這い寄る気配
なにか様子がおかしい温泉地…
伝承、おかしな規則、人々に感じられる違和感…
ーーそんな中4人は作戦を実行する。
今宵、禁忌に足を踏み入れる…
現在19時。夕食の時間である。
〜桔梗の間〜
「お食事をお持ちいたしました。」
「うわ〜。美味しそう!」
〜秋桜の間〜
「美味しそうなお食事ね。」
「そうだな。」
「わたしもあれが食べたいなぁ…?」
「ないぞ。」
「えぇ〜!」
「どうしても食べたいのなら隣に行ってもらってくることだな。」
「けっ!意地の悪い。」
そう言い残して雲井は出て行った。監視カメラには新しく雲井の姿が見えた。
〜桔梗の間〜
「ねえねえ。お食事少し分けて!」
〜秋桜の間〜
「あいつ、マジで行きやがった…」
…
20時
〜秋桜の間〜
「ねえあと何時間?」
「あと2時間だ。」
「じゃあわたしお風呂はいるから。覗かないでね?」
「はいはい。」
黒霧島は監視カメラの映像を見ていた。
(あの押し入れ、何かがおかしい。監視カメラ越しでもわかる…)
その押し入れは他の家具とは明らかに違う危険なオーラを放っているのが映像越しに伝わってくる。
〜桔梗の間〜
「ねえお風呂入ろう。」
「一緒に入る?」
「う…うん///」
〜秋桜の間〜
(あいつらも風呂か…ん?押し入れが…?)
例の押し入れが少しだけ開いている。そこには少し爪が見えている。
(やはりいるな、"やつ"が。)
〜桔梗の間・温泉〜
「柊哉って結構体かっちりしてるよね。」
「そう?」
柊哉の体をベタベタ触りながらしゃくちゃんが囁いた。柊哉もしゃくちゃんと手を絡ませる。山奥から草を分ける音が聞こえる。
「しゃくちゃんもスベスベしてる…」
「…///」
しゃくちゃんの脚を撫でながら距離を詰める。何者かが近づく気配を感じ取った。その気配をかき消すように柊哉は手で胴体を触りながら唇を触れ合わせた。
「ちゅっ…」
「んっ…///」
しゃくちゃんは接吻をしながらも、不穏なオーラを感じ取った。
「ねぇ…何かが近づいてるよ…?」
しゃくちゃんは柊哉に耳打ちをする。どんどん何者かが近づいてくる。
「早めにあがる?」
柊哉も耳打ちをした。明らかに視線を感じる。
「そうだね…じゃあ一緒に洗お?」
「そうしようか。」
2人はそそくさと身体を洗って浴場から出て行った。
〜秋桜の間〜
20時21分
(意外と早かったな。雲井の方が遅いぞ。)
監視カメラには風呂上がりの2人の姿があった。襖の隙間はいつの間にか閉まっていた。
「あがったわよ〜。」
「ん。じゃあ交代な。」
「はーい。」
黒霧島は雲井と交代で風呂に入った。
〜桔梗の間〜
2人は浴場で感じ取った視線はまだ記憶に残っていた。
「ねえ牛乳飲む?」
「飲みたい。俺にも頂戴。」
「はーい。」
しゃくちゃんは牛乳を柊哉に手渡した。
20時35分、廊下から軋む音が聞こえる。
ギィ…
〜秋桜の間〜
20時50分、監視カメラの映像に謎のノイズが走る。
「ちょっとなによこれ、壊れてるんじゃないの?」
21時、黒霧島が浴場から出てきた。
「様子はどうだ?」
「ちょっと、あんたのカメラ壊れてるんじゃない?」
「なにがだ?」
黒霧島はモニターを覗き込んだ。そこにあったのは正常に隣の部屋を写したモニターだった。
「どこが壊れてるんだ?」
「え?なんで…?」
雲井が確認した時にはノイズが走っていたが、黒霧島が見た時には正常だった。
「さ…さっきノイズが走ってたのよ…!」
「そうか…それは少しまずいかもな…」
「どうして…?」
雲井が質問した。
「このカメラは小型の蜘蛛に仕掛けた。だからよく見ないとわからないんだ。」
「だからなによ?」
「そのカメラにノイズが走ったということは、おそらくやつは"これに気づいている"ということだ。」
「…!」
「…予定変更だ。今すぐに作戦を実行させる。」
黒霧島は柊哉にメッセージを送った。
〜桔梗の間〜
「?先輩からメッセージ?」
「なんて?」
「今すぐに作戦を実行しろ、だって。」
「まだ22時じゃないよ?」
「とにかく、早めにしよう。」
「そうだね…」
柊哉は部屋の照明を暗くした。2人は布団の上で浴衣の帯を解き合う。
「じゃあ…始めるよ…?」
「うん…///」
浴衣を脱いだ2人は唇を触れ合わせ、舌を絡ませる。
浴場の方から水が跳ねる音が聞こえた。草を分けていた"やつ"が浴場に来た。しゃくちゃんの意識がそっちに向かう。
〜秋桜の間〜
「始めたようだな…ここから先は起きとけよ。」
「ね…ねえ、これ見ないといけないの?」
「当たり前だろ。見てないとやつが出てきてもわからないだろ。」
「ええー。なんか、やだよ。」
「文句言うな。」
2人は監視カメラの映像を凝視している。
