Lv.84 報酬
[Ⅰ]
村長の家を出た俺達は、リジャールさんの家へとやってきた。
リジャールさんは、玄関の手前に来たところで俺達に振り返る。
「すまぬが、暫し、ここで待っていてもらえるじゃろうか? 儂が呼んだら家の中に入ってもらいたい」
「わかりました」
そして、リジャールさんは家の中へ入っていった。
それから5分くらい経過したところで、リジャールさんは俺達を呼びに来た。
「もうよいぞ。さ、中に入ってくれ」
「ではお邪魔します」
俺達は昨日通された部屋へと案内された。
するとそこには、昨日は無かった木製の丸テーブルと、それを囲うように6脚の椅子が置かれていたのである。
どうやらリジャールさんは、俺達を迎え入れる準備をしていたみたいだ。
「さ、立ち話もなんじゃから、椅子にでも掛けてくれ」
「はい、では」
俺達が椅子に腰掛けたところで、リジャールさんも椅子に腰を下ろした。
「さて、まずは礼を言おう。当初の予定通り、坑道内で何が起きていたのかを確認することが出来たので、今日は非常に助かった。それもこれも全て、お主等のお蔭じゃ。ありがとう」
「でも、ヴァイロン達には逃げられてしまいましたからね。そんな風にお礼を言われると、なんだか複雑な気分です」
これは正直なところであった。
「いや、それでもじゃ。お主達には感謝しておるよ。まぁそういうわけで、これからお主達に報酬を渡そうと思うのじゃが、まずはそちらのラミリアンの剣士にこれを進呈しよう」
リジャールさんはそう言って、オレンジ色の宝石が埋め込まれた銀色の腕輪をレイスさんとシェーラさんに差し出した。
「この銀色の腕輪は、どういった物なのですか?」
と、レイスさん。
「それはの、儂が古代文献を参考に錬成して作った腕輪でな、装備者の力を増幅する魔導器の一種じゃ。名を付けるならば、力の腕輪といったじゃろうかの。剣士であるお主達の助けになる筈じゃから、遠慮せんと貰ってくれ」
力の腕輪……ゲームにそんな腕輪なんて出てきただろうか。
ふとそんな事を考えていると、シェーラさんが驚きの声をあげた。
「でも、そんな貴重な物を頂いても、良いのですか? 装備者に力を与える魔導器は、かなり高価なものだと思うのですが」
「ああ、構わん。気にせんと貰ってくれ。試作品のようなものじゃしな」
力の腕輪というのは、リジャールさんオリジナルの魔導器のようだ。
そこそこステータス補正をしてくれるに違いない。
次にリジャールさんは、青く美しい鞘に収められた白い柄の短剣をイアちゃんに差し出した。
「ではそっちのお嬢ちゃんには、これを進呈しようかの」
「あの……これは短剣でしょうか?」
「うむ。まぁ短剣といえば短剣じゃが、それも儂が作った魔導器でな、名を風の刃という。ちなみにこの短剣は、錬成の段階でマセインの発動式を組み込んであるから、柄に微量の魔力を籠めればマセインを発動させることが出来るわい。お嬢ちゃんは攻撃魔法が使えないそうじゃから、これを護身用に持っておくとよい」
イアちゃんはそれを聞き、申し訳なさそうに深々と頭を下げた。
「こ、こんな貴重な物をありがとうございます」
これもゲームでは出てこなかった気がするアイテムだが、あると便利な道具そうである。
マセインは風系の中級攻撃魔法。
攻撃魔法を修得していないイアちゃんにはピッタリの武器だ。
「よいよい、気にせず貰ってくれ。さて、それでは次にコタロー達にじゃが、まずはそちらのお嬢ちゃんに、この指輪を渡そう」
リジャールさんは赤いメタリックな感じの指輪をアーシャさんに差し出した。
アーシャさんは受け取る。
「……あの、この指輪からは、魔力が感じられるのですが、これはどういった物なのでしょうか?」
「それは魔力の指輪といってな、装備者の魔力圧を引き上げる指輪じゃ。攻撃魔法の使い手ならば、更に魔法の強さが増し、回復魔法の使い手ならば、更に強い回復力を得られるじゃろう。まぁとはいっても、そんなにビックリするほど上がるわけではないがの」
「そうなのですか。あ、ありがとうございます。大事に使わせて頂きますわ」
アーシャさんは礼を言うと、指輪を嵌め、ニコニコと微笑んだ。
