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前略、目が覚めたら、なぜかRPG世界にいたんだが……。  作者: 書仙凡人
第二章 前略、辺境の地ガルテナへ……

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Lv.69 村の様子

   [Ⅰ]



 翌日の明け方、俺はいつも通りに目を覚ました。

 だが頭の中が覚醒するに従い、なぜか知らないが、少し窮屈な感じがしてきたのである。そう、何かに圧迫されるかのような……。

 それが気になったので、俺は圧迫を感じる左手に意識を向かわせた。

 すると左手に、妙に弾力のある柔らかい物体があったのだ。


(ん……何だ、この柔らかい物体は?)


 俺は眠い目を右手でこすりながら、そこに視線を向ける。

 そして、その物体を見るや否や、俺は驚きのあまり目を見開いた。

 そこにあったモノ……それはなんとアーシャさんだったからだ。

 アーシャさんが俺の隣で、今まさに、スースーと寝息を立てているのである。

 それはまるで、昨日の朝の再現のようでもあった。


(な、なんでここにアーシャさんがいるんだ……)


 事態が飲み込めない俺は、そこで、昨夜の就寝前の事をじっくりと思い返すことにした。

 昨晩、夕食を食べた後、ここの宿の者が簡易ベッドを1つ運び込んでくれた。

 それによって5人全員分のベッドが揃ったので、話し合いの結果、各自が好きなベッドで寝る事になったのである。

 ちなみに俺は、運び込まれた簡易ベッドを使う事にした。

 理由はまぁ単純な事だ。

 皆に遠慮したのと、ヴァロムさんの所ではこれ以上に酷いベッドを使っていたので、こういった寝床に慣れていたからである。

 まぁそんな感じで、俺達は床に就いたわけだが……今の状況はどう考えておかしい。

 就寝の時は、アーシャさんも別のベッドで寝ていたからだ。


(アーシャさんはいつの間に、ここに入ってきたんだろう……)


 勿論、俺は覚えていない。

 という事は、俺が爆睡している時に、このベッドに入ってきたのだろう。

 まぁだからといって、別に嫌というわけではないが……。

 しかし、アーシャさんがこんな行動をとるという事は、まだザルマンの事が頭から離れないのに違いない。

 だがとはいうものの、これはあまりいい傾向ではない。

 なぜならこの先、アーシャさんは俺に依存する可能性があるからだ。

 可愛い子が隣で寝てくれるので俺も悪い気はしないが、やはりそこは、心身ともに健全な状態での関係が一番望ましい。

 心に傷を負ったが故のスキンシップだと、やはり、道中危ういのである。

 特にこの先は、魔物との戦闘も増える事が予想される。

 つまり、依存する事が常態化すると、非常時に正常な判断を下せなくなる事に他ならない。

 その為、更に危険が迫る事になるのだ。


(……これから先、アーシャさんの心のケアについても考えないといけないかな。最悪の場合は……マルディラントへと帰ってもらう事も、視野に入れなければならない。説得は難しいだろうけど……)


 俺はそこでアーシャさんの寝顔に目を向けた。

 昨日と同様、アーシャさんはすっかり安心しきった表情で眠っている。

 小さく胸を上下させながら、時折、口元をムニュムニュと動かす可愛らしい仕草をしていた。

 見ているこっちも幸せになるような、無邪気な寝顔だ。


(安眠て感じだな……幸せな寝顔だ。まぁとりあえず……後で考えよう。それはともかく、そろそろ起きるとするか……)


 俺は半身を起こして大きく背伸びをすると、そこで室内を見回した。

 他の3人はベッドでまだ寝ている。

 時折、寝返りを打ち、上にかかった毛布がモゾモゾと動く。

 いつか見た修学旅行での朝のようでもあった。

 するとその時、アーシャさんがムクリと半身を起こしたのである。

 そして俺と目が合った。


「おはようございます、コタローさん」


 アーシャさんは小声で朝の挨拶をすると、瞼を擦り、ニコリと可愛らしく微笑んだ。

 か、可愛い。

 俺も小声で挨拶を返した。


「おはようございます、アーシャさん。って……それよりもビックリしましたよ。起きたらアーシャさんが横に寝てたので」

「だって……夜中に突然目が覚めて、またアレを思い出したのです。なので……」


 アーシャさんはそう言って、表情を落とした。

 やはり、ザルマンの事が脳裏に蘇ってきたみたいである。

 既にトラウマになっているのかもしれない。


「そうだったんですか。でも、この部屋はアーシャさん1人じゃないので大丈夫だと思いますよ」

「コタローさん、確か一昨日の晩、こんな事を言いましたね。何かあった時は身を挺してでも私を守ってくれるって……私、あの言葉が嬉しかった。ですから私、コタローさんといると凄く安心できるんです」

