Lv.68 魔物語り
[Ⅰ]
俺の話を聞き、イアちゃん達は何とも言えない微妙な表情であった。
恐らく、手を貸してほしいと言われる事を危惧しているに違ない。
それに関しては否定しておこう。
「ああ、大丈夫ですよ。心配しないでください。これに関してはイアちゃん達に強制はしませんので。向こうは、俺だけでも構わないと言っているので、そこは安心してください」
アーシャさんにも言っておくことにした。
「それから、アーシャさんも無理はしなくていいですよ。相手は死体の魔物です。女性にとっては、見た目的にちょっとキツイ敵かもしれませんからね。休んでいてもらっても構いませんから」
するとアーシャさんは頬を膨らました。
「むぅ、その言い方……私を女だと思って馬鹿にしてますね。フン、お生憎様ですが、私は行きますよ。例え、死体の魔物であっても」
これは少し意外であった。
死体の魔物と聞いて嫌そうな顔をしていたので、てっきり来ないだろうと思っていたからだ。
とはいうものの、怒っているようなので誤解は解いておこう。
「そんなつもりで言ったんじゃないですよ。だって、敵は死体です。女子供に見せるようなモノではないですからね。だから、変な風に受け取らないでください」
「まぁ貴方の事ですから、私を気遣ってくれたというのはわかります。ですが、知見を広げる為にも私は行きます。それに、ラウムの採掘場所というのも見てみたいですし」
とりあえず、誤解は解けたようだが……本当の事を言うと、ここで待機していてほしかったところである。
しかし、今更そんな事を言ったところで、もう言う事は聞かないだろう。
諦めるしかない。
イアちゃんがそこで手を挙げた。
「あの……コタローさんは死体の魔物をどう見ているのですか? それを聞いてから、同行するかどうかを判断しようと思います」
イアちゃんのこの言い方は、俺が持つ魔物の知識を聞きたいという事なのだろう。
こうなった以上は仕方ない。
俺はゲームの知識を少し話す事にした。
「それなんだけどね。実はこの依頼を聞いた時に、とある不死の魔物の事を思い出したんだよ」
「不死の魔物……」
イアちゃんは胸に手を当て、ゴクリと生唾を飲み込む。
「実は俺が知っている不死の魔物に、屍食鬼とリヴィング・デッドという魔物がいるんだ」
「グールとリヴィング・デッド……それはどんな魔物なのですか?」
「それらは、俺達のような種族の死体が、魔物化したものなんだよ。そして厄介な事に、その魔物は毒の霧も吐いてくるそうだ。確か、そんな事が書いてあったかな」
レイスさんとシェーラさんの表情が曇る。
「毒の霧だって……そういえば、ラミナスから逃げる途中、そんな魔物に出くわしたわ。確か、肌が群青色になった薄気味悪い死体の魔物だったと思う」
と、シェーラさん。
「それは多分、屍食鬼というやつかも知れないですね」
「だがその魔物は、ラミリアンの死体だったぞ」
「レイスさん……同じことですよ。我々のような種族の死体が、何らかの理由で魔物化するという事ですから」
「な……」
ラミリアン達3人は、俺の話を聞き、息を飲んだ。
言わんとしている事が伝わったのだろう。
「この死体の魔物というのは、何種類かいるんですよ。紛らわしいかもしれませんが、それぞれ性質が違うみたいです。でも、毒を持つという事に限定すると、今言った屍食鬼とリヴィング・デッドという2種類の魔物が考えられますね。ン?」
すると、シェーラさんが怪訝な表情で俺を見ていたのである。
ちょっと話し過ぎたかもしれない。
「へぇ……そうなの。というか、コタローさんて本当に物知りなのね。ザルマンの時といい、本当によく、魔物の事を知っているわ。ラミナスでもコタローさんほどに、魔物の知識がある者はいない気がするんだけど……」
何となくではあるが、俺の事を探るような口調であった。
レイスさんもそれに同調する。
「実は私も、そう思っていたところだ。コタローさんは、ラミナスにいたどの学者よりも魔物の事に詳しいなと……。いや、ラミナスだけではない。私が今まで出会ったイシュマリアの誰よりも詳しいように思える」
2人共、流石に不審に思っている感じであった。
仕方ない、この際だ。
道中、イアちゃんとアーシャさんに話した内容を2人にも言っておいた方がいいだろう。
この2人は口も堅いだろうから、念押しすれば他言はしない筈だ。
それに今後、強力な魔物が出てきた時にイチイチ誤魔化すのも疲れるし、場合によっては、それが功を奏して素直に俺の言う事を訊いてくれるかもしれない。
だがその前に……他言しないように、釘だけは刺しておこう。
「レイスさんとシェーラさんに……言っておかねばならない事があります」
「何かしら?」
「何だろうか?」
「実はここに来るまでの道中、イアちゃんとアーシャさんには他言無用というのを条件に、俺の持っている知識について話したんです。ですから、他言しないと誓って頂けるのであれば、レイスさんとシェーラさんにも、それをお話ししましょう」
2人は互いに顔を見合わせ、頷いた。
「わかった。他言しないと固く誓おう」
「私も誓うわ」
「では、お話ししましょう……これは以前住んでいた所での話なんですが、俺はそこで、数々の魔物や魔法について書かれた書物を読んだ事があるんです。なので、その書物に記されていた魔物や魔法の知識は、それなりに記憶しているんですよ。ですが、それらはイシュマリアとかではあまり知られていない書物らしいので、俺は面倒を避ける為に、今までずっと内緒にしてきたんです」