この様子を見る限り、どうやら気に入ったようだ。
「さて、では最後になるが、コタローにはこれを渡そうかの」
そしてリジャールさんは、幾つかの丸い紋章が彫りこまれた、紺色の腕輪を俺に差し出したのである。
「えっと、この腕輪はどういったモノなのですか?」
「これは『魔導の手』といってな、並みの魔法使いでは扱いの難しい魔導器なのじゃが、お主ならば扱えるはずじゃ」
「ま、魔導の手ですって!?」
アーシャさんはそう言うや否や、目を大きくしながら、腕輪を覗き込んできた。
この様子を見る限り、相当珍しい物なのかもしれない。
とりあえず、訊いてみよう。
「魔導の手……今、俺ならば扱えると仰いましたが、それはどういう意味ですか?」
リジャールさんは、俺の腰にある魔光の剣を指さした。
「お主、坑道内で魔光の剣を使っておったじゃろ。この腕輪はな、アレと原理は同じだからじゃよ」
「えッ? リジャールさん、魔光の剣を知っているんですか?」
「ああ、知っておるぞ。魔光の剣は、儂の弟子であるグレミオが考案した物じゃからな」
「そうなのですか、それは初めて知りました。俺も誰が作ったのかまでは、知らなかったんですよ。これを手に入れたのはマルディラントの1等区域にある武器屋なんですが、そこでは試作品の魔導器と聞いただけなので」
グレミオという人が作ったようだ。
「あ奴はマルディラントで魔導器制作をしておるからの。当然、その近辺の武器屋とも取引があるじゃろうから、そういう事もあるじゃろうな」
ここでシェーラさんとレイスさんが話に入ってきた。
「でもその武器って、凄い切断力よね。私達が使っている鋼の剣なんか、目じゃないくらいの切れ味だわ」
「ああ、シェーラの言うとおりだ。これ程の切れ味をもつ武器は、私も見た事がない」
2人は感心していたが、重要な事を忘れているので、それを指摘しておいた。
「確かに切断力は凄いんですが、それを得る為には魔力消費も半端じゃないんですよ。特に鉄や石のような固いものならば、尚更です。何の考えもなしに乱用すると、あっという間に魔力が枯渇しますからね。これは見た目以上に扱いの難しい武器ですよ」
これは本音だ。
魔光の剣は、使いどころが難しいのである。
魔物と戦う場合は、普通に魔法を使った方が戦果も大きい上に、魔力消費も少なくて済むからだ。
とはいうものの、のような戦闘方法に憧れる俺は、それを克服すべく、ベルナ峡谷で日々特訓をしていたわけではあるが……。
それはさておき、話を進めよう。
「ところでリジャールさん、この魔導の手ですが、これは一体どういう魔導器なんですか?」
「説明するよりも、実際に使ってみた方が早いじゃろう。とりあえず、利き腕じゃない方の腕に装備してみよ」
「利き腕では駄目なんですか?」
「駄目ではないが、お主の場合は魔光の剣を使うからの。利き腕はそちらに回した方がいいと思っただけじゃよ」
「ああ、なるほど。では、そうします」
というわけで、俺は左手に腕輪を装備した。
「よし、では次にじゃが、腕輪に魔力を強く籠めてみよ」
俺は左腕に魔力の流れを作り、腕輪に魔力を強く籠めた。
すると、腕輪に彫りこまれた紋章が、ボワッと淡く光り始めたのである。
「うむ、この輝きならば大丈夫じゃな。さて、ではコタローよ……あそこに置かれた木箱に向かって左手を掲げ、見えない手を伸ばして箱を持ち上げるよう思い浮かべてみるんじゃ。さぁやってみい」
リジャールさんはそこで、この部屋の片隅にある50cm角くらいの木箱を指さした。
俺は指示通り、その木箱に左手を掲げ、見えない手を伸ばして箱を持ち上げるようイメージする。
するとその直後、なんと、木箱がフワリと浮き上がったのである。
「おお、こ、これは……魔導の手ってこういう意味か」
見えない手の意味を理解した俺は、次に箱を上下左右に動くようイメージしてみる。
すると、俺の意思通りに箱は動いてくれたのだ。
俺は人知れず脳内で叫んだ。
(簡易超能力装置ゲットォォ! 光の剣と超能力……もうアレしかない。これはもう、遥か彼方の銀河系騎士をやれ、というお告げや! 乗るしかない、このビッグウェーブに!)
