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前略、目が覚めたら、なぜかRPG世界にいたんだが……。  作者: 書仙凡人
第二章 前略、辺境の地ガルテナへ……

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Lv.76 兄妹

   [Ⅰ]



 俺達は奥へと続く通路を抜け、次の空洞へと足を踏み入れた。

 だがそこに入るなり、俺達は驚きのあまり、足を止めたのだった。

 異様な光景が目に飛び込んできたからだ。


(な……これは……)


 俺達の目の前に広がる光景……それはなんと、天井高くまで蓄積した茶色い岩石の山であった。

 それが十字の通路を作るかのように、左右に積み上げられているのである。

 しかも、この空洞の1/3を占めるくらいの物凄い量であった。

 それだけではない。

 地面は紫色の液体で覆われ、硫黄のような悪臭を発生させていたのだ。


(なんだこの臭い……ガスか? ン?)


 俺は積まれた岩を見て、違和感を覚えた。

 なぜなら、色が青系じゃなく、やや茶色がかった岩だったからだ。

 さっきリジャールさんが言っていた事を考えると、これらは恐らく、この奥で採取された岩なのかもしれない。

 そして、これらの瓦礫の山は、敵がこの坑道で何をしていたのかの証でもあるのだ。

 俺達は暫し呆然と、その場に立ち尽くした。

 皆の驚く声が聞こえてくる。


「な、なんだ、この瓦礫の山は……」 

「これは、まさか……」

「なんだこりゃ!? 奥で一体何が起きてんだッ?」

「これは魔物達がやったのか……」

「なによ、これ……」

「魔物達は一体、何が目的なの……」 

「こ、これは何なのですか!?」

「奥で一体何が……」

「なんでこんな所に……」

「ちょっ、ちょっと、何これ」 


 これは恐らく、掘削された岩だろう。


(もしかすると、死体の魔物がいる理由は……)


 皆が呆然と立ち尽くす中、俺は奥の空洞へと繋がる通路へ、視線を向けた。

 通路はリジャールさんの言っていたとおり、狭い通路であった。

 見たところ、縦と横で2mくらいだろうか。

 それから通路の入り口には、これもリジャールさんが言っていたとおり、鉄製と思われる銀色の扉が取り付けられていた。

 扉は両開きで、今は両方とも開ききった状態だ。

 とりあえず、通路の幅や扉はそんな感じだが、俺はそれらよりも、床に溜まっている紫色の液体の方に目が行った。

 紫色に濁った液体からはガスが湧いているのか、とろ火で煮込むカレーのように気泡が出来ては弾け、出来ては弾けを繰り返しており、見ているだけで気分の悪くなる光景となっていた。

 おまけに、そのガスが周囲に漂っている所為か、鼻や喉が軽い炎症を起こしたかのように少し痛むのである。

 確実に、身体に良くない空気であった。

 ただ、左手の通路から吹いてくる隙間風があるので、空洞内にガスが充満しないのが、唯一の救いと言えるだろう。

 最低な環境ではあるが、俺はこれを見た事によって、ようやく、敵の思惑というのが見えてきたのである。

 この通路の奥はどんな所か分からないが、1つはっきりしているのは、俺達がこのまま奥に進めば、確実に敵の餌食になるという事だ。

 だからその前に、なんとしても問題を片づけなければならない。


(このまま進むのは不味いな……何か手を打たないと)


