Lv.67 魔力の結晶
[Ⅰ]
アーシャさんがマルディラントに戻ってからどのくらい時間が過ぎただろうか。
俺の感覚では20分程度だとは思うが、周囲は既に暗闇と化す一歩手前であった。
というか、もう夜と言い切っていい暗さである。
しかもその上、人気のない異様な静けさが漂う空間でもあるので、1人ポツンとこんな所にいるのが寂しくなってきたのだ。
おまけに、グゥグゥと腹も悲しく鳴るのである。
(はぁ……アーシャさん、早く帰って来ないかな……腹も減ってきたし……)
そんな事を考えつつ、俺は今も尚、オッサンに質問を続けている最中であった。
「ところで話は戻るけどさ。俺、魔物の話を聞いてから、少し気になってる事があるんだよ」
「気になる事? 何だ一体?」
「さっき、死体の魔物を操る者がいるかもしれないと言ってたけどさ、もし仮にそうだとすると、その操っている者は何が目的なんだと思う?」
「ふむ……何が目的か、か……そうだな、ここは魔鉱石の採掘場所という事を考え!? ま、まさか……ヴァナドリアム……いや、しかし、まさかそんな事は……」
また耳慣れない単語が聞こえてきた。
「ヴァナドリアム? なんだそれ?」
「い、いや、なんでもない……。今の言葉は忘れてくれ」
明らかに何かあるような言い方である。
こう言っちゃなんだが、今の言い方を聞いて忘れろというのが無理な話だ。
「そんな風に言われると、却って気になるじゃないか。何なんだよ、そのヴァナなんとかってやつは?」
すると、渋々、オッサンは話し始めた。
「むぅ、仕方ない……。とりあえず、魔力の結晶の事だと思っておけ。今はそれ以上の事は言えん。それと、今の言った名は迂闊に口にするなよ。厄介事を招く恐れがあるのでな」
オッサンの言い方を聞く限り、嫌な予感しかしてこなかった。
「魔力の結晶だって……下手に扱うと、この辺り一帯が更地になるレベルの大爆発を起こすとかじゃないだろうな?」
「爆発? それはないから安心しろ。もっと別の危険だ。というか、忘れろ。我はもう言わんからな」
とりあえず、爆発は起きないようだ。
別の危険というのが気になるが、今はとりあえず、記憶の片隅に留めておこう。
「魔力の結晶ね……。ま、ソーンさんがそう言うって事は、かなり危険な代物のようだな。わかったよ、その名前は口にしないでおこう。俺もこれ以上、厄介事は御免だしね」
「すまぬな。少し、込み入った事情があるのだ。だが、その内、話す時も来るかもしれん。その時はお主に説明をしよう。それまでは待ってもらいたい」
「わかったよ。ン?」
と、その時、空から一筋の光が舞い降りてきた。
どうやら、アーシャさんがお着きになったようだ。
アーシャさんが地面にフワリと降り立つ。
「ただ今戻りました、コタローさん。ごめんなさいね、こんなに暗くなるまで待たせてしまって」
「いや、いいですよ。それよりも、サブリナ様は何も言っておられませんでしたか?」
「いいえ、何も。恐らく、お母様は気付いてないと思います。ですから、コタローさんの所で修行をしていると思ってる筈ですよ」
「そうですか。それは何よりです」
本当のところはどうかわからないが、これに関してはアーシャさんの言葉を信じるしかない。
それはともかく、そろそろ帰るとしよう。
「さて、それじゃ、宿屋に戻りましょうか。もう外も暗くなりましたし、それにイアちゃん達も待ってると思いますんで」
「ですね。でも、だいぶ遅くなったので、帰ったら、イアさん達に謝らないといけませんね」
「ええ」――
[Ⅱ]
宿屋に帰ってきた俺達は、そのまま自分達の部屋へと向かった。
その途中、何人かの宿泊者と擦れ違ったが、全て武具を装備した者達ばかりであった。
受付の者が言っていたとおり、宿泊客は冒険者しかいないようである。
部屋の前に来た俺は、扉をノックした。
「コタローです。ただ今、戻りました」
扉の向こうから、イアちゃんの明るい声が聞こえてくる。
「あ、お帰りなさい、コタローさん。待ってくださいね。今、止めを外しますから」
その言葉の後、ガチャという音が聞こえ、扉がゆっくりと開かれた。
扉の向こうには、優しく微笑むイアちゃんが立っていた。
「ごめんね、イアちゃん。ちょっと、話が長引いちゃってね」
「ごめんなさいね、イアさん。こんなに遅くなってしまい」
「いいえ、私達も気楽に寛いでいたところなので、コタローさんもアーシャさんも気にしないでください」
部屋の中に目を向けると、レイスさんとシェーラさんが奥のテーブルで寛いでいた。
テーブルの上には3つのカップと、クッキーのようなお菓子が盛られた大きな皿が、1つ置かれている。
この様子を見る限り、3人はまだ夕食は食べてないみたいだ。
多分、小腹が空いたので、旅の携行食でも摘まんでいたのだろう。
「どうもお疲れ様でした、コタローさん。これで、この村での用事は済んだのですね?」
「いや、それなんだけどね……ははは」
俺は少し気まずかったので、とりあえず、後頭部をかきながら微妙な受け答えをしてしまった。
するとすかさず、アーシャさんが俺の脇腹を肘で突いてきた。
「コタローさん……笑ってないで、皆さんに、ちゃんと話さないといけませんよ」
「ははは……ですよね」
「何かあったんですか?」
イアちゃんはキョトンとしながら、少し首を傾げた。
「うん……まぁ、ちょっとね。でも、部屋の入り口でする話じゃないから、とりあえず、中で話そうか」
「ですね」――
部屋の中に入った俺達は、リジャールさんからあった依頼内容を3人に説明した。
3人は話を聞くにつれ、徐々に微妙な表情へと変化していった。
特にレイスさんとシェーラさんは険しい表情であった。
まぁ当然だろう。2人はサナちゃんの護衛なのだから、こういう反応をするのは当たり前である。
これが逆の立場だったなら、俺も同じような反応をしていたに違いない。
それはさておき、俺は一通り説明したところで、とりあえず、どうするかを3人に訊いてみる事にした。
「……とまぁ、以上が依頼の内容なんですが、どうしましょうか? 3人の意見を聞かせてください」
イアちゃん達3人は互いに顔を見合わせた。
そして眉間に皺を寄せ、渋い表情で黙り込んでしまったのである。




