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前略、目が覚めたら、なぜかRPG世界にいたんだが……。  作者: 書仙凡人
第三章 前略、王都へ

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Lv.106 死の天使

   [Ⅰ]



 俺は魔力制御を行ないつつ、部屋の片隅に転がる紫色の水晶が付いた杖に目を向けた。


(奴が動き出す前に、アレを何とかした方が良さそうだ。このままにしておくと、絶対に面倒な事になる……)


 俺は急いで魔導の手を杖に向かわせた。

 そして宙に浮かせ、周囲の壁にある小窓の外に杖を放り投げたのだ。

 すると、それと入れ替わるかのように、床に蹲るローブ姿の男がユラリと立ち上がったのである。


(ホッ……いいタイミングで危険物を処理できたようだ。グッジョブ、俺)


 立ち上がったローブ姿の男は、フードで覆い隠した顔を俺に向けた。


「貴様、ただの魔法使いではないな……一体、何者だ。どうしてココに、貴様のような輩がいる」

「俺か? 俺は、ただのコック……じゃなかった。ただの通りすがりの魔法使いさ」


 危うく、映画で有名な無敵の沈黙男になりかけてしまった。


「通りすがりの魔法使いだと……フン、まぁいい。貴様が誰であろうと、その辺の魔法使いではない事に変わりはない。それならば、こちらにも考えがある」


 男はそう言って、懐から煙のようなモノが渦巻く、黒い水晶球を取り出した。

 だが、その水晶球を見た瞬間、俺は思わず目を見開いた。


(あ、あの黒い水晶球……以前どこかで……あ! ま、まさか……)


 俺は驚愕した。

 なぜならその水晶球は、以前遭遇したザルマンが持っていた物とそっくりだったからだ。

 脳裏に、あの時の最悪な記憶が蘇ってくる。


「油断したよ……。まさか、これを使う事になるとはな。できれば、使わずに事を済ませたかったが、貴様のような奴には、こちらも本来の力を出さねばなるまい……ムン!」


 と、その直後、ザルマンの時と同様、男の周りを黒い霧が覆い始めたのである。

 恐らく、魔物に変身するのだろう。

 とはいえ、ザルマンの時は変身するのに結構時間が掛かっていた。

 それを考えると、今の内にファーラミをお見舞いしたほうがいいのかもしれない。


(やるなら今か……って、え?)


 などと考えていた、その時である。

 なんと、予想よりも早く黒い霧が消え去り、男が纏っていた黒いローブが宙を舞ったのであった。

 男は真の姿を晒けだした。


「なッ!?」

「そ、その姿は魔物ッ!? なぜ、魔物がこんな所にッ!」


 女性も目を見開き、困惑の表情を浮かべていた。

 だがしかし……俺は魔物に変身した事も然る事ながら、その姿に驚いたのである。

 ゲームで見た事がある魔物だったからだ。

 黄土色の肌をした人のような姿に、背中にはカラスのような黒い翼。髪の無い頭部には、裂けた口と尖った長い耳に加え、こちらを睨みつける蛇のように鋭い目。右手には鋭利なナイフと、左手にはしなる鞭。

 一言で言うなら堕天使のような姿をした魔物だ。

 しかも、ゲームではラストの方で出てきた魔物であった。


「その姿……もしかして、死の天使・ザーリアルかッ!?」


 俺は思わず、その名を口にしていた。

 魔物はその言葉に反応する。


「何ッ!? 貴様……魔の世界の奥底に住まう、我が種族の名をなぜ知っている。貴様、一体何者だッ!」


 少し余計な事を言ったみたいだが、俺は今、それどころではなかった。

 なぜなら、この魔物が持つ非常に嫌な能力を思い出したからである。


(そ、そういえば、こいつ……確か、即死魔法のモディアスを頻繁に使ってきた気がする。ヤ、ヤバい、あんな魔法使われたら、死ぬ可能性が大アリだ! ゲームだと、確か、ウィザレスが効きやすかった筈。は、早く封じないと! というか、同じ設定であってくれぇ)