「これいつ終わるの?」
「さあな。」
「早く終わってよ…」
21時10分
〜桔梗の間〜
「んっ…」
「はあ…はあ…もう終わり…?」
柊哉は濡れた足がゆっくりと歩いてくる音を聞いた。その音への意識を掻き消すようにしゃくちゃんの首筋に舌を当てる。廊下の軋みも少しずつ近づいてきている。
「あっ…///はあ…はあ…」
その時浴場の方から濡れた足音が聞こえた。
しゃくちゃんはその音に意識がいった。
その時柊哉がしゃくちゃんの耳のふちを舌でなぞり、意識を遠ざける。柊哉はしゃくちゃんを守るように耳に囁き続ける。しゃくちゃんは体を震わしている。廊下の軋みが近づいてきている。
〜桔梗の間〜
「こいつら10分間同じことしてるんだけど…!」
雲井の顔が赤くなっている。
「きっと長くなるな。寝るなよ?」
「寝たらダメなの?」
「起きとけよ。」
「もう…」
監視カメラからは違和感は確認できない。しかし、ノイズは少し増えてきた。
〜21時30分〜
「今度はわたしがやるね…」
しゃくちゃんは首筋に唇を触れ合わせると、柊哉の胸部に舌を這わせ、意識を集中させた。浴場の扉には濡れた手形が写っていた。しゃくちゃんは浴場からの視線を感じた。桔梗の間の襖には長い髪の毛が挟まっていた。
「っ…」
「きもちい?」
「きもちい…」
浴場の扉の水分が脱衣所側にもついた。脱衣所の床から濡れた足音がする。鏡には女性の手垢のようなものがついた。
〜秋桜の間〜
「ねえほんとに寝ていい?」
「しょうがないな。じゃあ何かあったら起こすわ。」
「じゃあ寝るわ。」
雲井は布団に篭った。
(まだなにもなさそうだな。ん?)
鏡の中に目のない人間が映り込んでいた。ノイズが激しくなった。
〜桔梗の間〜
21時38分
脱衣所の籠が落下する。否が応でもその音に反応した。濡れた足音はじっくりと2人へ近づいてくる。
「しゃくちゃん…俺だけを見て?」
柊哉はしゃくちゃんを抱き寄せ耳元で言った。それは音からしゃくちゃんの意識を遠ざけた。
脱衣所の濡れた足音がだんだんとこちらの部屋に近づいてくる。それは2人に意識させるほどだった。その意識を外すように、2人は行為を進展させる。
「ち、ちょっと…///」
「どうしたの?」
「胸、自信ないから…」
脱衣所で聞こえる足跡がこの部屋の扉を挟んですぐのところで聞こえてくるようになった。それと同時に鏡に水滴がついた。障子の和紙が水で濡れた。
「あっ…///ん…ふぁ…」
ギィ…ギィ…ギィ…
遠くにあった畳の足跡はだんだんと2人に近づいてくる。その意識を掻き消すように柊哉はしゃくちゃんに艶めかしい声を出させた。2人の体温があがる。それにつれて、部屋の温度が下がっていく。
〜秋桜の間〜
(声で聞き取りづらいけど、明らかに音が増えてるな…)
黒霧島はエナジードリンクを飲みながら監視カメラを見ていた。黒霧島は部屋の中が行為前より濡れていることに気づいた。
(なんだこの異様な水滴…)
〜桔梗の間〜
22時10分
「じゃあ…行くよ?」
「うん…///」
〜秋桜の間〜
(もう少しか…)
監視カメラからは、濡れた足音、畳をゆっくりと歩く音、そして桔梗の間が軋む音が聞こえる。
(ん…?)
黒霧島は違和感に気づいた。後ろの押し入れが開いている。しかし、2人は行為に夢中で気づいていなかった。押し入れから爪が出ていた。
(大丈夫か…?)
桔梗の間の床が軋む中、脱衣所の前の畳が濡れた足跡に浸食された。しかし、まだ2人は気づいていない。
激しさが増す。それにつれて、廊下側の畳の足跡が近づいてくる。脱衣所から続く濡れた足跡はどんどん2人の方に近づいていく。
ペタ…
ペタ…
自らの行為の声のせいで2人は異変に気づいていない。黒霧島が気づいた時には濡れた足跡はもう布団のすぐそばまで来ていた。 ノイズがさらにひどくなった。
いつの間にか時計は23時を回っていた。
ー23時8分…
行為は終わりを迎えた。柊哉としゃくちゃんは疲れ果てて寝てしまった。監視カメラはそんな映像を映し出した。布団は汗とやつの足跡でびしょ濡れである。黒霧島は監視カメラの映像を見ていた。黒霧島はエナジードリンクを溢してしまった。
全ての音がぴたりと止んだ。2人の呼吸音だけが小さく響いていた。一つの音が静寂を破った。押し入れが開く音である。
キィ…
キィ…
ー押し入れが大きく開いた。そこから長い髪の毛が垂れてきた。それからゆっくりと姿を現したのは"目を潰された女性の霊"である。
「雲井おきろ!やつが出た。」
「え?」
「2人が危険だ。はやくしろ!」
雲井は眠い目を擦りながら護符を持って桔梗の間に向かった。
エロの中に侵食するホラーという表現が非常に難しかった。