静かにハイテンションになっていると、アーシャさんの驚く声が聞こえてきた。
「こ、これが噂に聞く魔導の手……」
「その名の通り、魔力で導かれる手というやつじゃな。まぁそれはともかく、やはり、コタローならば扱えると思ったわい。コタローが坑道内で使っていた魔法や、魔光の剣を見ておったら、魔力圧の強い魔法使いじゃというのは、よくわかったからの」
「魔力圧が強い?」
俺は首を傾げた。
リジャールさんは頷くと続ける。
「うむ。この魔導の手はな、魔力消費はそこまでではないのじゃが、魔力圧が相当強くないと、上手くその効果を発揮できぬのじゃよ。じゃから、これを扱える魔法使いは少ない。儂の知っておる限りでも、使っておるのは、オヴェリウスにいる第1級宮廷魔導師や、イシュマリア魔導騎士団の上層部くらいじゃからな」
「へぇ、そうなんですか」
どうやら、この魔導の手を操るには、魔力圧というのが重要みたいである。
圧というくらいだから、魔力を押す力の事を言っているのだろう。
と、そこで、イアちゃんとシェーラさんの声が聞こえてきた。
「コタローさん、ラミナスでもそうでしたよ。魔導の手を使えるのは、上級の魔法使いでしたから。つまり、コタローさんは優秀な魔法使いという事です」
「私やレイスの魔力では、レアやファーラ程度しか使えないから、その腕輪を使えないのよね。羨ましいわ」
アーシャさんがリジャールさんに目を向ける。
「あ、あのリジャールさん。私では使えないのでしょうか?」
「お嬢ちゃんにか? うむぅ……難しいと思うがの。コタローの腕輪で、一度試してみたらどうじゃ?」
「はい、一度やってみます。コタローさん、貸して頂けますか?」
俺は頷くと腕輪を外し、アーシャさんに手渡した。
「どうぞ」
「では早速」
アーシャさんは腕輪を装備し、魔力を籠めた。
その直後、腕輪の紋章が弱々しい光を放つ。
だが、俺の時よりも弱い光なのは目に見えて明らかであった。
これは恐らく、魔力圧が足りないという事なのだろう。
腕輪の紋章が光ったところで、アーシャさんは先程の俺と同じく、持ち上げた木箱に掌を向ける。が、しかし……木箱はカタカタと少し揺れ、ほんの少し浮き上がる程度だったのだ。
アーシャさんは何とか上の方へ浮かせようと必死に魔力を籠め続けたが、結果は同じであった。
それ以上は持ち上がらないのである。
暫くするとアーシャさんは大きく溜め息を吐き、ションボリとしながら腕輪を外した。
「これ、コタローさんにお返しします。私にはまだ無理なようですね。……残念です」
「まぁそう気を落とすでない。お嬢ちゃんは若いから、まだまだ伸びる筈じゃ。じゃから、その時にまた試してみるがよかろう」
「ええ、希望を捨てずに頑張ります」
「うむ。その意気じゃ。さて、それでは、儂からの報酬は以上じゃが、もう一度改めて礼を言わせてもらおう。今日は本当に助かった。目的を達することが出来たのはお主達の力添えのお蔭じゃ。また、この村に立ち寄る事があったならば、遠慮せず、儂を訊ねて欲しい。お主等ならば、大歓迎じゃからの」
俺達はそんなリジャールさんに対し、深く頭を下げた。
「リジャールさん、そんなに気を使わないで下さい」
「そうだ、御仁、そこまで気にされるな。我々も貴重な品々を頂いたので、逆に悪いと思っているくらいなのだ」
「そうですよ。それに、これも何かの縁だと思いますから」
リジャールさんは頭を振る。
「そういうわけにはいかんわい。お主等の大事な旅に水を差してしまったんじゃからの」
「もうそれについては良いですよ。ね、アーシャさん?」
俺はそう言って、アーシャさんに視線を向けた。
すると、思い詰めたような表情をしたアーシャさんが、俺の視界に入ってきたのである。
「どうかしたの、アーシャさん……」
アーシャさんはリジャールさんに視線を向けた。
「あの、リジャールさん……先程、マルディラントへもう一度、陳情に行くと仰ってましたが、急がないといけないんじゃないですか?」
「うむ。まぁ確かにそうじゃが、陳情には色々と必要な物もあるのでな。今すぐ儂だけが行くわけにもいかぬのじゃよ」
「じゃあ、もし、ですが……仮に……今すぐにでもマルディラントに行って、アレサンドラ家に陳情する方法があったならば、リジャールさんはどうされますか?」
どうやらアーシャさんは、ここにいる者達に風の冠の事どころか、自分の身分まで打ち明けるつもりなのかもしれない。
やはり、アーシャさんもアレサンドラ家の者である以上、流石にこの現状を見てしまうと色々と不安なのだろう。
「もし今すぐに行けたらか……。そりゃ行けるならば、すぐにでも行きたいところじゃが、そんな事は、古代の文献に出てくるグリフィンの翼でもないかぎり無理な事じゃ。じゃから、地道にいくしかないじゃろう」
「ではグリフィンの翼のような物があったならば、すぐに陳情に向かうと、受け取ってよろしいのですね?」
「ああ、そんなものがあるのならばの」
アーシャさんはそこで席を立つ。
「コタローさん、ちょっとお話がありますわ。外に来てもらえますか?」
「……はい、わかりました」
返事をしたところで、俺も席を立つ。
そして俺とアーシャさんは、この部屋から退出し、家の外へと向かったのである。




