12. 美容ケアを受ける騎士たち
普段とは異なり、鎧を脱いだ軽装姿の一団の騎士たちが、ビューティーアカデミーの建物の前に集結していた。コレットやバートをはじめとする内城の護衛騎士団の一部だった。今日は彼らがビューティーアカデミーで実習対象となる日だった。
皆、朝から全身の隅々まで綺麗に洗い、さっぱりと洗濯した服に着替えてきた状態だった。
副団長が騎士たちを見回しながら確認した。
「皆、支給されたシャンプーで頭はちゃんと洗ってきただろうな?」
「ハイ!」
「万が一にも汚らしい格好で奥様の目に入るようなことがあってはならん。入る前にもう一度点検するように」
副隊長の言葉に従い、騎士たちは互いの清潔状態を確かめ合った。
「おい、顔に何か付いてるぞ? あ、ホクロか」
「どうだ? これくらいなら綺麗に見えるか?」
「問題なさそうだな」
「お前、爪に垢が溜まってるんじゃないか?」
「違うよ。インクが着いたんだ。なぜだ、汚く見えるか?」
伯爵夫人の潔癖症は知らない者がいないほどよく知られた事実であり、普段から彼女の近くで働く者たちは清潔さに気を配っていた。
しかし、この日は特別に綺麗でなければならなかった。まさに夫人が作られた美の殿堂「ビューティーアカデミー」で、それも夫人が見守る中で鏡の前に座っていなければならない日だからだった。
副団長が最後に厳粛に釘を刺した。
「これも任務の一つだ。絶対に気を緩めて臨んではならんぞ」
建物の中に入ると、侍女が彼らを迎えた。騎士たちはまず待合室へと案内された。
「こちらで茶菓子を召し上がりながらお休みくださいませ。後ほどメインサロンへご案内いたします」
待合室の光景に、騎士たちはかなり驚いた。
見事なじゅうたんと華やかな絵画で飾られた高級感漂う部屋の中央に大きな長方形のテーブルがあり、テーブルを囲むようにふかふかとした居心地の良いソファが配置されていた。テーブルの上には新鮮な果物が盛りつけられた籠と、美味しそうな焼き菓子が載った大きな皿がいくつも置かれていた。
「奥様が皆様のためにご用意された品々でございます。どうぞお気兼ねなくお召し上がりくださいませ」
騎士たちは狐につままれたような気分で、一人また一人とソファに腰を下ろした。柔らかく心地よい感触に、緊張が解けていく気分だった。
目の前に用意された果物やお菓子は、どれもこれも高級なものばかりだった。このようなものを本当に自分たちに出してくれたのか、本当に食べて良いものだろうかと思い、誰もすぐには手を伸ばせずにいた。
そんな騎士たちの脇へ、トレーを持った侍女たちが近づいてくると、それぞれの前に茶碗を置き、お茶を注いでくれた。薄く美しい陶器のカップにお茶が注がれると、芳しい香りが広がった。
「ゴフレイン地方のポラン花茶でございます」
そこでようやく騎士たちは、副団長をはじめ皆がお茶のカップを手にした。
「うわあ……香りが最高だな」
「本当にまろやかですね」
あちこちから小さく感嘆の声が漏れ聞こえた。
そこから騎士たちはお茶を飲み、菓子や果物を食べ始めた。食べ盛りの騎士たちとあって、果物の籠とお菓子の皿はあっという間に目に見えて減っていった。
果物の籠とお菓子の皿が空になる前に、手際の早い侍女たちが次々と新しい籠と皿を運んできた。脇では侍女たちが待機し、カップが空になるたびに高級なお茶を注ぎ続けた。
いつしか最初の緊張は忘れ、騎士たちは寛いだ気分でソファに心地よく寄りかかり、美味しいお茶を飲みながら普段は口にできない高級な果物やお菓子を心ゆくまで堪能した。
お茶と間食を楽しんだ後、すっかり機嫌を良くした騎士たちは、ついにメインサロンへと案内された。
