Lv.77 魔の種族エンドゥラス
[Ⅰ]
俺はヴァイロン兄妹が犯人と断定した。
程なくして、堰を切ったように、皆の驚く声が聞こえてきた。
「な、骸を操るじゃと!」
「何だってッ」
「どういう事よッ」
「コタローさん、どういう事なんですか!?」
俺はこの結論に至った経緯を語ることにした。
「この魔物達を操っているのは、ヴァイロンさん達兄妹だからですよ。そして、リュシアさんの逆上による暴走は、ヴァイロンさんが俺達に同行する為の大義名分を得る事なんです。ではなぜ、そんな事をしてまで坑道内に入らなければならなかったのか? それは勿論、罠を仕掛けた奥の空洞に俺達を導き、そこで俺達を始末する為です。特にアグナを使える俺達は邪魔だったでしょうからね」
「罠だって!……ほ、本当かよ、コタローさん」
ドーンさんは大きく目を見開いた。
「ええ、九分九厘、罠だと思います。これは今まで得た情報を整理した上での想像ですが、ある程度離れてしまうと、彼等は魔物を十分に操れなくなるのだと思います。ですから、どうしても俺達の近くにいる必要があった。それらを念頭に、今まで見てきた床の足跡や状況証拠を整理すると、彼等のある思惑が見えてくるのです。そして、それをするには奥の空洞が一番適しているんです。いや、奥の空洞でなければならないんですよ」
皆の視線がヴァイロンさんとリュシアさんに注がれる。
「ヴァイロン、リュシア……どうなんだ? 反論は無いのか?」
カディスさんが2人に問いかける。
ヴァイロンさんの狼狽する声が聞こえてきた。
「お……俺達が死体を操っているだなんて……な、何を証拠に……証拠はあるんですかッ!」
そう……確かに彼等がネクロマンサーという証拠はない。
その為、某漫画で使われていたとある自白手法を俺は用いる事にしたのだ。
「ええ、証拠はありますよ。貴方がたは知らないようですから言いますが、死骸を操る魔法使いはグローラムの光を浴びると、耳の下がポッコリと腫れるんです」
「何ッ!?」
「嘘ッ」
2人は慌てて、自分の耳の下に手を当てる。
そして、一通り確認を終えると、2人は安堵の息を吐いた。
「なんともないじゃないか」
「私もなんともないわ」
「コタローさん、これで分かっただろう、俺達は死骸なんて……ハッ!?」
ヴァイロンさんは俺が放つ不敵な笑みを見て、自分達がしている事の愚かさに気付いたようだ。
(マヌケは見つかったようだな……)
などと思いつつ、俺はヴァイロン達兄妹を指さした。
「念の為に言っときますけど、今のは嘘ですから安心してください。でも、貴方達兄妹が正直な方で助かりましたよ。お礼に、この言葉を贈ります。……今回の騒動を企てた黒幕は貴方達ですッ!」
その直後、この空間に重苦しい沈黙が訪れる。
一番先に口を開いたのはリジャールさんであった。
「ヴァイロン、リュシア……お、お前達、まさか」
程なくして、ヴァイロンの噛み殺したような笑い声が聞こえてきた。
「ククククッ……どうやらここまでか」
「そのようね、ヴァイロン兄さん」
「貴方がたは一体何者なんです? もうそろそろ正体を現したらどうですか?」
「何でもお見通しというわけか。いいだろう……この姿にも虫唾が走っていたところだ」
ヴァイロンは懐から、小さな水色の丸い石を取り出して魔力を籠めた。
すると次の瞬間、石から水色の霧が現れて兄妹を包み込んだのである。
霧は次第に、左手の通路から流れる空気の流れによって拭い去られる。
そして霧の中から、なんと、ラミリアンのような姿をした者達が現れたのであった。
だがとはいうものの、ラミリアンとは決定的な違いがあった。
それは肌の色である。
ヴァイロン達兄妹は青白い肌をしているからだ。
しかし、変化したのは肌の色と耳だけであった。
美男美女というのには何も変更がなかったのが、腹の立つところである。
ヴァイロン達が正体を現した瞬間、リジャールさんとイアちゃん達の驚く声が、この場に響き渡った。
「お、お前達の、その姿はまさか、魔の種族・エンドゥラス!」
「なぜ、エンドゥラスがこの地に!」
「魔の種族が、こんな所で何を」
「まさかこんな所で、こいつ等に会うなんて」
魔の種族・エンドゥラス……初めて聞く種族名であった。
リジャールさんはともかく、イアちゃん達の言動からは因縁みたいなものがあるように聞こえたが、今は置いておこう。
カディスさん達も同様の反応だ。
「ヴァイロン……貴様」
「お前達……」
「あ、貴方達」
「こんな事って……」
「嘘だろッ! エンドゥラスだったのかよ!」
カディスさん達も苦虫を潰したように顔を歪めていた。
この様子を見る限り、エンドゥラスという種族は、かなり悪名が高いのだろう。
ヴァイロンは俺に視線を向けると、不敵に微笑んだ。
「如何にも、我等はエンドゥラスだ。クククッ……しかし、あと一歩でお前達全員を始末できると思ったが、まさかあんな些細な事で気付かれるとはな……正直、アンタの事を見縊っていたよ」
「ああ、言っときますけど、俺、初めて貴方に会った時から、ずっと怪しいと思ってましたよ。貴方、妙な事を言ってましたからね」