 俺はそう結論するや否や、祈るような気持ちで魔力分散の終わった両手を前に突き出し、問答無用でウィザレス2発を奴に放ったのである。 


「ウィザレス!」


 その刹那、黄色い霧がザーリアルの周りに纏わりついてゆく。

 そして俺は、その様子を見届けたところで、ホッと安堵の息を吐いたのであった。

 この黄色い霧は、ウィザレスが成功した証だからだ。

 ザーリアルが忌々しそうに口を開く。


「チッ……まさか、先手を打ってくるとはな。死の呪文で手っ取り早く始末しようと思ったが、仕方ない。ならば、俺もこれを使うまで……ガァ」


 ザーリアルはここで予想外の行動に出る。

 なんと、口の中から黄色い玉を吐きだしたのである。


(こ、この黄色い玉も見覚えがあるぞ。まさか……)

「クククッ、人間の魔法使いなんぞ、これを使えば遅るるに足らぬわ」


 ザーリアルは黄色い玉に魔力を籠めた。

 するとその直後、玉から黄色い霧が噴き出し、辺りに漂い始めた。


(恐らくこの霧は……とりあえず、試してみよう……)


 俺はそこで、試しにペルミラを小さく唱えた。

 しかし、変化はまるでなかった。

 そして俺は理解したのである。

 これはザルマンが使った魔法を無効化させる、あの霧だと……。

 薄く黄色い霧が辺りに満ちたところで、ザーリアルは嫌らしく笑った。


「クククッ、さて、お前を始末する準備は整ったようだ。これで、お前をなぶり殺してやれる。覚悟するんだな。クククッ」

「呪文無効化の霧ってやつか。……用意周到だな」


 俺は内心ビクビクもんだったが、平静を装いながら答えた。


「その通りよ。念の為に持ってきたが、まさか使う事になるとは思わなかった。それだけお前が予想外だったという事だ。だが、それも一時的なもの。魔法の使えぬ魔法使いなんぞ、取るに足らぬ存在。もうお前は死ぬしかないのだからな。クククッ、そういうわけだ。とりあえず、死ねェ!」


 ザーリアルはそう言うや否や、物凄いスピードで飛び掛ってきた。


「チッ」


 俺は咄嗟に横へと飛び退いた。

 だが、ザーリアルの攻撃が予想外の速さだった為、俺は避けきれず、鞭を左肩に受けてしまったのである。

 その刹那、刺すような激痛が俺の身体を走り抜けた。


「グアッ!」


 俺は左肩に右手を当て、ザーリアルに目を向ける。

 だがしかし、ザーリアルはもう次の行動に移っていた。

 なんと、奴は既に間合いを詰め、右手に持ったナイフを俺に突き刺そうとしていたからだ。


(ま、不味いッ! 生身の身体能力は俺よりもかなり上だッ)


 この事実を前に、俺は無我夢中で魔導の手に魔力を籠めた。

 そして、反対の壁にある小窓に見えない手を掛け、自分を引っ張る形で素早く移動したのである。

 その刹那、奴の振るうナイフが空を切る。

 俺はそこで、ホッと息を吐いた。

 だが、ホッとしたのも束の間。

 ザーリアルは俺の動きに合わせて宙を飛び、上空から鞭を振るっていたからだ。


(なんつう速さだッ、クソッ)


 俺はまた魔導の手に魔力を籠め、同じような要領で素早く移動した。

 すると即座にザーリアルも俺の後を追ってくる。

 俺はそうやって、奴の攻撃を避け続けた。

 そして、そんないたちごっこを何回か続けたところで、ようやくザーリアルは動きを止めたのであった。

 ザーリアルは面白くなさそうに口を開いた。


「チッ……なるほどな、魔導の手とかいうやつか……面倒臭い奴め。だがこれ以上、俺も貴様とのお遊びに付き合うつもりはない。そろそろ終わりにさせて貰おう。クククッ」


 ザーリアルはそう言うと、バサバサと羽根を広げて飛び上がり、泉につかる女性の方へと向かった。


(不味い、人質戦法かッ)


