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前略、目が覚めたら、なぜかRPG世界にいたんだが……。  作者: 書仙凡人
第三章 前略、王都へ

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Lv.104 調査中の異変

   [Ⅰ]



 月明かりが満足に届かない薄暗い中、俺は魔導の手を頼りに、断崖の壁からひょっこりと出た岩を飛び移って移動する。

 で、ラティはと言うと、普通に空を飛んで移動しているところであった。

 羨ましい限りである。

 まぁそれはさておき、俺達がそうやって進んで行くと、程なくして、白い光が漏れる建造物が眼下に見えてきた。

 もしかするとアレが、例の建物なのかもしれない。

 建物が見えたところで、ラティの声が聞こえてきた。


「コタロー、アレや。あの中が泉になっとるんや」


 ビンゴのようだ。


「明かりがついてるという事は……今、誰かが水浴びしてる可能性がありそうだな」

「へへへ、ええ時に来たかもな」


 乙女の水浴び……燃える展開である。


「で、どないする? このまま進むか?」

「いや、待て……ここからは慎重に行こう。とりあえず、近くで様子を探りたいから、どこかいい場所はないか?」

「ほんなら、あそこの岩陰なんてどうや」


 ラティはそこで、建物からやや離れた所にあるミニバンサイズの大きな岩へと視線を向けた。

 建物と岩の距離は約50m。他に適当な場所がない事と、場所的にもまぁ悪くない位置だったので、俺はそこにする事にした。


「そうだな。あの岩の裏で様子を見よう」

「よっしゃ、ほな、行くで」


 そして、俺達はその岩へ向かい、そそくさと移動を開始したのである。



   [Ⅱ]



 岩の裏に回ったところで、俺達は息を潜めながら建物の様子をジッと窺った。

 見たところ、建物の周囲には誰もいないようであった。

 話し声といったものも聞こえてこない。

 シンとした静寂が辺りに漂っていた。

 また、近くで見て分かった事だが、この建物には奥の方にだけ両開きの小さな窓が幾つかあり、そこから白い明かりが漏れていた。

 もしかすると、窓のある部分が泉なのかもしれない。


(さて……どんな女性神官が入ってんだろ? オラ、なんだか、悶々としてきたぞ……)