そこはまた別の別世界だった。天井には煌々(こうこう)と輝くクリスタルのシャンデリアが掲げられ、壁面には魔導照明が取り付けられた高価な大型鏡が並ぶ部屋だった。
12人のビューティーアカデミー生が騎士たちを迎えた。きちんとした白いブラウスにベストを羽織り、膝丈のスカートを穿いた彼女たちは、それぞれ腰に美容道具を収納したベルトを巻いていた。
「いらっしゃい。お手数をおかけいたしますが、本日はよろしくお願いいたします」
リズベットの挨拶に騎士たちは丁寧にお辞儀をし、アカデミー生たちの案内を受けて鏡の前に着席した。
「楽にお座りください」
椅子の背もたれが後ろへわずかに傾けられた。アカデミー生たちは騎士らの顔に温かいタオルを乗せ、毎日の野外訓練と勤務で荒れた肌をほぐした後、灰と薬草を調合した特製泥パックを顔に塗った。
肌に触れるねっとりとした感触に最初は戸惑っていたものの、ひんやりとした気持ちよさに、いつしかとろとろと眠りに落ちる者もいた。しばらくして泥パックを洗い流し、鏡を見た騎士たちは、滑らかでさっぱりとした肌を見て大いに驚いた。角質と老廃物が綺麗に除去され、額と鼻筋からつやつやと光沢が放たれていた。
次に、爽やかなミント系ハーブオイルを使用した頭皮マッサージが続いた。指先で頭皮のツボを押しながらマッサージすると、騎士たちの口から自分でも気づかないうちに気持ちの良さそうな漏れ声が漏れ出た。
女性騎士たちの顔にはジェルパックで肌に潤いを足し、首から鎖骨にかけてしっとりとした保湿バームを塗った。肌が鎮静され、水分が満たされて柔らかいツヤを帯びた。
髪の毛には特製栄養オイルをたっぷりと塗り、ヘアパックを施した。髪を洗い流して柔らかいタオルで拭いた後、魔導ドライヤーで風を起こして髪を乾かし始めると、騎士たちは珍しそうに鏡越しにその様子をじっと見守った。
女性騎士をはじめ、長い髪を持つ者たちは見違えるほど滑らかになり、さらさらと揺れる髪を見てかなり驚いていた。自分の髪を指でそっと撫で下ろしてみる者もいた。
次はメイクアップだった。アカデミー生たちは髪をピンとヘアバンドで固定した後、ベースメイクに入った。
「少しチクッとするかもしれません」
アカデミー生たちの手に握られた毛抜きや小さな鼻毛ハサミをいぶかしげに見つめていた騎士たちは、それらが自分に向かって近づいてくると緊張で身をすくませ、やがて短い悲鳴をあげた。
眉毛ナイフで形を整え、毛抜きで眉毛を抜き、小さなハサミで鼻毛を処理する一連の作業は、すべて初めて経験することばかりだった。
その後、男性騎士たちはトーンアップクリームで赤みや肌荒れをカバーして自然に肌トーンを整え、髭のある者は髭を整えてオイルを塗り、格好良く形を作った。
女性騎士たちはファンデーションで肌を整えた後、アイメイクとチーク、リップまで施した。滑らかに整えられた肌の上に色彩が加わると生気が満ち、華やかに輝き始めた。女性騎士たちは絶句した表情で鏡の中の自分をぽかんと見つめ返した。
最後にヘアスタイリングだった。カットだけでなく、それぞれの希望に応じてウェーブをつけたりストレートに伸ばしたりして整えた。
アカデミー生たちがそれぞれ担当者のヘアスタイリングをする間、エリー、メリンダ、ベティナはその間を行き交いながら適切な助言と手助けを与えた。
――突然、チ、チーッ……! という音と共にきつい焦げ臭さが漂い、狼狽した悲鳴が響き渡った。
「きゃっ……! ど、どうしよう!」
コレットを担当していた実習生ミナが、魔導アイロンの魔力調整を誤ったのだ。コレットの長い髪が途中から白く煙を噴き上げ、チリチリと焼け焦げていっていた。
ミナは青ざめた顔でどうしていいか分からず立ち尽くしていた。コレットは呆然とした表情で鏡を見つめているだけだった。