この設定で押し切るしかない。
禁断の書物寄りの設定だから、場合によっては不審に思うかもしれないが、その時は、古代文明の遺産かもしれない……とでも言っておこう。
「そういう事だったの……。確かに、その理由ならば、他言はしない方がいいわね」
どうやら納得してくれたようだ。
「では、ザルマンが従えていたあの魔物達も、その書物に記されていたということなのか?」
「ええ、そうですよ。その書物には姿形も描かれていたので、魔物を見た時、すぐにわかったのです」
「そうだったのか……。すまない、コタローさん。言いにくい事を話してくれて」
レイスさんは俺に向かい、深く頭を下げた。
だが、俺はそんなレイスさんを見て、少し罪悪感が湧いてきた。
なぜなら、今言った内容も嘘だからである。
自分で言っといてなんだが、嘘を吐くというのはあまり気分がいいものではない。
しかし、だからと言って、『ここは龍の神の幻想譚というTVゲームに似た世界なので、それに出てくる魔物の事は大体知ってますよ』などとは口が裂けても言えないのだ。
その為、今はこう告げる以外、俺が取れる方法は無いのである。
「コタローさん、話を戻しますが、その死体の魔物というのは、毒以外の危険はないのですか?」
と、イアちゃん。
用心深い子である。
俺と似た性格のようだ。
「毒以外にか……。そういえば、地味なんだけど、他にも厄介な特徴が書いてあったね」
「厄介な特徴とは?」
「これはうろ覚えなんだけど……毒の他に、眠りを誘う息を吐いてくるという事や、集団で現れた場合は、1つの対象に向かって集中攻撃をしてくるような事が書いてあった気がするんだよ」
確かゲームだと、そんな設定だった気がする。
しかも、集団で現れた場合は、それが地味に効いてくるのだ。
特に集団で現れた時の眠りは要注意である。
攻撃力は弱いくせに、それを補う手段をもっているので侮れない魔物であった。
「眠りを誘う息と、1つの対象に集中攻撃。おまけに毒も持っている、か。確かに、それは厄介な魔物だわ」
シェーラさんはそう言って、険しい表情を浮かべた。
「ああ、シェーラの言うとおりだ。もしそれが本当ならば、厄介な魔物と言わざるを得ない。しかも、死体という事を考えると、痛みを受ける事に対する恐怖心もないだろうからな」
確かに、レイスさんの言う事も一理ある。
よくよく考えてみれば、既に死んでいる死体に、痛覚なんぞは存在しないのだ。
「コタローさん、その他に何か特徴はあるだろうか?」
「そうですねぇ、後は眠りや幻覚系の魔法に耐性を持っているのと、結構打たれ強いってとこですかね。まぁ元が死体なんで、その辺は当たり前といえば当たり前なのかもしれませんが……」
死体の魔物は恐怖心がないというのが、一番恐ろしい性能なのかもしれない。
「確かにそうですね……」
「でも、それらの魔物には弱点もあって、物理的な攻撃や、ファーラ系やブレイズ系の攻撃魔法には、耐性が全くないという事が書かれてましたよ。まぁとりあえず、今思い出せるのは大体こんなところでしょうか」
「どんな魔物なのかは大体わかりました。ちなみに、コタローさんから見て、その魔物は強敵に思われますか?」
と、イアちゃん。
「さぁ、どうだろうね……」
俺は返答に困ってしまった。
なぜなら、ゲームだと弱いくせに面倒臭い敵というイメージしかないからだ。
しかし、この世界の腐った死体がゲームと同じかどうかはわからない。
おまけに、実際に確認したわけでもないので、その辺は未知数なのである。
というわけで、俺は正直に言っておいた。
「実を言うと、その辺はよくわからないというのが、今の俺の見解かな。実際に坑道で見たわけじゃないからね……」
「そうですか。ではちょっと考えさせてください」
イアちゃんは目を閉じ、考え始めた。
シンとした静かな時間が過ぎてゆく。
多分、色々と考えているのだろう。
あまり悩ませるのも悪いので、俺は無理しないよう言っておいた。
「でも、イアちゃん達は無理はしなくていいよ。向こうも最悪、俺だけで構わないとは言ってくれているしね。それに、この村には冒険者の数も多いから、その辺は何とかなると思うし」
イアちゃんはそこで、レイスさんとシェーラさんに何かを耳打ちした。
2人は互いに顔を見合わせ、少し険しい表情になる。
明らかに、イアちゃんの言葉に驚いている風であった。
だが、納得したのか、2人は首を縦に振ったのである。
イアちゃんはそこで、俺に視線を向けた。
「決まりました。私達もコタローさんに同行します」
「え? 本当に? でも、毒のある魔物だよ」
「わかっております。ですが、私もアグナを使えますので、きっと力になれる筈です。それに、コタローさんには大変ご迷惑をおかけしましたので、そのお詫びも兼ねて同行する事にします」
イアちゃんは、昨日のザルマンの事をまだ気にしているのだろう。
(無理もないか……俺も逆の立場ならそうするかもしれないし……)
まぁそれはともかく、イアちゃん達が来てくれるのは確かに心強い。
なので、この申し出はありがたく受け取る事にした。
「本当に? 断られると思っていたから、それはありがたい。じゃあ明日は、全員同行してくれるという事でいいんだね?」
4人は俺にコクリと頷く。
というわけで、明日は皆と共に、ラウム鉱採掘跡へ向かう事となったのだ。