「何? 妙な事だと」
ヴァイロンは眉根を寄せた。
「貴方、こんな事を言ってました。【妹が逆上して、1人で坑道の奥の方へ行ってしまったッ。お願いだッ! リュシアを連れ戻す為に、俺も貴方達に同行させてくれッ】とね。俺、それを聞いて、こう思ったんですよ。おや、この人、妹が坑道の奥の方へ行ってしまったと断言してる。なぜだろう? ってね。あの時点で、行き先が分かるのは、あまりに不自然です。なので、ずっと様子見をしてたんですよ。せめて坑道の中に入ったと言うべきでしたね」
「チッ……」
ヴァイロンは舌打ちをすると、俺を睨む。
と、その時である。
奥の通路の方から、ガチャガチャという、金属の触れ合う音が小さく聞こえてきたのだ。
俺はそこで通路に目を向ける。すると、チラッと魔物の姿が見えた。
どうやら奥にいるのは、骸骨の竜牙兵や、狼のアンデッドモンスター、ゾンビウルフといった魔物達のようだ。
相当な数が仕込んであるに違いない。
俺は急ぎ、カディスさんにそれを告げた。
「カディスさんッ、奥の通路から魔物がやってきます。すぐに迎撃態勢に入ってくださいッ。俺の予想では、かなりの数がいると思いますんで、対応お願いしますッ」
「分かったッ! ネストールにドーン、敵は一方向からだ、通路前で迎え撃つぞ。それとゾフィとカロリナは攻撃と補助を頼む」
カディスさんの言葉を聞き、4人は慌ただしく戦闘態勢に入る。
俺は続いて、レイスさん達にも指示をした。
「レイスさんにシェーラさん、通路奥にいる魔物は恐らく、かなりの数がいると思います。ですから、カディスさん達の加勢に回ってください」
「ああ、わかった」
「わかったわ」
「それとアーシャさん、多分、やってくる魔物にはパサートが効くかも知れません。それで皆の援護をしてください。イアちゃんは、皆の回復をお願いします」
「わかりましたわ」
「わかりました」
俺はそこでグローラムを唱えた。
「リジャールさん、とりあえず、俺の背後にある隙間風が吹く通路に避難してください。そこが今は一番安全です」
「うむ。戦闘はお主等に任したぞ」
リジャールさんはそそくさと移動を開始する。
そんな中、ヴァイロンが俺に話しかけてきた。
「ほう……中々、的確な指示だが、あまりそちらにばかり気を取られていると、痛い目に遭うぞ、フフフ」
その直後、俺達がやってきた通路から、リヴィング・デッドの集団がお着きになったのである。
リヴィング・デッドはゾロゾロと空洞内に入ってきた。
「これは貴方も予想できなかったようね。酷い目に遭うといいわ」
リュシアは自信満々にそう言ったが、これも余裕で想定の範囲内の為、俺は奴等に微笑み返したのであった。
ヴァイロンは気に入らなさそうに口を開く。
「貴様、何がおかしい……」
「気でも触れたのかしら」
つーわけで、俺は言ってやった。
「ああ、ご心配なく。そちらの奴等は既に対処済みだから笑っているのですよ。というわけで、ギルラーナ!」
俺は腐った死体達に魔導師の杖を向け、ギルラーナを唱えた。
次の瞬間、杖から放たれた火炎が奴等に襲い掛かる。
高笑いするリュシアの声が聞こえてきた。
「アハハハ、貴方1人のギルラーナだけでは倒せないわよ……って、エッ!?」
リュシアの笑みは、すぐに凍りついた。
なぜなら、炎がリヴィング・デッドに襲いかかるや否や、派手に燃え上がったからだ。
リヴィング・デッド達は、一気に紅蓮の炎に包まれ、動きが鈍くなってゆく。
リュシアとヴァイロンは眉間に皺を寄せ、やや取り乱していた。
「何よこれはッ、何でギルラーナ一発でここまで燃え広がるの!」
「馬鹿な! ただのギルラーナに、ここまでの威力なんてある筈が……ま、まさか、お前が今まで降りかけていた液体は聖水なんかじゃなく……」
ようやく、ヴァイロンは気付いたようだ。
俺は種を明かすことにした。
「いや、消毒する聖水ですよ。ですが、非常によく燃える【灯り油】という聖水ですがね」
「グッ、おのれッ!」
ヴァイロン達兄妹は流石に険しい表情になっていた。
精神的にもかなり効いてるみたいだ。
乗るしかない。このビッグウェーブに!
というわけで、俺は更に追い込むべく、ハッタリかまして奴等をビビらせる事にした。
「さて……次は貴方達の番です。観念してもらいますよ。こんな茶番じみた策を張り巡らせるくらいですから、貴方がたもそれほど大した事はなさそうですからね」
俺の言葉を聞くや否や、ヴァイロンは慌てて懐から黒い水晶球を取り出し、床に投げつけた。
その直後、水晶球が割れ、薄い煙のようなモノが霧散し、空洞内に漂い始めた。
俺は直観的に思った。
これは濃縮した魔の瘴気だと。
水晶球が割れたところで、ヴァイロンはリュシアに告げた。
「リュシア! 一旦、退くぞッ」
「わかったわ、兄さん!」
そして、次の瞬間!
「リレニスタッ」
ヴァイロン達兄妹の身体はオレンジ色の光に包まれて、この場からフッと姿を消したのであった。
俺はそれを見るなり、思わず脳内で叫んだのだ。
(ダンジョン脱出魔法のリレニスタが使えるなんて、聞いてないよぉぉぉ!)と……。




