうとすると、体が妙に暑くなっている。
やばい・・みんなが注目する中で。
立ち上がるとモロに・・・
「さあ!」
何とでもなれ!!
ゼネルが横に立ち、囁く。
「アレが、ビンビンなんだろ?」
お前!!
なんてものを飲ませてくれたんだ!?
仕方がない、覚悟を決めて椅子から立ち上がると、
男性兵士は盛り上がり、
女性兵士は口を手で隠したり、
顔を赤くしたりしている。
アイゼルは頭を掻いて来た道を歩き出す。
ナルは顔を手で隠しているようだが、隙間からしっかり見ており、
サーリャは顔を赤くしてゼネルを引っ張り怒っている。
暴獣と化したガーランドはシオンに取り押さえられている。
兵士達の隊列は崩れ、後ろにいた兵士は騒ぎを見たくて前に殺到する。
早くここから離れたいので大股で歩くと擦れて余計に気になる。
扉を閉めても中から騒ぎ声が止まらない。
「あんた!!何飲ませてんの!!」
サーリャがゼネルの頬を引っ張ってる。
「あんなに効果が続くとは思ってなかった」
「それにしても、すごい効果じゃな」
俺のふくらんだズボンを見ながら、欲しそうにヴァクーはゼネルに手を差し出す。
「いつも持ち歩くと思っているのか?
それに、さっき、獣なんとかって言ってたな。」
バコン!
「さっき叩いただろ」
頭を抱えて、ズレた兜を直す。
「竜のように上がっておられますね。
私は、少し準備をしてきますのでノリア兵長に案内させます」
頭を下げアイゼルは歩いて行った。
高高度を飛んで時間を短縮するしかない。報酬も期待できるし丁度いい気流がある。
この時期にエルセンドラまで行く理由が何か分からない。
ゾロゾロとくる人の流れ。
レンティスの港は水港で2階のハッチに直接、接続橋を繋げることができる。
奥の部屋からお客を詰め込んで行く。
入り口ではギルド職員と客が揉めている。
「こんなボロに俺たちを乗せるのか?
高い金払ってんだよ!代わりの船はもっと良いのだせや!」
ガタイのいい男が詰め寄ってくる。
「だから、彼、言ってますよね。すぐに出せる船はこれしかないのですよ。
嫌だったら次の船に乗れば?」
男の顔がムッとする。
「次は来週だろ?偉そうに、お前!何なんだ?」
「船長だ」
拳は目の前を掠め抜ける。
腹に一発、男はお腹を抱えて倒れ込む。
「遅れるって!わかる?」
「わ・わかったよ!!乗せてください」
素直でいいね。
最後の客を詰め込むと二階の廊下にまで溢れている。
ブリッジに入り、通話機で
「一階と三階には飛行するのに重要な設備があるので入らないでくださいね」
「飛行時間は五時間の予定を三時間で飛行します。高高度を飛びますので耳が少し痛くなる事がありますが、驚かないでください」
空が綺麗だ。飛んでいるだけで良い。
今日は下の荷物が騒がしさを除けば。
「ここが、前が見えるね」
子供が登ってきた。
「どこも触らないでね。墜落しちゃうからね」
「墜落怖い〜」
目が離せない獣人の子供という種族がきた。
「こんなに広いのに一人だけ?」
なんか胸に刺さるようなことを言うな。
「そ・そうだよ」
「ボロにボッチなんだぁ」
生意気な〜〜〜〜〜〜。
一人が入ると子供は子供を呼ぶ。
「絶対に、触るなよ!!死ぬから!」
「死ぬって?」
「親に教えてもらえ!!」
「怒った」
「怒るわ」
しばらく、精神力をすり減らしながら相手をしていたが限界。
通話機で子供が3階に来ているので迎えに来てと呼びかけ、
すぐに親達が走ってきた。
「親から離れたら、悪い人に攫われちゃうぞ!」
「「わかった」」
わかってないだろう。
親達は頭を下げて、子供を叱りつけた。