 などというアホな思考はさておき、俺は少し気になった事があったので、ラティに訊いてみた。


「今のところ、何の気配も感じられないけど、いつもこんな感じなのか?」

「いや……いつもやと、もう少し神官の出入りがあるんやけど……変やな、もう沐浴の時間やと思うのに」

「てことは、王族が来てるから、色々とバタバタしてるのかもな」

「せやな。コタローの言う通りかも……ン? 誰か来たで」


 ラティはそこで、ピュレナ神殿の方へ続く石畳の道に視線を向けた。

 するとそこには、グローラムと思わしき明かりに照らされる、数名の者達がいたのである。

 ここからだと距離があるので、どんな者達かまではわからなかったが、人数はどうやら4名のようだ。

 もしかすると、沐浴をしにきた乙女達かもしれない。


「ようやく、来たか。やれやれだぜ……」

「へへ、コタロー、カッコつけてるとこ悪いけど、物ッ凄い顔がニヤけてるで」

「ほっとけ。そんな事より、御一行様はもうすぐ到着だぞ」


 俺達がそんなやり取りをしている内に、一行はもう、建物のすぐ近くへとやってきていた。


「全員が中に入ったら、少し時間をおいてワイ等も行こっか」

「ああ」


 俺達は息を潜め、全員が中に入るのをジッと待つ。

 だがしかし……ここで予想外の事が起きたのである。

 なんと一行は、入口の前で立ち止まって言葉を幾つか交わした後、その中の1人だけが中へと入って行ったのだ。

 そして、残った者達はというと、門番のように入口の両脇に立ち、警備についたのであった。

 この予想外の展開に、俺は思わず舌打ちをした。


「チッ、護衛付きかよ」

「そうみたいやな……でも、ワイがいつも見てるときは、こないな事ないんやけどな」

「なら、多分、王族なんじゃないか」

「かもしれんなぁ。王族かぁ……。王族でも、こないな所にある泉に入りに来んねや……。それは考えへんかったわ」


 ラティはそう言って、残念そうに項垂れた。

 俺も項垂れる。残念だ……本当に。


「でも王族じゃ、覗きはちょっと厳しいな。下手すると、命に関わる。はぁ……諦めるか……」


 せっかく苦労してここまで来たのに、これは少し残念な決断だが、俺も命の危険を冒してまで煩悩に身を任せるつもりはない。

 諦めるどぢよう……不本意だが。

 ゲームセットです。


「なんやったら、今入った王族が出るまで少し粘ってみるか? その後に神官が来るかもしれへんで」

「粘るっつってもなぁ。アーシャさん達も、あまり遅いと心配するだろうからな」

「せやな……。しゃあない、諦めて戻るか」

「ああ、残念だけどな……ン?」


 と、その時である。

 一行がやってきた方向から、また新たな人影が1つ現れたのである。

 ちなみにそれは、フードを深く被った黒いローブ姿の者であった。


「おい、また誰か来たみたいだ」

「どうせまた、王族の護衛かなんかやろ。帰ろ、コタロー」

「そうだな、帰るか……って、ちょっと待て……なんか様子がおかしい」


 そう……様子が変であった。

 なぜなら、その黒いローブ姿の者が建物の前で立ち止まったところで、入口の両脇に立つ3名の者達は、剣を抜いて詰め寄ったからだ。

 3名の者達は明らかに、不審者への対応をとっていた。


「ホンマやな……なんかヤバそうな雰囲気やん」

「ああ……」


 建物の前は慌ただしい様相となっていた。

 俺達は固唾を飲んで、その成り行きを見守った。

 両者は険悪な雰囲気のまま暫し対峙する。

 3名の騎士達は今にも斬りかかりそうな感じであった。

 そんな中、先に動いたのは、意外にもローブ姿の者であった。

 ローブ姿の者は、杖のような物を取り出し、3名の者達に向けたのである。


「今来た奴、杖みたいなの取り出したな。ありゃ戦うつもりやで。3人の近衛騎士相手にようやるわ。1人で勝てるつもりかいな」

「ああ、まったくだ……ン?」


 だが次の瞬間、俺達は異様な光景を目撃する事となった。

 なんと、ローブ姿の者が杖のような物を上に掲げたと思ったら、詰め寄った3名の者達は事切れたかのように、突然、バタバタと地面に倒れていったからだ。

 ラティも驚きを隠せないのか、目を大きく見開いていた。


「な、なんや……今、何したんや。突然倒れよったで」


 そして、黒いローブ姿の者はというと、悠々とした足取りで、建物の中へと入って行ったのである。

 この場に暫しの静寂が訪れる。


(一体何をしたんだ……魔法か……いや、魔力の放出が無いから、多分、魔法じゃない気がする。となると、あの杖の力か……わけがわからん) 


 とりあえず、俺は確認の為、ラティに訊いてみる事にした。


「なぁラティ……今のは何だ? あれも、ここでは日常的にある事なのか?」

「んなわけあるかい。ありゃ、なんかヤバい感じやで……。どうする、コタロー。ちょっと見てくるか?」


 正直言うと関わり合いになりたくはないが、見てしまった以上、無視するのも後味が悪い。


(はぁ……何でこんな事態に遭遇するんだろ、俺……。ただ、誰も傷つくことなく、平和に覗きをしたいだけなのに……。仕方ない。とりあえず、中の様子を見てくるか。だが、場合によっては戦闘もあるかもしれない。すぐに行動できるよう準備だけはしておこう。はぁ……こんな事なら、魔導師の杖も持ってくれば良かった。とほほ……)


 置いてきた魔導師の杖に少しだけ後悔しつつ、俺は重い腰を上げる事にした。


「あまり気が進まんが、仕方ない……行くか」

「ほな、行くで」


 俺とラティは、周囲を警戒しながら建物へと近づいた。

 程なくして、建物の入り口へやって来ると、そこには銀の鎧に白や赤のマントを装備した3名の女性騎士が、うつ伏せで倒れていた。

 3人共、年は若く、20代から30代といったところである。

 結構、美人揃いであった。

 それから、彼女達の背中を覆うマントの中央には、神殿の外にいた騎士達と同様、光と剣をあしらった紋章が描かれていた。

 これを見る限り、彼女達は恐らく、王族の近衛騎士なのだろう。

 それと彼女達の容体だが、呼吸をしているところを見ると、ただ単に眠らされているだけのようである。

 外傷もないので、今すぐ命の危険がどうこうという事はなさそうだ。

 とりあえず、倒れている騎士に関して分かったのは、こんなところである。

 一応、彼女達を起こそうかとも思ったが、俺達の事は知られたくなかった為、今はこのままにしておくとしよう。


(さて……嫌な予感しかしないが……行くとするか……)


 俺はラティに目配せをした。

 ラティは意図を察したのか、恐る恐る頷く。

 そして、俺は建物の入口へと視線を向けたのである。

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