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前略、目が覚めたら、なぜかRPG世界にいたんだが……。  作者: 書仙凡人
第二章 前略、辺境の地ガルテナへ……

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Lv.73 死体の魔物

   [Ⅰ]



 最前列と最後尾に重装備型の戦士。

 その間に軽装備の者を配置する。 

 つまり、俺達は後ろから攻められても、前から攻められても、常に同じような隊形を維持できるようになっている。

 そう考えると、こういった通路を少人数で進む場合は、これが一番良い隊列なのかもしれない。

 しかも、カディスさん達のパーティと俺達のパーティは似ているので、その辺のバランスが凄く良かったのだ。


(イアちゃん達に来てもらって正解だったな。これだけいれば、大体は対処できそうだ。しかし……奥の方から聞こえる不気味な音は、なんなんだ……)


 そう……時折、風が吹き抜けるようなゴォォという音が、奥の方から聞こえてくるのである。

 何の音なのかはわからない。

 魔物かも知れないし、もしかすると、リュシアという女性の悲鳴が坑道内の壁に反響して、そういう風に聞こえているだけなのかもしれない。

 とにかく、そんな音が聞こえてくるのだ。

 アーシャさんはそれが怖いのか、音が聞こえる度にビクッと身体を震わせていた。

 ちなみにだが、俺にはアーシャさんの震えが手に取るようにわかる。

 なぜなら、アーシャさんは俺の二の腕を掴み、身体を密着させているからである。

 遊園地にあるお化け屋敷なら、可愛いなで済むが、今のこの状況はとてもそんな呑気な事は言っていられない。

 下手をすると足かせにしかならないからだ。

 とはいえ、今のテンパったアーシャさんにそれを言うと、逆に面倒な事になりそうなので、あえて俺は言わないようにしているのであった。


(参ったな……戦闘時は流石に離れてほしいんだが……)


 俺達はそんな感じで、周囲を警戒しながら前へと進んで行く。

 今のところ魔物は現れてはいないが、探索は始まったばかりだ。

 油断はできない。

 俺はすぐに魔法を発動できるよう、常に魔力操作と周囲の変化に意識を向かわせていた。

 程なくして、まず最初の十字路に俺達は差し掛かる。

 朝見せて貰った見取り図には、この左右にある通路を進むと小さな空洞があった筈だ。

 俺達はその十字路で立ち止まった。


「リジャールさん、どちらに行きますか?」


 と、カディスさん。


「とりあえず、左側の空洞を調べてから右側に行こうかの」

「わかりました」


 カディスさんは返事をすると、左の通路へと足を向かわせた。

 だがその時、少し気になるものが俺の目に飛び込んできた。

 十字路の地面は青い粉塵で覆われているのだが、そこには無数の足跡があったからだ。

 人が裸足で歩いたような跡や、何かを引きずったような跡、そして大小様々な靴の跡に加え、犬のような肉球のある4つ足動物の足跡もあった。

 しかも、それらはくっきりと残っているので、ここ最近付けられたモノの可能性が高いのである。

 俺は嫌な予感がしたので、リジャールさんに確認することにした。


「リジャールさん、この坑道に棲みついたのは、人の死体の魔物と言ってましたが、他の魔物というのは見てないのですか? 動物の死体の魔物とか?」

「いや、動物の死体の魔物は見てないの。我々のような死体の魔物だけじゃな」

「そうですか……」


 これはおかしい。

 辻褄が合わないからだ。


「それがどうかしたかの?」

「いえ、ただ少し気になったモノですからね。見てないのならいいです。それともう1つ。魔物が棲みつく前なんですが、村の方々は犬などを連れて坑道内へ足を踏み入れる事が頻繁にあったのですか?」


 リジャールさんは少し考えた後、首を横に振った。


「……いや、足を踏み入れる事などなかった筈じゃ。さっきから妙な事を訊いてくるが、それがどうかしたのか?」


 俺は地面を指さした。


「この地面にある足跡なんですけど、最近付けられたモノだと思うので、それが気になるんですよ。靴を履いたものや、裸足のもの、4つ足の動物の足跡……これらは一体、何の足跡なのだろう? ってね」

「確かにお主の言うとおりじゃ……これはもしや……」


 リジャールさんはそう言うと、少し険しい表情になった。


「という事は、他にも魔物がいるという事なんでしょうか?」

「そうなんですか、コタローさん?」


 アーシャさんとイアちゃんが訊いてくる。


「さぁ、それはわからないけど、気にはなるよね」

「お主はどう思うのじゃ?」


 と、リジャールさん。


「この足跡も、村の方々や家畜のモノであれば気にする必要もなかったのですが、そうでないなら、1種類の魔物だけという固定観念は捨てた方がいいかもしれません」

「うむ……どうやら、そう考えた方が良さそうじゃな」


 リジャールさんはそこで皆の顔を見た。


「今の話を聞いて分かったじゃろうが、魔物は数種類いる可能性がある。そう考えて警戒に当たってほしい」


 仲間達は無言で頷いた。

 そして通路を進んだ。

 程なくして俺達は、通路の先にある空洞の近くに差し掛かる。

 だがそこで、奇妙な音が聞こえてきたのだ。

 それは「ズザザザ、ズザザザ」と、何かを引きずるような音であった。


(なにかいる……魔物か……)


