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前略、目が覚めたら、なぜかRPG世界にいたんだが……。  作者: 書仙凡人
第三章 前略、王都へ

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Lv.92 兄の手紙

   [Ⅰ]



 ひっそりと静かな木陰が続く山道に、カラカラとした俺達の馬車音が響き渡る。

 耳を澄ますと、そよ風に揺れる枝葉のさわさわとした音や、キィキィと鳴く野鳥の声が聞こえる。

 俺は今まで魔物の襲撃を過剰に警戒するあまり、自然界の音にそれほど気を配ってこなかったが、こうやって耳を傾けてみると、妙に気分が落ち着くものだなと思った。

 もしかすると、自然が奏でる何気ない音には、思った以上にリラクゼーション効果があるのかもしれない。

 まぁそれはさておき、俺達がガルテナを出発してから20分程経過したところで、前方にV字型になった深い谷が見えてくるようになった。

 恐らく、あれがモルドの谷と呼ばれる所なのだろう。

 谷には頭上を遮る枝葉もない為、空一面がモクモクとした灰色の雲に覆われているのが、ここからでもよく見える。

 見た感じだと雨雲ではなさそうなので、今しばらくは雨の心配をしなくてもよさそうだ。

 また、果てしなく伸びる道の両脇には、青々とした草木が生い茂る緩やかな山の裾野が広がっており、その遥か頂きへ視線を移すと、天を突き刺すかのような鋭利な刃物を思わせる山の先端部が、俺の視界に入ってくる。

 標高は2000mくらいだろうか……。

 まぁその辺の事はわからないが、ここはガルテナ連峰と呼ばれる山岳地帯なので、それくらいはあっても不思議ではないだろう。

 とりあえず、モルドの谷とはそんな感じの所であった。


   *


 話は変わるが、谷の名前であるモルドとは、その昔、この地で活躍した旅の戦士の名前だそうだ。

 これはガルテナを出発する前に宿屋の主人から聞いた話なのだが、なんでも、300年ほど前に谷で悪さしていた魔物がいたらしく、それをモルドという戦士が退治してくれた事から、村の者達が感謝の意を込めてそう名付けたそうである。

 まぁこの手の英雄譚は日本昔話でもよく見かけるので珍しくもなんともないが、何気ない地名にもちゃんと由来はあるようだ。

 つーわけで、話を戻そう。


   *


 モルドの谷を暫く進んだところで、ティレスさんから預かっている物があるのを俺は思い出した。

 ちなみにそれは、旅が始まったらアーシャさんに渡してくれと言われていた手紙であった。

 というわけで、俺は道具入れの中から白い封筒を取り出し、隣に座るアーシャさんにそれを差し出したのである。


「あの、アーシャさん。ティレスさんから預かった手紙があるんですよ。これなんですけど」

「え、お兄様から? 何かしら、一体……」


 アーシャさんは首を傾げながら手紙を受け取ると、早速、封を解いて中のモノに目を通していった。

 すると次第に、アーシャさんの口角がヒクヒクと動き始めたのだった。


「ん、もうッ! お兄様は、私がコタローさん達と旅をしているのを知っていたのですね。知っていたのなら、ハッキリと仰って下されば良かったのにッ」


 実を言うと、既にバレている事をアーシャさんは知らない。

 ティレスさんから内緒にしておいてくれと言われたので、それについては話してないのだ。

 なぜこんな事をしたのかわからないが、多分、ティレスさんのちょっとした悪戯なのだろう。


「まぁまぁ、アーシャさん。多分、ティレスさんなりの考えがあったんだと思いますよ。でもよかったじゃないですか、ティレスさんも俺達と同行するのを認めてくれたのですから」

「ええ、まぁそれはそうなのですが……って、なんで貴方が、それを知っているんですか?」


 しまった……。

 余計な事を言ってしまったようだ。


「じ、実はですね。昨晩、ティレスさんから、そう聞いたんです」

「なんですってぇ! あんまりです、お兄様! コタローさんもコタローさんです。知っていたのなら、一言仰って下されば良かったのにッ。これじゃ、気を使ってきた私が馬鹿みたいです」


