14. 夏の公演の準備
二人の舞姫が、明るく淡い青色のシルクシフォンベイルの端を掴み、長く広げた。続いて、濃い青緑色のベイルを手にした舞姫たちがその後に立ち、それを広げた。
彼女たちの後ろには再び淡い青のシルクシフォンを持った舞姫たちが立ち、さらにその後に濃い青緑色のベイルを持った舞姫たちが立った。それぞれのシルクシフォンベイルには細やかな銀糸が織り込まれており、かすかに煌めいていた。
舞姫たちが優雅な動作でベイルを上下に波打つように揺らし始めると、驚くべき光景が広がった。澄んだ透明感のあるアクア色のベイルの背後に濃いインディゴのベイルが透けて重なり合い、煌めく水面の下へと深い深海の流れが巻き込まれていくかのような、立体的な臨場感が生まれ出でたのだ。
「わあ……凄いですわ。本当に幻想的ですね!」
リズベットが手を叩いて感嘆すると、オロールは嬉しそうに微笑みを浮かべた。
「お気に召していただけたようで何よりです」
夏に開催されるメロヴィッツ王国との会談で披露する公演に向け、小道具や衣装の準備をリズベットの前でお披露目する日だった。
公演のコンセプトは『海の神秘』。オロールが再生の秘術で体験した美しく神秘的な海と、そこで出会った海の精霊や無数の不思議な生き物たちをモチーフにした演目だった。
前回の冬の公演では王都の様々な劇団から最高の舞姫たちを招聘していたが、今回はオロールがレトナ一帯から自ら舞姫たちを選抜し、指導に当たっていた。この公演でも新しい色彩と種類のシルクを制作してお披露目する予定であり、今日用意されたベイルもその一部だった。
「あとは偏光生地さえ出来上がれば衣装は完成ですね。いま魔法研究所で様々な色合いを試作中ですので、近いうちに完成品がお目見えするはずですわ」
「海の精霊や生き物たちの鱗やヒレを表現する煌めく生地だなんて、どれほど美しいことか今から本当に楽しみです」
「ふふ、期待なさってくださいね。想像以上に素晴らしい生地になりそうですから」
その後も公演の構成や動線についてのオロールの説明に耳を傾け、見届けたリズベットは満足感をあらわにした。
「本当に素晴らしい公演になりそうですね。ですが怪我には注意して、どうか無理はなさらないでくださいね。適度に休息を取ることもお忘れなく」
オロールと舞姫たちに用意してきた新鮮な果物や飲み物、差し入れのお菓子を渡し、練習室を後にしたリズベットは、己の部屋へと向かった。夕食までは部屋で休む予定だった。
公演の準備をはじめ、「ビューティーアカデミー」も何ひとつ滞りなく運営されていた。12人のアカデミー生たちはスポンジが水を吸い込むように素早く技術を習得していった。アカデミー生たちを指導する中で、侍女たちの腕前も日ごとに研ぎ澄まされていくのが実感できた。
(すべてが順調に進んでいるわね。万が一のための準備も、大体かたちになったし)
オロールがレトナで暮らすようになって以来、リズベットは公演の準備を点検するだけでなく、時折オロールと街へ散策に出かけていた。レトナの人間ではないにもかかわらず、オロールは面白い見ものやイベントの情報をよく持ってきては、リズベットの気分転換をさせてくれたものだった。
オロールの協力を得られるようになったことで、万が一の事態に備えた物資の購入も容易になった。必要な品々を買い求めてアイテムボックスに収納しておき、コレットはパルトワンまで秘密裏に疾走できる隠れルートを確保してくれた。
これにより、いつ破局が押し寄せてこようとも即座に対応できる準備が整った。心が力強く満たされる一方で、こうした事実を知る由もないアルゼンに対しては申し訳ない気持ちも生じていた。
(銀婚式が終わる時まで見守りましょう。どこまでも万が一に備えてのことなのだから)