 俺はそこで他の部分にも目を向けた。

 見たところ、瓦礫の山と通路以外、今までと何も変わらない空洞のようだ。

 但し、魔物はいないようである。


「とりあえず、突っ立っているのもアレなので、まずはこの空洞内を調べましょう」


 俺は皆にそう告げた。

 歯切れの悪いリジャールさんの声が聞こえてくる。


「う、うむ……そうじゃな。まずは、ここから調べねばなるまい」


 その言葉を合図に、俺達は空洞の中心部へと歩き始めた。

 だがその時、左手にある瓦礫の通路の奥から、か細い女性の声が聞こえてきたのである。


「そ、そこにいるのは……に、兄さんなの?」


 ヴァイロンさんは即座に、声の方向へ振り向いた。


「その声は……も、もしかして……リュ、リュシアか? リュシアなのか!? 何処にいるッ」

「兄さん、い、生きてたのね」


 その直後、通路の暗闇から、見目麗しい、うら若き女性が現れたのであった。

 女性はヴァイロンさんの元に駆け寄り、抱き着き、そして涙を流した。


「リュシアッ、探したぞ。無茶しやがって」


 ヴァイロンさんもがっしりとそれを受け止める。

 それは涙ぐましい兄妹の再開であった。


「よかったな、ヴァイロン」


 カディスさんはそう言って、ヴァイロンさんに微笑んだ。

 そして、他の皆も同様に、この2人の再開に安堵の表情を浮かべたのである。

 俺はそこで女性に目を向けた。

 ヴァイロンさんと同じく、ブロンドの長い髪をした女性で、パッチリとした目と、線の細い顎や鼻が特徴の凄く美しい方であった。

 こんな美しい女性が街の中に歩いていたら、野郎どもは皆振り返るに違いない。

 事実、俺も一瞬、見とれてしまうほどだ。

 衣服や装飾に目を向けると、可憐な純白のローブをその身に纏い、額には金色のサークレット、右手には茶色い杖を持つという格好をしており、透き通るような美しい肌をした手や指先には、金のブレスレットと銀の指輪が光り輝いていた。

 質素な中にも、美しさや優雅さが垣間見える着こなしであった。

 で、何が言いたいかと言うと、つまり……凄く綺麗な女性という事である。


「兄さん、ごめんなさい。私、兄さんが死んだのかと思って……ついカッとなってしまって」

「いいんだ、リュシア。お前が無事なら、もうそれでいい」

「ところでリュシア。貴方、よく無事だったわね。怪我とかしなかった?」


 と、ゾフィさん。


「はい、なんとか、切り抜けてこられたので」


 続いて、ドーンさんとカロリナさんが会話に入ってきた。


「そうか。でも、よく無事だった。こんな別嬪さんが、あんな化け物の手にかかるなんて事、俺も考えたくなかったからな」

「本当によかったわ。心配してたのよ」

「ありがとうございます、ドーンさんにカロリナさん」


 リュシアさんは涙を拭い、2人に微笑んだ。

 そして、部外者の俺も、今の会話の流れに乗る事にしたのである。

 異世界的ですもんね。乗るしかない、このビッグウェーブに!


「あのぉ、リュシアさん。お初、お目にかかります。私、コタローと言いますが、少し訊きたい事があるので、幾つか質問させてもらっても構いませんか?」

「え? あ、は、はい。何でしょうか?」


 リュシアさんは予想外の所から声を掛けられたからか、少し驚いたようだ。

 俺は構わず、質問を続けた。


「リュシアさんは、この坑道内に入ってから、どういうルートでここまで来られたのですか?」

「私、坑道内に入ってからは、兄さんを襲った魔物達を追いかけて真っすぐに進みました。そしたら、向こうの大きな空洞まで行ったところで、魔物が凄い沢山集まってきて……。それで不味いと思って慌てて逃げたの……。でも、松明を途中で失くしてしまって……。だから、そこからは手探りだったので分からないわ」

「という事は、ここまでは相当苦労なされたのですね? 明かり無しは、さぞや辛かったでしょう」


 俺の言葉を聞き、リュシアさんは疲れたように肩を落とした。


「ええ、本当に……だから、暗闇の中を手探りで逃げて、何とかあそこに隠れる事が出来たけど、私、もう駄目だと思ったわ。そして、もうすぐ、私も兄さんの元に行くんだって……」

「そうだったのですか。では質問を続けます。この坑道内には死体の魔物しかおりませんでしたが、他の魔物の姿を見ませんでしたか?」

「そういえば、この奥の通路に、剣を持った骸骨のような魔物が入って行くのが見えました」

「魔物の数はどのくらいですか?」

「5匹でした」

「そうですか。では質問を変えましょう。リュシアさんはその通路から魔物の出入りを見ていたわけですが、リュシアさんから見て奥の空洞には、何体くらい魔物がいると思いますかね?」