「そ、そうなのですか。ははは……」


 これは良くない兆候だ。

 思った通り、アーシャさんは俺に依存しかけている……。

 原因は俺にもあるので、何か改善の策を考えないといけない。


「ところで、コタローさん。どこに行くんですの?」

「そうですね……とりあえず外で顔や口を洗ってサッパリしてから、村の中を少し散歩でもしようかと思ってますけど」

「じゃあ、私も行きます。準備しますので待っててください」


 アーシャさんそう言うや否や、体を起こしてベッドから降りる。

 そして、いそいそと準備に取り掛かったのである。



  [Ⅱ]



 宿を出た俺とアーシャさんは、外にある井戸で顔や口を洗った後、朝の澄んだ新鮮な空気を体内に取り込みながら、村の中を見てまわった。

 まだ日が昇り始めた頃なので、村内は若干薄暗く、そして静かであった。

 周囲の森から聞こえてくる「キィキィ」という鳥の鳴き声が、朝を告げているかのようだ。

 そんな村内ではあったが、村人たちの姿もチラホラと目に留まった。

 畑で農作業をする者や、井戸の水を汲みに来る者もいた。


(この光景を見る限りでは、モロに長閑な山の集落なんだけどな……でも……)


 そう、村の守衛を務める冒険者達の姿が視界に入ると、一気に物々しい雰囲気に変わるのだ。

 とはいえ、村の警備は抜かりなく行われているという事なので、この村に住む人達からするとありがたい光景なのだろう。


「コタローさん……この冒険者達は兄の手配なのでしょうか?」

「マルディラントへ陳情に行ったそうですから、恐らくは……」

「……やはり、早く解決した方がよさそうですね。ここはマール地方ですから、私も無視できません」


 アーシャさんは責任感が強いので、自分の事のように思っているのだろう。

 良い事だが、無理はしないでほしいところである。

 その後、俺達は暫く村の中を歩いて回り、宿屋へと帰ったのであった。



   [Ⅲ]



 宿屋の玄関を潜ると、出掛ける時は誰もいなかった正面の受付カウンターに、初老の男が1人立っていた。

 この男の顔には見覚えがあった。

 昨日、宿泊の交渉をした相手である。

 多分、この宿屋の主人だろう。

 男は俺達を視界に収めると、ニコリと微笑み挨拶をしてきた。


「お客様、おはようございます。昨晩はよく眠れましたかな?」


 俺とアーシャさんは立ち止まり、挨拶を返した。


「ええ、ゆっくりと休むことが出来ました」

「良い香りのする部屋だったので、気分よく休めましたよ」


 俺達の反応を見て、男は満足そうな笑みを浮かべた。


「それは良かった。ところで、外から来られましたが、村の中でも散歩されてたのですかな?」

「ええ、ちょっとその辺を見て回ってきました。朝の散歩は心地いいですからね。それにここは澄んだ空気をしてますので、心身ともに充実した気分になりましたよ」

「そうでございましょう。特にこのガルテナは、木々に囲まれた集落ですので、空気も下界とは一味違いますからな。外から来られたお客様は、皆、そう仰います……とはいうものの……それも平穏があってのものですがな……」


 男はそう言って、少し曇った表情になった。

 恐らく、坑道に棲みついた魔物の事を言っているのだろう。


「そのようですね。昨晩、この村の方から、坑道に魔物が棲みついたと聞きました。そして、村の中にいる冒険者達は、その為に、ここにいるとも……」


 男は頷くと、大きな溜息を吐いた。


「ええ……まったくです。なぜ、魔物が棲みつきだしたのかわかりませんが、私共もホトホト困っているのですよ。あんな醜い魔物が棲みついたとあっては、この平穏なガルテナの評判も地に落ちてしまいますからな。早いところ何とかしてもらわないと、商売に差支えてかないません……」