 先頭にいるカディスさんやネストールさんは、武器を手に取り、身構える。

 この場は一気に、物々しい空気へと様変わりした。


「これは奴等の歩く音だ。この空洞に、死体の化け物がいるぞ。全員、気を抜くなよ」


 俺は魔導師の杖をとりあえず構えた。

 他の皆も勿論、臨戦体勢に入っている。

 また、俺に密着していたアーシャさんも流石に空気を読んだのか、離れて慈愛の杖を構えたのである。

 俺達は静かに空洞内へ足を踏み入れる。

 と、その時であった!


「シャァァ!」


 奇声を上げながら、4体の魔物が入口付近に現われたのである。

 俺はその魔物を見た瞬間、吐き気のようなものが込み上げてきた。

 目の前に現れたのは、まさに歩く腐乱死体だったからだ。

 しかも、ゲームのようなアニメチックなビジュアルとは違い、スプラッターゾンビ映画に出てきそうな、リアルでエグい姿なのである。

 眼球や舌が外に飛び出ており、肉が剥がれ落ちた体の一部からは、ウジが湧いた瑞々しい内蔵や骨も見えていた。

 また腐敗している事もあってか、物凄い悪臭がこちらに容赦なく漂ってくる。

 汚物は消毒だ! と、問答無用で火葬したい気分であった。


(やっぱ、リアルなゾンビがいたなら、どうしてもこうなるよな……キツいわ……)


 それはともかく、見た目的に、この魔物は恐らく、リヴィング・デッドの方だろう。


「まず、俺とネストールで奴等を攻撃をする。ゾフィとカロリナは魔法で援護してほしい。レイスさんとドーンは後方に注意してくれ。他の者達は機を見て魔法攻撃を仕掛けてくれ」


 カディスさんはそれだけ言うと、ネストールさんと共に攻撃を開始した。

 剣を装備しているカディスさんは、一番近い位置にいるリヴィング・デッドを素早く袈裟に斬りつける。

 その瞬間、魔物の胸に大きな傷がパックリと開いた。

 続いてネストールさんの振るう槍が、その隣にいるリヴィング・デッドの喉元を容赦なく貫通する。

 そして続けざまに、ゾフィさんのギルラーナと、カロリナさんのセインが魔物に襲いかかったのだ。

 4体のゾンビは、ギルラーナの炎によって焼かれ、セインの小さな竜巻に吹き飛ばされる。

 すると4体の腐った死体は事切れたかのように、ドサリと地に伏したのであった。

 魔物は微動だにしなかった。

 どうやら、倒したみたいだ。

 カディスさん達は流石に戦い慣れているらしく、素早い連携であった。

 だがしかし……俺は少し違和感を覚えていた。

 それは勿論、あまりに呆気なかったからだ。


(あれ? リヴィング・デッドって、こんなに弱かったっけ? ゲームじゃ……もう少し、打たれ強かったような……)


 俺は今の戦闘を見て、まずそれが脳裏に過ぎった。

 とはいえ、それはあくまでもゲームの上での話だ。

 今はおいておくとしよう。


「ほぉ、流石じゃな。マルディラントでも指折りの冒険者と言うだけあるわい」


 リジャールさんは満足そうにカディスさんに目を向けた。

 だが、カディスさんは横たわる魔物を眺めながら、少し微妙な表情をしていたのでらる。


「こんな手応えだっただろうか……もう少し強かったような……まぁ気のせいかも知れんが」


 やはり、カディスさんも俺と同じことを思っているようだ。

 とはいっても、俺の場合はゲーム上での話なので、それを言うわけにはいかないが……。

 だが、もしこれがゲームならば、今の攻撃でリヴィング・デッドは倒せてないに違いない。

 彼らの装備品や身体能力を元に、今の攻撃で与えられたダメージを仮に数値化するならば、精々70から80ポイント程度だろう。

 しかもそれは、カディスさんとネストールさんの攻撃した2体だけである。

 他の2体に関しては魔法でのダメージだけなので、精々、40から50ポイント程度。

 それに対し、リヴィング・デッドのHPは100前後あった事を考えると、倒すまでには至らないのだ。

 これをどう考えるかだが、ゲームと同じという確証はどこにもない。


(違和感が拭えないな……かといって確信もないし。とりあえず、様子を見るしかないか……気に入らんが)


 俺がそんな事を考える中、カディスさんの声が聞こえてきた


「では、この空洞から調べていこう。まずはリュシアを探すんだ」


 俺達は無言で頷く。

 そして、前方に見える空洞の中へと足を踏み入れたのである。

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