Lv.94 救助
[Ⅰ]
バートンに案内される事、約3分。
前方に、バートンの言っていた十字路が見えてきた。
またそれと共に、十字路付近で9名の者達が、20数体の魔物に取り囲まれるという、非常に危険な状況に陥っているのも、目に飛び込んできたのである。
彼等の内の何名かは深い傷を負っているようで、地面には幾つかの赤い血痕が出来ていた。
まさしく、絶体絶命といった感じだ。
早く手当をしないと不味いかもしれない。
魔物は思った通り、鬼百足と狂暴猿、そして寸胴体型の黄土色の魔物、ドルイドのようだ。
ちなみにリアルなドルイドは……コンドームを連想させる卑猥な形状だった。
勿論、手と足もある。
つまり……あえてわかりやすく言うなら、歩くチ〇コぽい魔物と言えよう。
亀頭を思わせる上部には、切れ長の赤い目と、嫌らしく笑う口があった。
なんとなくだが、擦るような攻撃は控えたほうがよさそうである。
エレクトされたら大変だ。
まぁそれはさておき、数がかなり多かったが、敵はある程度グループ化しているのが好都合であった。
「あそこや! あんちゃん達、ワイは空から援護するさかい、後は頼んだで!」
バートンはそう言うと、更に上空へと舞い上がった。
そして俺達は、魔物達に近づいたところで馬車を止め、臨戦態勢に入ったのである。
俺はまずアーシャさんとイアちゃんに指示を出した。
「敵はある程度固まっていますんで、手っ取り早くやっちゃいましょう。先手必勝です。アーシャさんは向こうにいる百足の一団にブレズナンをお願いします。それからイアちゃんは、杖を持った黄土色のドルイドという魔物達に、ウィザレスをお願いします」
2人は頷くと、言われた通り、魔法を唱えた。
「ブレズナン!」
「ウィザレス!」
百足の一団に無数の氷の矢が容赦なく突き刺さってゆく。
また同じくして、ドルイド達の周りには、呪文をジャミングする黄色い霧が纏わりつきはじめていた。
霧が全てのドルイドに纏わりついたのを見ると、どうやら魔法を封じるのに成功したみたいである。
俺は次の指示を前衛に出した。
「ではレイスさんとシェーラさん、今から俺がオライアを使います。ですが、あの黄土色の魔物は攻撃魔法全般に耐性があると思いますんで、生き残った奴等を仕留めていってください」
「わかったわ」
「よし、いつでもいいぞ」
俺は掌を魔物達に向かって突きだした。
「ではいきますよ。オライア!」
俺の掌から魔力の塊である白い光が飛んでゆく。
光は魔物達の付近でフラッシュをたいたかのような閃光を放ち、爆発を巻き起こした。
魔物達は爆発をモロに浴びて吹っ飛んでゆく。
この一撃で半数の魔物は死ぬか、虫の息状態となった。
だが、思った通り、ドルイドにオラム系は効かないのか、ビンビン……いや、ピンピンとしていた。
しかし、これは想定の範囲内。
ここでレイスさんとシェーラさんが、付近のドルイドに一気に間合いを詰め、破邪の剣を振り降ろしたのだ。
その刹那、2体のドルイドは脳天から真っ二つに両断されて息絶えた。
と、その時である。
向こうの冒険者達も俺達の加勢に気付いたようで、生き残った魔物達に向かい攻撃を開始したのだ。
すると瞬く間に戦況は逆転し、魔物達は打つ手なく、俺達の刃に掛かって倒れていったのである。
[Ⅱ]
魔物達を全て倒したところで、バートンが俺達の所に舞い降りてきた。
「あんちゃん達、めっちゃ強いやんけ! ワイの援護なんか、全然必要なかったやん。凄いわぁ」
「褒めても何も出んぞ」
「そんなん期待してへんて、ワイの素直な気持ちや」
俺とバートンがそんなやり取りしてると、向こうの冒険者の1人がこちらの方へとやってきた。
近づいてきたのは眼鏡を掛けた色白の若い男で、イシュラナの紋章が描かれた神官服を身に纏っていた。
ちなみに、イシュラナの紋章とは、アスタリスクみたいな光のシンボルである。
年はかなり若く、俺よりも年下に見える。
多分、10代後半から20代前半といったところだろう。
体型は痩せ型で、背はそれほど高くない。170cmあるかないかといったくらいだ。
この見た目から察するに、どうやらイシュラナ神殿の神官のようである。
男は俺達の前に来ると、深々と頭を下げてきた。
「ど、どなたか存じませんが、危ないところを本当にありがとうございました」
「いや、気にしなくていいよ。それよりも、仲間がかなり深い傷を負っているみたいだから、早く治療をしないと不味いよ」
「あ、そ、そうでした。で、ですが……薬草も魔力も尽きてしまって……」
男は消え入りそうな声で、そう呟いた。
まぁこうなった以上仕方ない。
俺達が治療するしかないだろう。
「わかった、手を貸そう。イアちゃんもいいかい?」