「そうですね……はっきりとした事は言えませんが、多分、10体から20体はいるんじゃないでしょうか」

「魔物が10から20か……。ここまで姿を見せてない事を考えると、それほど大した数はおらんのかもしれんの。よし、では少ししたら、我等も奥へ向かうとするかの」


 と、リジャールさん。

 カディスさんもそれに頷く。


「ええ、リジャールさん。もう魔物を全て掃討してしまいましょう」


 と、そこで、ヴァイロンさんが申し訳なさそうに口を開いた。


「あの……リジャールさん、こんな事を今言うのもアレなのですが、俺達兄妹は一旦、外に出てもいいでしょうか?」

「ん? ああ、そうじゃな。お主達は戻ってくれて構わんぞ。外の者達と共に周辺の警備に当たってくれ」

「ありがとうございます」


 だが、俺は大きな声でそれを遮ったのである。


「待ったッ! 貴方がたを帰すわけにはいきません!」



 今の声にびっくりしたのか、全員が俺に振り向いた。


「ど、どうしたんですか、大きな声で急に。それに帰すわけにはいかないって、どういう……」


 ヴァイロンさんが少したどたどしく訊いてくる。

 俺はニコリと笑みを浮かべると言った。


「まだ俺の質問が終わってませんので、それが終わったら帰ってもらって結構です」


 ヴァイロンさんはそこでホッと一息吐いた。


「ああ、そういう事ですか。では質問を続けてください」

「それではリュシアさん、質問を続けさせてもらいますが、俺は貴方の話を聞いていて、どうしても腑に落ちない点があるのです」


 リュシアさんは首を傾げた。


「腑に落ちない点? 何ですかそれは」

「それは……貴方のその美しい手です」


 俺はそこでリュシアさんの手を指差した。

 リュシアさんは、恥ずかしそうに自分の手を見る。


「まぁ嫌ですわ……美しい手だなんて。それで、私の手がどうかしたのですか?」

「貴方は先程、暗闇の中を手探りで逃げてきたと仰いましたが、もしそうであるならば、明らかにおかしいのですよ」

「おかしい?」


 俺はそこで、空洞の壁際に移動する。

 そして壁を手でサッと触れると、リュシアさんにソレを見せたのだ。


「この壁を触れた俺の手を見てもらえばわかると思いますが、この坑道内を手探りで移動したならば、必ず青く手が汚れるんです。しかも手探りで進み続けたのなら、相当汚れたと思いますから、払ったところでそう簡単には落ちない筈ですからね。しかし、貴方の手は汚れの無い、非常に美しい肌をしている。ですから、それについて納得のいく説明をしてもらいたいのですよ」

「そ、それは……」


 リュシアさんは青褪めた表情になり、押し黙ってしまった。

 痛いところを突かれたからだろう。

 10秒、20秒と時間が過ぎてゆく。

 このままだと日が暮れそうなので、俺は話を進めた。


「その様子を見る限り、答えられないという事ですね。まぁ確かに、答えてしまうと、今まで話した内容の辻褄が合わなくなりますから、そうなるのも無理はないでしょう。なぜなら貴方は、明るい環境でここまで移動し、そして潜んでいたのですからね」


 俺はそこで一旦話すのを止め、リュシアの様子を見た。

 リュシアは俯いたままプルプルと震えていた。

 反論はないようなので、俺は話を続けた。


「しかし、貴方の話は、それ以外にもおかしな事ばかりでした。今の手の汚れもそうですが、魔物の姿にしろ、魔物の数にしろ、貴方は俺の質問に淀みなく答えていますが、それも良く考えてみると、あり得ない事なんですよ」

「コ、コタローさん。あり得ないって、どういう事なんですの?」


 アーシャさんが俺に訊いてくる。

 俺はリジャールさんの頭上で輝く、グローラムの明かりを指差した。


「今はグローラムのお陰で周囲は明るいですが、俺達が来るまで、この空洞は真っ暗だったんです。そんな中で、魔物の姿や数など、わかるわけがありません。つまり、リュシアさんの言っている事は、全て嘘の可能性が高いんです。そして問題は……貴方がなぜ、そんな嘘を吐いたのかという事なんですよ。しかし、恐らく、貴方は俺の問いかけに答えられないでしょう。なぜなら、貴方の役目は……」


 と、俺が言いかけた時だった。


「ちょっ、ちょっと、待ってくださいよ。さっきから聞いていれば、まるでリュシアが今回の元凶のような言い方じゃないですかッ。いい加減にしてください、コタローさんッ。貴方はリュシアを魔物だとでも疑っているんですか?」


 ヴァイロンさんが捲し立てるように、話に入ってきたのである。


「いや、疑うなんてレベルじゃないですよ。死骸を操っていたのは、貴方達兄妹だと俺は考えていますからね」


 俺がそう告げた瞬間、辺りにシンとした静寂が訪れる。

 そして、ヴァイロン兄妹は顔を引き攣らせたのである。

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