9. オリエンテーション
12人のアカデミー生たちがリズベットの前に立つ日がやってきた。全員、10代半ばから後半の少女たちだった。少女たちはこれから「レトナ・ビューティーアカデミー別館」と名付けられた建物で共に暮らし、ヘアとメイクを学ぶ予定だった。
少女たちが緊張した様子で順番に挨拶をする間、リズベットは彼女たちをじっくりと観察した。
この日のために、皆実家で新しい服を仕立ててもらったようで、精一杯着飾った姿だった。中にはレトナ・シルクで作られた服を着ている少女もいた。服の生地から仕立ての良さ、身につけている装飾品などに、各々の家庭事情が自ずと見て取れた。
身分や境遇が異なるのは当然であり、仕方のないことではあるが、リズベットは彼女たちがそれぞれの背景に関係なく、互いに良いライバルであり、同じ道を歩む同志となってくれることを願っていた。
そのため、これから少女たちが着用する一種の「制服」までデザインしてある状態だった。
リズベットは少女たちに向かって、訓戒の言葉を述べた。いま口にする内容は、ビューティーアカデミーの運営指針として正式に公表する予定であったが、リズベット自身の口からまずしっかりと周知徹底させるためであった。
「これから皆様には、ここレトナ・ビューティーアカデミーで『美』について学び、探求していただくことになります。ここでは身分や家柄などの背景に関係なく、対等な立場の同志として互いに接しなければなりません。
ここで学び生活する間は、後ほど支給される制服を着用して過ごしていただきます。別館を出て「ビューティーアカデミー本館」に入るときは、必ず制服を着用するようにしてください。
ここにいる私の侍女たちとはすでに挨拶を交わしたと思いますが、ジルマは侍女長でありビューティーアカデミーの総責任者として全体を統括し、こちらの3人、エリー、メリンダ、ベティナは私とジルマを助け、皆様の先輩であり師範として直接指導を担当することになります。
したがって、ジルマを含めたこの3人に対しては、いつ、いかなる場であっても、言葉遣いや立ち振る舞いにおいて最大限の尊重と敬意をもって接してください。彼女たちの教えや指示に従わなかったり、無礼に振る舞ったりすることは、私に対する無視であり無礼であると受け取ります。
繰り返し申し上げますが、身分や地位による特別扱い一切ありません。皆様には日常の立ち振る舞いから身だしなみ、部屋の掃除に至るまで全てご自身で行っていただき、師範たちの教えと指示に従っていただきます。
もしこの方針に従えないとおっしゃるのなら、今すぐここを去っていただいて構いません」
少女たちは息をのんでリズベットの言葉に耳を傾けていた。最後の言葉に至っては、あからさまに緊張して身を縮こまらせる者もいた。不躾に声をあげたり身動ぎしたりする者は一人もいなかった。
*** ***
ジルマはこの光景を見守りながら、心の中で苦笑を漏らした。クラヴァンテ伯爵夫人は、いまご自身が口にされた言葉が少女たちにとってどれほど恐ろしいものか、理解しておられないようだった。
ここに集まった少女たちは、単なる興味本位で応募してきたわけではない。クラヴァンテ伯爵家の主要な家臣たちから推薦された数多くの候補者の中から、厳格な審査を経て厳選された者たちだった。
読み書きをはじめとする基本的な教育や教養、特に絵画や刺繍などの才能を兼ね備えていなければならないという厳しい条件にもかかわらず、この場に立ちたいと願う者は溢れ返っていたのだ。
爵位の高い貴族家であっても懐事情が厳しい場合や、金はあっても地位が低い場合、あるいはその両方を持たない者たちの立場からすれば、数々の奇跡の体現者であるクラヴァンテ辺境伯夫人の身近で、直接その教えを受けることができるというのは、果てしない機会であり幸運であった。
この少女たちは、文字通り家族の期待を一身に背負ってここへやってきたのだ。そんな彼女たちに向かって「ここを去れ」と言うのは、何よりも過酷で恐ろしい通告であった。
したがって、少なくとも表立って身分や財力を笠に着て他者を差別したり、身勝手な振る舞いをしたりする者などいるはずもなかった。もちろん、自主性だけに任せて成り立つものでもない。
ジルマ自身、リズベットの意志と方針に従い、一寸の狂いもなく厳正に運営していこうと心に決めていた。