 アーシャさんは捲し立てるようにそう言うと、釣り上げられたトラフグの如くプンスカと頬を膨らました。

 このままだと俺に火の粉が降りかかりそうなので、とりあえず、事情を話しておくことにした。


「だ、黙っていてすいませんでした。ですが、黙っているようにという指示を出したのはティレスさんなんですよ。お、俺はそれに従っただけなんです」

「へぇ……そうなのですか。帰りましたら、お兄様にはどういう事なのか、問いたださなければなりませんね……」


 アーシャさんは執念深いので、ティレスさんも後が大変そうだ。

 それはさておき、俺は他の内容について訊いてみる事にした。


「それはそうとアーシャさん。手紙には他に、なんて書いてあったのですか?」

「ここに書かれているのは、今言った内容と、引き続き、朝と晩はちゃんと顔を見せに来るように、という事だけです」

「じゃあ、今まで通りって事ですね」

「確かにそうですが、納得いきませんッ」


 アーシャさんはまだご立腹のようだ。

 暫くはこんな感じが続きそうである。

 そんなやり取りをしていると、イアちゃんが話に入ってきた。


「でもよかったですね、アーシャさん。お忍びで旅を続けるのは、アーシャさんも気が楽でなかったと思いますから。それに、コタローさんとアーシャさんは、レイスとシェーラ以外で、私が気を許せた初めての方達です。なので、アーシャさんが気兼ねなく旅を続けられると聞いて、今、凄くホッとしてるんです。ですから、これからもよろしくお願いしますね、アーシャさん」


 イアちゃんはそう言って、屈託のない笑みを浮かべた。

 するとアーシャさんは、イアちゃんの微笑みに毒気を抜かれたのか、少し戸惑いながら、いつもの表情に戻ったのである。


「え、ええ……こちらこそよろしくお願いします、イアさん」


 どうやらイアちゃんは微笑みだけで、アーシャさんを鎮めるのに成功したようだ。

 回復系魔法が得意なだけあって、この子自身も、癒しの効果を持っているのかもしれない。

 ある意味、貴重な人材かも。

 イアちゃんはそこで俺を見た。


「あの、コタローさん。……昨日の事でお訊きしたい事があるのですが、今いいでしょうか?」

「いいよ、何?」

「昨日、リジャールさんの家を出発する前なのですけど、コタローさんは、坑道内に水が流れている所や湧いている所があるのかどうかを訊ねていた気がするのですが、あれは何の為に訊いたのですか?」


 何かと思ったら、それの事か。


「ああ、あれはね、もし死体以外の魔物がいた場合、飲み水はどうしてるのかと思って訊いたんだよ。俺達のように食料や水を摂取しながら生きる魔物なら、長い間、飲まず食わずというのは流石に厳しいからね。その上、水は食料以上に持ち運びや保存が難しいし。だからさ」


 イアちゃんは納得したのか、感心したように頷いていた。


「そ、そういう意図があったのですか。それは気が付きませんでした」

「まぁ、それが理由さ。で、あの時リジャールさんは、出入り口が1つしかない事と、警備を付けてから20日以上経過している事に加え、魔物の出入りもないような事を言っていたので、俺はこう考えていたんだよ。『坑道内にいるのは、水や食料を必要としない魔物ばかりの可能性がある』とね。でも、まさか、死骸だらけとは思わなかったけどさ」


 実を言うと、事前にオッサンから魔物を操る奴がいるかも知れないと聞いていたので、アンデッド系だけでなく、人形系の魔物もいるかも知れないと思っていたのである。

 なので、少し拍子抜けした部分もあるのだった。

 まぁ色々と理由もあるのだとは思うが……。


「貴方って時々、意味の分からない質問をしますが、こうやって聞いてみると、的を得た事を訊いてるのですね。勉強になります」


 アーシャさんも感心している素振りだ。

 

「いやぁ、そうですかね。そんな風に言われると、なんか照れるなぁ。なははは」


 俺は思わず後頭部をポリポリとかいた。


「コタローさんのお話って為になるのが多いので、もっと色々と聞かせてください」

「う~ん……お話といわれてもねぇ。じゃあ、イアちゃんは何について聞きたいの?」

「では、コタローさんが見たという、魔物や魔法について書かれた書物のお話をお願いします」

「あ、それは私も聞きたかった事ですわ」

「それかぁ……」


 あまり触れたくない話題ではあったが、仕方ない。

 当たり障りない話でもしておこう。

 とまぁそんなわけで、俺はイアちゃんとアーシャさんに、幾つかのゲーム話をする事になったのである。

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