「はい」
「あ、ありがとうございます」
男は涙を流して頭を下げた。
というわけで、俺とイアちゃんは、怪我人の元へと急ぎ駆け寄ったのである。
負傷者は男3人で、見たところ全員戦士タイプのようだ。
先程の神官同様、年も若い。
だが、青銅の剣や鎖帷子を装備しているところを見ると、経験の浅い、駆け出しの冒険者のようであった。
また、この負傷者の周囲には商人と思われる者が2名と、駆け出しの魔法使いと思われる若い男女が2名、それと戦士タイプの若者が1名の計5名がおり、彼等は今、地に伏せる負傷者に声掛けしながら介抱している最中であった。
「おい、しっかりしろ!」
「ゲイル! アンザ! ヒュイ! 返事をして!」
必死に名前を呼んでいるが、虫の息といった感じだ。
この3名の負傷者は至る所にかなり深い裂傷を負っている上に、毒に侵されている者もいた。
俺とイアちゃんは、アグナやベルレアを使って急ぎ治療を開始したのである。
ここまでの怪我人にベルレアを使った事はなかったので、上手くいくのかどうかが少し不安ではあったが、ベルレアは流石に回復力が強く、彼等の深い傷も見る見る塞がっていくのがよくわかった。
治療しておいてなんだが、その効果を目の当たりにして、心強い回復魔法だと俺は改めて思ったのである。
それはさておき、ある程度傷が回復したところで、俺は彼等に言った。
「これでもう大丈夫だろう。でも出血が多かったから、少し安静にしていた方がいいね。魔法で傷は治せても血は戻らないからさ」
そう……実は、魔法で傷は治せても、出血した血液までは戻らないのである。
これをヴァロムさんから教わった時は、俺も少し驚いた。
だが、よくよく考えてみると、それが当然なのである。
なぜなら、レア系は傷を癒す魔法だからだ。
造血まではしてくれないのである。
俺の言葉を聞き、イシュラナの神官服を着た先程の男が、深々と頭を下げた。
「あ、ありがとうございました。助けていただいた上に、仲間の治療までしていただいて。本当に、本当に、ありがとうございました」
「礼なら、あのバートンにも言ってやってよ。彼が俺達に知らせてくれたんだから」
「そ、そうだったのですか。どうもありがとうございました。貴方のお蔭で私達は救われました」
そう言って、男はバートンに頭を下げた。
「別にええって。持ちつ持たれつや」
気さくなバートンである。
「しかし、それにしても災難だったね。あんなに沢山の魔物と遭遇するなんてさ」
「はい……まったくです。私達は、この遥か向こうにあるネルバという小さな村から来たのですが、道中現れる魔物は、ネルバ周辺程度だろうと思って旅してきたのです。ですが……まさか、この地の魔物がここまで強力だとは思いもしませんでした……」
すると、商人と思わしき中年の男が話に入ってきた。
「すまないな、テト君。俺が久しぶりに仕入れに行きたいなんて言ったばかりに、こんな目に遭わせてしまって……」
「いや、僕達の考えが甘かったんです。謝るのはこちらの方ですよ」
「しかし……村で一番の冒険者である君達でも手に負えない魔物が出るとはなぁ……。嫌な世の中になっちまったもんだ」
この男の言葉を聞き、冒険者6人は大きく溜め息を吐いた。
「ここ最近、王都に向かうにつれ、次第に魔物が強くなってきているそうだ。君達がどこに向かっているのか分からないが、甘い考えで行動すると、次は命を落とすことになるぞ。この先は、よく考えて行動をするんだな」
レイスさんがやや強い口調で、彼等に忠告をした。
それを聞き、6人の冒険者達は更にショボ~ンとなった。
神官服の男が気まずそうに口を開く。
「はい、仰る通りです。面目ありません……。あの、ところで、貴方がたはこれからどちらに向かわれるのですか?」
「俺達は、ルーヴェラに向かっている途中だけど」
すると、彼等はホッと息を吐いたのだ。
「我々もルーヴェラに向かっているのです。どうか是非、ご一緒させてください。この通りです」
神官服の男はそう言って、また深々と頭を下げてきた。
他の者達も、彼に続く。
俺はそこで仲間に視線を向け、アイコンタクトを取った。
「私は別に構いませんわよ」
「私も良いわよ」
「私も良いです」
「こうなった以上、仕方あるまい」
仲間の了解がとれたので、俺は彼等に返事をした。
「じゃあ、一緒に行くとするか。でも日が落ちる前に街に着きたいから、急いで出発の準備に取り掛かってくれるかい」
「は、はい、すぐに準備します」
「ワイもルーヴェラに行かなアカンから、あんちゃん達と一緒に行くわ」
とまぁそんなわけで、俺達は彼等と共に、ルーヴェラへ向かう事になったのだ。