 奴の思惑を瞬時に理解した俺は、急いで魔導の手に魔力を籠め、女性へと見えない手を伸ばした。

 水面が弾ける。


「キャア!」


 俺は魔力を強め、泉から女性を持ち上げ、こちらへと一気に引き寄せた。

 女性は白く美しい素肌をしており、豊かな胸元と、張りのある引き締まったお尻が印象的であった。

 だが女性はこんな時にも関わらず、胸と股間に手を伸ばして肝心な部分を隠していたのである。

 これは少し残念であった。

 とはいうものの、俺も流石に今の状態で、エロモードにはなれんが……。

 ま、まぁそんな事はさておき、俺は女性を足元に降ろすと、とりあえず、後ろに行くよう指示した。


「すいません、無礼な真似をして。でも今は緊急事態です。すぐに俺の後ろへ回ってください!」

「は、はい」


 全裸の女性は、慌てて俺の後ろに移動する。

 そして、俺は奴の出方を窺いながら、腰に装備する魔光の剣に手を掛けたのだ。

 ザーリアルは怒りのあまり、歯ぎしりしながら、プルプルと身体を震わせていた。


「お、おのれェェェ、小賢しい奴めェ! 必ず殺してやる。殺してはらわたを食らいつくしてやる!」


 相当頭に来ているようだが、これでいい。

 戦いというのは基本的に、冷静さを失った時点で負けだからである。

 つまり、今が攻め時という事だ。

 それに、俺の魔力量を考えると、これ以上逃げ回るのは得策ではない。

 なので、ここはどうでも打って出る必要があるのである。

 そう……魔導の手によって奴の身体能力と渡り合えるようになった俺は、あくまでも一時的なものだからだ。

 魔力が尽きた時点でゲームオーバーなのである。

 だがとはいうものの、普通に攻めたのでは上手くいかないのは明白であった。

 なぜなら、奴の身体能力と魔導の手を使った俺は、ほぼ互角だからである。

 闇雲に魔光の剣で攻撃しても避けられる可能性が高いのだ。

 おまけに魔光の剣は、そう何回も使える代物ではない。

 使うならば、一撃必殺の要領でないと駄目だからだ。

 使用者の魔力はあっという間に枯渇してしまうからである。

 では、それらの問題点をどう改善するのか? という事だが、実は今の攻防で、俺は魔導の手の新しい使い方を閃いたのである。

 そして、それを実行に移すべく、俺は奴に向かい、魔導の手を装備した左手を突きだしたのであった。


(今のやり取りで活路が見えたよ……やるしかない!)


 魔導の手の新しい使い方とは何か……。

 それは魔力圧を上げて、魔導の手で奴を引き寄せるという事である。

 更に言えば、俺自身も強い力で奴に引き寄せられるという事……。

 つまり、魔導の手を磁石のように使う事であった。


(コタロー、行きます!)


 俺は魔導の手に思いっきり魔力を籠め、奴に見えない手を伸ばすと、一気に引き寄せるようイメージした。

 するとその直後、奴だけでなく、俺自身もその力によって引き寄せられる。

 俺達は物凄い速さで間合いが縮まっていた。

 奴の慌てる声が聞こえてくる。


「な、何ィッ! なんだこの力はッ!?」


 奴はこの突然の出来事に慌てていた。

 しかも奴は、俺との間合いが詰まっているのにも関わらず、武器を振るう事すら忘れている状態だ。


(今が勝機!)


 そう考えた俺は、魔光の剣に魔力を籠め、光の刃を出現させる。

 そして、奴と泉の真上で交差した次の瞬間、俺は魔光の剣で、ザーリアルの胸元を横に薙いだのであった。


「ギギャァァァ!」


 その刹那、奴の身体は胸から2つに切断され、ドボドボと泉に落下する。

 そして俺は、魔導の手を使って床に降り立ち、水面に浮かぶザーリアルの哀れな姿に視線を落としたのだ。

 水面に浮かぶ奴の切断面からは、どす黒い血液が溢れており、泉は黒く濁り始めていた。

 先程までの神々しく光る泉は、もはや、見る影もない状態だ。

 俺は泉の縁に行き、ザーリアルの最後を見届ける事にした。

 仰向けになって泉に浮かぶザーリアルは、忌々しい目で俺を睨みつけると、吐血しながら息も絶え絶えに言葉を発した。


「グボッ……ば、馬鹿な……なんでお前なんかに……ガハッ…も、申し訳ありません…………ア……イア……サマ……」


 それを最後にザーリアルは息を引き取った。

 そしてシンとした静寂の時が、この場に訪れたのである。

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