Lv.79 戦いの余韻
[Ⅰ]
アンデッドモンスターとの戦いが始まってから約30分後、俺達はようやく、魔物との戦闘を終わらせる事ができた。
大きな怪我を負う者はいなかったが、通路の奥から怒涛の如く押し寄せる魔物に、皆もうヘトヘトといった感じであり、余裕のある表情を浮かべる者などは皆無であった。
特に最前線で魔物達と激闘を繰り広げていたカディスさんやネストールさんにドーンさん、そしてレイスさんにシェーラさんは相当草臥れたようで、5人は今、周囲に転がる瓦礫の上に腰かけながらゼーゼーと肩で息をしているところだ。
まぁこうなるのも無理はないだろう。
なぜなら、俺が思っていたとおり、奥から現れた魔物は凄い数だったからである。
背後から来たリヴィング・デッドが20体はいたので、十字路に待機させる残りの魔物は、その3倍の戦力が必要だと俺は見積もっていた。
だが、実際はそれ以上の数だったのだ。
魔物自体は竜牙兵やゾンビウルフのような比較的弱いアンデッドモンスターであったが、数にして70体~80体はいた。
幾ら雑魚とはいえ、流石にこれだけの数を連続でとなると、非常に厳しいものがあった。
おまけに1つの方向からでもこれなのだから、もし何も知らないまま奥の空洞まで進んでいたならば……と考えると、背筋に寒いモノが走る。
そして俺はつくづく思ったのである。
奴等の思惑を早めに気付けて良かった、と……。
(ふぅ……疲れた……雑魚とはいえ、連チャンはキツイわ……)
戦闘を終えた俺達は、疲労を回復する為、暫し休憩をする事になった。
俺もクタクタだったので、付近にある大きな瓦礫の1つに腰かけ、暫し休むことにした。
すると、リジャールさんがそこで、俺に話しかけてきた。
「コタローよ。それにしてもお主、よくあの兄妹の事を見破ったの。儂は完全に信じてしまってたわい」
「本当よ。私も全然気づかなかったわ。おまけに、あの死体に前もって油をかけてたなんて……コタローさんやるじゃない」
ゾフィさんはそう言って、胸をプルンと震わせた。
「ああ、全くだ。コタローさんが気付かなかったら、俺達ヤバかったよな。それに、あのまま奥の空洞に進んでいたら、多分、無事じゃすまなかったぜ」
ドーンさんはそう言って、奥の空洞へとつながる通路に視線を向けた。
「まぁ運よく気付けただけですよ。でも、ドーンさんの言うとおり、このまま進んでいたらかなりヤバかったでしょうね。奴等は恐らく、俺達を十字路になった奥の空洞へ誘い込んだ後、四方の通路に待機させてある魔物を使って始末する計画だったんだと思います。そしてしくじった場合は、通路の扉を閉じて左側の通路から吹く外気を遮断し、俺達を向こうで中毒死させるつもりだったんでしょう。毒の沼から発せられるガスを利用してね」
リジャールさんは、唸りながら腕を組む。
「むぅ……そういう事か。確かにそれじゃったならば、お主が言っていたように、奥の空洞でなければならぬの。そうか、二重の罠を張っておったのか……」
「でも、今のはあくまでも俺の想像ですので、本当のところはどうかわかりません。ですが、魔物を操れる距離に限界があると考えると、ヴァイロン達の回りくどい行動も全て納得ができるんですよ。彼等も出来る範囲の事で、これらの計画を立てたと思いますからね」
そう、どこでも操れるなら、こんな芝居をする必要がないからだ。
「ふむ、確かにの。となると、あの毒を吐く死体の魔物は、儂等を坑道に近づけぬようにする為のものじゃったのじゃな。毒を撒き散らす魔物は脅威じゃからのぅ」
「恐らく、そうでしょう。毒消しの魔法薬は少々高価な上に、アグナの使い手も少ないのでね。毒を持つ魔物というだけで、我々冒険者ですらも嫌な気分になりますよ」
と、カディスさん。
ドーンさんがそれを聞き、ゲンナリと溜息を吐いた。
「全くだぜ。身体が丈夫な俺も、毒だけはどうにもなんねぇからな」
「ところで、コタローさん。そういえば、あの兄妹達はどこに行ったのですか?」
「それなんですけど……あの兄妹はリレニスタとかいう呪文を唱えて、この坑道内から消えたんですよ。多分、古の転移魔法の一種だと思うんですが……つまり逃げられたという事でして……すいません、俺も油断してました」
リレニスタについては、知らないふりをしておいた。
なぜなら、ヴァロムさんから魔法の種類について教えてもらっていた時、リレニスタなんて魔法は出てこなかったからだ。
「そういえばエンドゥラスは、古の魔法を2つ3つ使えると聞いた事があります。という事は、リレニスタとやらも、その類の魔法かも知れませんね」
と、イアちゃん。
リジャールさんは頷く。
「うむ、多分そうじゃろう。それとリレニスタじゃが……恐らく、建物や洞窟内に立ち入った際、一気に外の入口へと脱出する魔法かもしれぬな」
「え? 知っているんですか?」
意外な言葉が出てきたので、俺は思わず訊き返した。
「いや、知っておるというほどのモノではないわい。儂はその昔、古代の文献で、その記述を見た事があるというだけじゃ。じゃが、これが正しいならば、奴等はもう坑道の外じゃろうな」
リジャールさんの言ってる事はゲームなら正解である。
しかし、この世界でも同じかどうかわからないので、今のところは保留にしておいた方がよさそうだ。
と、そこで、今まで静かにしていたカロリナさんが口を開いた。
「でも変じゃない? ……あの兄妹が魔物を操っていたのは間違いなさそうだけど、いなくなった後も魔物達は動いていたわ。どういう事なのかしら……」
ゾフィさんもそれに同調する。
「確かに、カロリナの言うとおりよね。コタローさんはどう思う? 貴方の意見を聞きたいわ」
「それについては、多分、退却間際にヴァイロンが床に投げつけた黒い水晶球が原因だと思います。事実、アレが割れた瞬間、この空洞内に禍々しい魔の瘴気が漂いだしたのを俺も感じましたからね。そのお陰もあって、魔物達は水を得た魚のように動けたんだと思います」
リジャールさんは頷く。
「うむ、多分そうじゃろう。儂もその瞬間を見ていたのでな。じゃが、今にして思えば、あれは儂等をここに足止めして逃走時間を稼ぐ為のものだったのじゃろう。出来るだけ遠くに逃げる為にの……」
「ええ、俺もそう思います。ですが、もしそうならば、今の内に入口の警備強化をしておいた方がいいかもしれませんね。また魔物を率いて、ここにやってくる可能性がありますから」
「確かにそうじゃな」
リジャールさんはそこで、カディスさんに視線を向けた。
「カディスよ、お主達5名も入口の警備に当たってくれぬだろうか? 外にいる者達では心もとないのでな」
「坑道内での護衛は、コタローさん達がされるのですね?」
「うむ、もう坑道内に魔物はおらぬか、いても少しじゃろうからの」
「わかりました。ではネストールにドーンにゾフィにカロリナ、我々も入口へ向かうぞ」――