「でしょうねぇ。その辺にいる魔物ならいざ知らず、よりにもよって死体の魔物ですもんね。心中お察ししますよ」


 俺は今の話を聞き、昨日あったリジャールさんとのやり取りを思い出した。

 実は昨日、棲みついた魔物の事は外部に他言しないよう冒険者達に念押ししてあると、リジャールさんは言っていたのだ。

 やはり、死体の魔物がうろつくなんて事が知れ渡ると、ガルテナの長閑なイメージに傷がつくからだそうである。まぁこれはもっともな話だ。

 またリジャールさんの話によると、この村の主な収入源は、山菜や山の畑で収穫した農産品と民芸品であるらしい。そういったことから、それらを求めてやってくる商人もいるので、今のこの現状を知られると色々と都合が悪いそうなのだ。

 まぁ要するに、風評被害を気にしているのである。


(腐った屍がうろつく村なんて、まんまゾンビ映画さながらだもんな。そんな噂が蔓延したら、確かに誰も来なくなるわ……)


 ふとそんな事を考えていると、男が訊いてきた。


「ところでお客様は、これからどちらに向かわれるのですかな。山を降りてフィンド方面へですか? それともこの先にあるモルドの谷を抜けて王都の方角へ?」


 どう答えようか迷ったが、誤魔化す事でもないので俺は正直に言った。


「実はですね。私達はこの後、リジャールさんという方と共に、坑道の中を調べる事になっているのですよ」

「え!? それは本当ですか? リジャールさんと?」


 男はそう言って目を見開いた。


「ええ、本当です。リジャールさんから直々に頼まれたものですからね」

「そうだったのですか……リジャールさんに。ですが、この村にいる冒険者達の話だと、中々に敵は手強いそうです。なので、十分な準備をしてから向かわれた方がいいでしょう。特に毒を持っているらしく、かなり面倒な魔物だと聞きましたからね」


 確かに、色々と準備は必要だ。

 話のついでなので、道具屋の場所も訊くことにした。


「あ、そうだ。話は変わりますが、この村に癒しの魔法薬や松明等を売る道具屋はあるのですか?」

「ああ、それでしたら、私共の方で副業として営んでおりますが」

「本当ですか。それは助かる」


 まさか目の前に道具屋があったとは……。

 これぞまさしく、灯台下暗しというやつだ。

 男は仕切り直しとばかりに、営業スマイルになった。


「それではお客様、何をお探しでございますかな?」

「明かりを灯す道具が欲しいのですけど、何かありますかね」


 するとアーシャさんが首を傾げたのである。

「コタローさん、グローラムがあるではないですか。明かりを得る道具は必要ないのでは?」

「まぁ確かにそうなんですが、魔力切れを起こす可能性も否定できませんので、一応用意した方がいい気がするんですよ。それに俺の故郷では、備えあれば憂いなしという(ことわざ)もあるのでね」

「ソナエアレバ? ま、まぁその辺の事情はよく分かりませんが、貴方が必要だと思うのなら、私はもう何も言いませんよ」


 というわけで、俺は交渉を再開した。


「何かありますかね? できれば長く使える物がいいです」

「でしたら、ちょっと待ってくださいね……ええっと、どこに仕舞ったかな……ああ、あったこれだ」


 男は後ろにある棚の扉を開き、そこから、西洋風のランタンみたいな物を取り出した。

「これなんかどうでしょう? 以前、この村に来た行商人から手に入れたグローです。結構長持ちする良い物ですよ」


 ここでよく使われるグローというオイル式ランプである。


「これは、何を燃料にするんですか?」

「それはですね、この灯り油を使うんですよ」


 男はそう言って、1.5lのペットボトルサイズのガラス瓶をカウンターの上に置いた。

 ちなみにだが、その中にはドロっとした薄茶色の液体が入っていた。

 このイシュマリアでは原油を精製するプラントもないので、俺達が日頃使う灯油とかではないだろう。

 多分、この色と粘りからすると、植物か動物由来の油かもしれない。


「へぇ、なるほど。じゃあ、これにするかな。ところでおいくらですかね?」

「こちらは量産品の松明と比べると少し値が張りまして、灯り油とグローで80ゴルになります。それでもよいでしょうか? 今ならもう1つ、灯り油を付けますよ」


 どこぞの通販商法並みに、太っ腹な店主である。


「ええ、構いませんよ」――

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