Lv.66 骸使い
[Ⅰ]
俺達はリジャールさんから、魔石鉱山の坑道の状況を説明してもらった。
で、わかった事だが……坑道に棲み着いた魔物とは、毒の霧を吐く、人の死体だそうだ。
俺がそれを聞いて思い浮かべたのは、屍食鬼とリヴィング・デッドである。
ゲームだと、この2体の魔物は毒を吐く攻撃をしてきたので、8割方、それではないかと俺は考えていた。
また、その魔物は夜になると現れるそうで、今は坑道の入り口でなんとか食い止めているそうだ。
それと魔物が現れだした時期は、アムートの月に入り始めた頃らしい。
どうやらここ最近の事のようだ
今のところ、死者は出ていないとの事であった。
リジャールさんと村長が、早めにマルディラントへ行って陳情した事もあり、早期の段階で冒険者の手配を出来たのが良かったそうである。
だが、備蓄してある毒消しの魔法薬にも限りがある為、未だに中で何が起きているのかはわからないそうだ。
とりあえず、聞けた話は大体こんな感じである。
(アンデッドモンスターか……あんまし、行きたくないんだが……仕方ないか)
そんなわけで、俺達はどうするかだが……一応、渋々ではあるが、手を貸すという方向で俺は返事をした。
しかし、それは俺だけが手を貸すという事であって、アーシャさんやイアちゃん達もというわけではない。
他の皆が手を貸すかどうかは、宿屋に戻って話し合った上で決めるという事になったのだ。
そして、他の皆が来る来ないにかかわらず、俺は明日の朝、リジャールさんの家に向かうという事で話がまとまったのである。
リジャールさんは俺だけでも構わないと言っていたので、この村にいる冒険者達にも同行してもらうつもりなのだろう。
ちなみにだが、報酬は前払いとしてグローラムの魔法書だけ貰い、魔導器に関しては全てが済んだ後に頂くという事になった。
リジャールさんも無理を言ってお願いする手前、そこは少し気を使ったようである。
[Ⅱ]
リジャールさんの家を後にした俺とアーシャさんは、宿屋には戻らず、人気のない場所へと移動を始めた。
理由は勿論、アーシャさんがマルディラントに一時帰宅する為の場所探しである。
外もだいぶ暗くなってきているので、早く帰らないと不味いからだ。
村内を暫し散策すると、村の外れで、人気のない物置小屋のようなモノを見つけた。
この小屋の付近には、冒険者や村人の姿もないので、風の冠を使うには好都合の場所であった。
そして、アーシャさんは風の冠で、マルディラントへと帰って行ったのである。
アーシャさんが一時帰宅したところで、ソーンのオッサンが小声で話しかけてきた。
「コタローよ……先程、あの者の依頼を引き受けたが、良いのか?」
「良いも悪いも、仕方がないだろ。俺もあそこまでして頼まれると断りづらいよ。それにヴァロムさんの友人だから、あまり無碍にも出来ないしな。まぁ本当は断りたかったところだけど……」
「そうか……。ならば、1つ忠告だけはしておこう」
「忠告? 何だ一体?」
ソーンのオッサンは、何かに気付いたのかもしれない。
「先程、あの者が言っていた骸の魔物だが……恐らく、それらを操っておる魔物がおるやもしれぬ。骸使いがな……」
「はぁ? 操っている魔物だって!?」
死体を操る。
つまり、死人使いという事だ。
もしかして、魔物はネクロマンサーなのだろうか……。
「ソーンさん、どういう事だ? 死体が動くという事は、誰かが操っていると考えるのが、ここでは自然なのか?」
「いや、そうではない。お主に昨日、魔物と魔の瘴気の関係について話したと思うが、コレもそれが当てはまるのだ。なぜなら、お主等のような種族の骸が魔物と化すには、それ相応の濃い魔の瘴気が必要なのだよ。しかし、この地に漂う魔の瘴気はそれほど濃くはない。つまり……足りないのだ。もし仮に死骸が魔物と化したとしても、小型の動物程度が精々なのだよ」
まぁ要するに、グールやリヴィング・デッドは無理だが、犬や猫のゾンビくらいなら、いけるかもしれないと言いたいのだろう。
「じゃあ、何者かが死体に手を加えない限り、この地で人の死体は動かないって事か……」
オッサンの言う理論が正しいならばそうなる。
序盤の魔物しかいない所に、中盤の魔物が現れる事になるからだ。
但し、それはあくまでも、この世界の魔物がゲームと同じ強さならばという前提で成り立つ話である。
なので、今はとりあえず保留だ。
「それだけではない。実は、ここに来るまでの道中、我は邪悪な魔力の波動をずっと感じていた。そして、その波動の出所は、この村の奥……つまり、あの男が言っておった坑道の方角なのだよ」
「ほ、本当かよ」
「ああ、本当だ。勿論今も、得体の知れない禍々しい波動を感じる。だから今の内に忠告しておくが、明日は気を付けた方がいいとだけ言っておこう」
「ここでそれ言うか? ったく……引き受けるんじゃなかったかな」
後悔先に立たずというやつだ。
とりあえず、不測の事態に備えて、準備万端にしておいた方が良さそうである。
それはさておき、俺はリジャールさんとの会話で気になる事があったので、それを訊いてみる事にした。
「ところで話は変わるけどさ。ヴァロムさんはどこで、魔法の鍵の製法を手に入れたんだ? ソーンさんが教えたのか?」
「うむ、そうだ。我が教えた。あれは元々、精霊王リュビストがカーぺディオンの民であるアルヴ族に授けた技法だからな。精霊ならば、わかる事だ」
「アルヴ族?」
「この地の者にはエルフとも呼ばれている。今はもう……この世界にはおらぬがな」
ここでエルフが出てくるとはね。
しかも、カーぺディオンの民で、この世界にはいない……か。
「へぇ……エルフにね。意外と物知りなんだな、ソーンさんは……」
物を知らないようでいて、妙な事をよく知っているなと俺は思った。
またそれと共に、奇妙な引っ掛かりも覚えたのである。
だが、それが何なのかはわからないので、今は置いておくことにした。
俺は質問を続けた。
「それと、これも訊いておこう。ヴァロムさんの手紙には、リジャールさんから荷物を受け取り次第、王都に向かえと書いてあったけど、その後はどうするんだ?」
「ふむ……まぁそれについては、王都に着いてから話そう。まず、今は王都に向かう事を考えるがいい」
どうやらこの様子だと、これ以上の事は聞き出せそうになさそうだ。
仕方ない。諦めるとしよう。
「それはそうと、コタローよ。グローラムを修得するのなら今の内にやったらどうだ。どうせお主の事だ。リビュスト文字は読めぬのであろう?」
オッサンの言うとおり、俺はまだ古代リュビスト文字については全く読めない。
勉強したいのは山々だが、イシュマリア文字の読み書きで、今のところは手一杯だからだ。
やはり、日常生活で使う文字なので、学ぶ順序としてはどうしても、イシュマリア文字を優先してしまうのである。
勿論、一緒に学んでゆくという方法もある。
だが、両方を同時にやると混同してしまいそうなので、俺は1つに絞って学ぶことにしたのだ。
まぁそれはさておき、今がタイミング的に良いのは事実なので、ここはオッサンの指示に俺は従うとしよう。
「それもそうだな。じゃあ、魔法書の朗読の方をお願いするよ」
「うむ。では、魔法書を用意するがよい」――




