Lv.141 ゼーレ調査団
[Ⅰ]
ラヴァナの城塞門前に着いた俺達は、辻馬車を降り、付近にいるラッセルさん達の元へと向かった。
まずは遅刻した事を謝るとしよう。
「おはようございます。すいません、待たせてしまいましたね。余裕を持って出たと思ったのですが、遅れてしまいました」
「いえいえ、そんなに待ってないですから、気にしないでください」
「そうよ。私達だって、ついさっき来たばかりなんだから」
シーマさんはそう言ってニコリと微笑んだ。
とりあえず、怒ってはなさそうである。
「そうっスか、ならよかった」
俺はそこで、ラッセルさん達の面子をチラッと見た。
今日のメンバーはこんな感じだ。
ラッセルさんと妹のリタさん、そしてマチルダさんとシーマさんといった構成である。打ち合わせ通りの面子だ。
*
話は変わるが、妹のリタさんはあの時の戦闘で精神的に相当参っていたようだが、一昨日辺りから大分回復してきたらしく、ラッセルさんは一応妹に声をかけてみると言っていた。
なので、今日ここに来ていると言う事は、承諾したということなのだろう。
とはいうものの、俺は少し不安を覚えていた。
なぜなら、精神的なダメージからの回復はというのは、そう簡単にはいかないからだ。
大抵は時間がかかるものなので、そこが少し気掛かりであった。
だが、現代日本と比べると、魔物が蔓延るこの世界の人々は立ち直りが早い可能性もあるので、俺はとりあえず、了承したのである。
まぁそういうわけで、今日はこの面子に、俺とラティを加えた計6名での冒険となるのであった。
つーわけで話を戻そう。
*
俺が謝罪したところで、ラッセルさんは妹さんを紹介してくれた。
「ではコタローさん、改めて紹介しよう。妹のリタだ」
妹さんはボーイッシュなベリーショートの髪型をした赤い髪の女性であった。
少し気の強そうな感じではあるが、結構な美人さんである。
まぁ美男美女の兄妹ってやつだ。
身長は170くらい。年齢はアーシャさんと同じくらいだろうか。
それから、鋼鉄の鎧と鋼鉄の剣、それと鉄の盾といった武具を装備していた。
雰囲気的には、少し旅慣れてきた女戦士といった感じの見た目である。
「さ、お前も挨拶するんだ」
ラッセルさんに促され、リタさんはボソリと口を開いた。
「この間は、どうも……今日はよろしく」
少し素っ気ない挨拶だったが、とりあえず、俺も自己紹介しておくとしよう。
「コタローです。今日はよろしくお願いしますね」
俺はそう言って右手を差し出し、握手を求めた。
だが、リタさんは面白くなさそうに、プイッとそっぽ向いたのである。
(あらら、俺、もしかして嫌われたかな……理由は何だろう?)
もしかすると、遅刻してきた事を怒っているのかもしれない。
「おい、リタッ。その態度はなんだ。失礼じゃないかッ! コタローさんは命の恩人なんだぞッ」
ラッセルさんが慌ててリタさんに注意した。
「だから今、お礼を言ったじゃないッ。もういいでしょッ」
リタさんはやや声を荒げ、憮然とした態度をとった。
「お、お前な……何を考えているッ!」
険悪な雰囲気になりそうだったので、俺は間に入る事にした。
「まぁまぁまぁ、俺も気にしてませんから、ラッセルさんもそう熱くならずに。それはそうと、もう挨拶はこの辺にして、そろそろ出発しませんか。明るい内に王都へ帰ってきたいですからね」
「すいません、コタローさん。後で妹にはきつく言っときます。では俺が御者をしますので、他の皆と共に、コタローさん達も後ろに乗ってください」
「わかりました。では、よろしくお願いしますね」
というわけで、少し妙な空気になったが、ここから今日の冒険が始まるのだった。
急造のゼーレ調査団出発である。
[Ⅱ]
王都を出発した俺達は、長閑な草原に伸びるアルカイム街道を真っ直ぐに進んでゆく。
15分程度進んだが、魔物との遭遇は今のところない。
王都近辺は魔物も少ないような事をウォーレンさんも言っていたので、暫くはこんな感じで進めそうである。
(とはいえ、油断は禁物だが……ン?)
そんな中、ラティが小声で俺に話しかけてきた。
「なぁ……ちょっとええか?」
「何だ?」
「……あのリタっちゅう姉ちゃん、時々、コタローにめっちゃメンチきっとるで。前になんかあったんか?」
そうなのである。
なぜか知らないが、リタさんは俺を時々睨みつけるのだ。
「う~ん、何もないと思うけどな……。つーか、前に会ったときは治療しただけだし。遅刻してきた事を怒ってるとか?」
「あのメンチはただ事やないで。大体、少し遅刻したくらいで、あないな目せぇへんて。治療した時に要らん事をしたんやないんか?」
「そう言われてもなぁ」
本当に何で睨まれるのやら……。
まぁいい、今は置いておこう。
そんな事よりも、そろそろあのアイテムの出番となるわけだが、見通しの良い景色が続くので、使う場所をどこにするか、俺は悩んでいた。
人目につくと不味いので、出来れば身を隠せるような所で、密かに使用したいからだ。
(さて、どこかに姿を隠せる良い所がないかな……)
俺はそんな事を考えつつ、前方に視線を向けた。
すると100mくらい先に、大きめの岩が幾つか点在している場所が見えてきた。
(おお、あの辺が良さそうだな。結構大きな岩がポツポツ見えるから、あそこなら周囲から目立つこともなさそうだ)
つーわけで、俺は早速、ラッセルさんにお願いする事にした。
「ラッセルさん、前方に見える岩のある所で一旦止まってもらえますか」
「え? あの岩が沢山ある所でですか?」
「はい」
「はぁ……わかりました」
ラッセルさんは首を傾げつつ、了承してくれた。
そして、目的の場所へと来たところで、馬車はゆっくりと停車したのである。
「ねぇ、コタローさん。こんな所で止まって、一体何をするつもりなの?」
と、マチルダさんが訊いてくる。
他の2人もマチルダさんと同様に首を傾げていた。
まぁこうなるのも無理はないだろう。
「ここからは、少しやらなきゃいけないことがあるんです。というわけで、早速で悪いんですが、皆、一旦馬車を降りて、あの岩の裏に行きましょうか。そこで説明をしますから」
俺はそう言うと、街道の付近にある大きな岩を指差した。
「あの岩の裏に? ……わかったわ。じゃあ、皆、行くわよ」
と、マチルダさん。
その言葉を合図に、俺達は岩の裏へと移動を始めたのであった。




