Lv.83 坑道の外へ
[Ⅰ]
坑道の外に出た瞬間、いつにも増して眩しい日の光が、俺の目に射し込んできた。
その為、俺は太陽に手をかざして光を遮り、暫し目が慣れるのを待つ事にした。
他の皆も同様であった。まぁ時間にして3時間程は入っていたので、こうなるのも無理はないだろう。
目が慣れるまで、少し時間が掛かりそうである。
俺は手をかざしながら周囲を見回した。
すると、張り詰めた表情で、周囲の警戒に当たる冒険者達の姿が視界に入ってきた。
勿論そこには、カディスさん達の姿もあり、今は武器を手に身構え、ヴァイロン達の奇襲に備えているところだ。
(予想通り、坑道入口付近は物々しい雰囲気になってるな……ン?)
カディスさんが俺達に気付き、駆け寄ってきた。
「おお、戻られましたか。皆、御無事なようで良かった。それはそうとリジャールさん、奥で何かわかりましたか?」
「うむ。まぁ色々との……。ところで、ヴァイロン達兄妹はあれからどうじゃな? 姿を現してはおらぬかの?」
「ええ、今のところは。ですが、暫くは警戒をし続けた方がいいでしょう。それと、坑道側に配置する冒険者の数を増やした方がいいかもしれません」
カディスさんはそう言って、周囲の冒険者達に目を向けた。
「ああ、その方が良いじゃろう。奴等は、また来る可能が十分にあるからの。まぁそういうわけですまぬが……カディスよ、引き続き、警戒に当たってくれぬじゃろうか? 敵はこの先どう出るか分からぬからの」
「勿論そのつもりですが、その前に、少し報告したい事があります」
「報告?」
カディスさんは頷くと、入口の脇に鬱蒼と広がる森を指さした。
「我々が戻る少し前の事らしいのですが、ここを警備していた者達の話によりますと、エンドゥラス2名が先程突然、光と共に入口手前に出現したそうです。そして現れるや否や、こちらの森の中へ走り去ったらしい。恐らくそのエンドゥラスは、状況から考えて、ヴァイロン達と見て間違いないでしょう。ですので、逃げたのは村の方角ではありませんが、万が一という事も考え、村の警備を厳重にするよう、冒険者の1人を伝令に向かわせました」
「うむ。手回しが早くて助かるわい。さて……」
リジャールさんはそこで言葉を切ると、俺に視線を向けた。
「コタローよ、お主はどう思う? ヴァイロン達はすぐに来ると思うかの?」
正直、返答に困ったが、とりあえず、俺は思った事を話しておいた。
「そうですね……勿論、すぐにやって来る事も考えられますので、警備は厳重にしておいた方がいいと思います。ただ、何となくなのですが、ヴァイロン達はすぐには来ない……いや、来れないような気もするんですよね」
「なぜそう思うのじゃ?」
「2つ理由があるのですが、まず1つは、今が日中なので、夜と違って魔の瘴気が薄いという事ですかね」
「ふむ、魔の瘴気か……」
「これは俺の想像ですが、ヴァイロンが水晶球を割った行動は、魔物を操るには距離以外にも必要なモノがあるという事を、暗に示している気がするんですよ。そして、その必要なモノとは、それなりに濃い魔の瘴気だと思うんです。そう考えますと、今まで日中に魔物が外に現れなかったという事や、ヴァイロンが芝居を打った時に、用済みの魔物をすぐ坑道内に退き返させた事も、全て納得がいくんです」
リジャールさんとカディスさんは、俺の考察に頷いていた。
「なるほどの……。で、もう1つは何じゃ?」
「もう1つは坑道の入り口側に、毒を持つ死体の魔物を配置していた事です。あの魔物を入り口側に配置したのは、毒という心理的な壁を外部の者に与え、坑道の奥へ近づけさせない為だと思うのですが、逆に考えると、予備の魔物がいないので、死体の魔物を坑道の手前側に集中させ、奥の魔物を守っていたとも考えられるんですよ。手勢のある内に、彼等も早く終わらせてしまいたかったでしょうからね。リジャールさんも新たな魔物の出入りはないような事を、出発前に言ってましたし」
リジャールさんは感心しているのか、うんうんと頷いている。
「で、ここが重要なんですが、ヴァイロン達がわざわざ冒険者に化けてまで潜り込んだのは、これが1番の理由だと思うんです。なぜなら、ヴァイロン達の能力を考えた場合、監視しながら目的を達成するには、この方法が最も危険の少ない方法なんですよ。それを裏付ける事として、ヴァイロンとリュシアが一緒に警備する事があまりなかった、というのもありますしね。ですから、彼等は今、攻め手を欠いているように思うんです。まぁ、これが理由ですかね」
俺の話を聞いたリジャールさんは、顎に手をやり、ボソリと呟いた。
「言われてみると、確かにそうじゃな。という事は……今のところ、夜が一番危険という事か」
「でも、これは確証がある事ではないので、何れにせよ、警備は厳重にしておいた方がいいと思いますよ」
「ふむ……まぁとりあえず、考えるのは後にするかの。さて……」
リジャールさんはそこで、カディスさんに視線を向けた。
「ではカディスよ、儂等は今から、中で見たことを村長に報告しにいく。じゃから、お主達の指揮の元、坑道の警備を引き続き行ってもらいたいのじゃが、良いかな?」
「ええ、わかっております。何かありましたら、すぐに伝令の者を走らせますので、安心して向かってください」
「じゃあ、すまぬが、宜しく頼む」――
[Ⅱ]
村へと戻った俺達は、リジャールさんと共に村長に会う事となった。
ガルテナの村長は60代くらいの初老の男性で、穏やかな表情をした方であった。
体型はやや小太りな体型で、ツルッパゲの頭頂部に毛を1本だけ残すという、斬新なヘアスタイルをしていた。
あえて1本残すところに、こだわりを感じさせる髪型である。
まぁそれはさておき、報告した内容だが、当然、無垢なる力の結晶の事やリジャールさんの事情などは伏せた説明となった。
今の時点でこんな事を話すと混乱を招く上に、余計なトラブルが起きる可能性が大だからだ。
その為、今回報告したのは、騒動の元凶はヴァイロン達兄妹であるという事と、あの兄妹が魔物を操って坑道の奥を掘っていたという事。
それから、魔物はすべて倒したという事と、ヴァイロン達がまたやってくるかも知れないという事である。
ちなみにだが、俺達の報告を聞いた村長は、驚くと共に少し怯えてもいた。
特に、ヴァイロン達が魔の種族・エンドゥラスだったという事実に、ショックを隠せないような感じであった。
そして、またやって来るのではないかと戦々恐々としながら、村の行く末を案じていたのである。
実際問題、それが一番の懸念事項なので、こうなるのも仕方のないところだろう。
だがしかし……嘆いていても事態は変わらない。
というわけで俺達は、今後の対策などを一通り説明してから、村長宅を後にしたのであった。




