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24. 月の妖精たち

 幻想的なフルートの旋律(せんりつ)が静かに響き渡る中、どこからともなく二人の舞姫が忽然(こつぜん)と姿を現した。彼女たちは蝶のように優雅に舞いながら、きらめく銀色のカーペットを長く広げていく。


 星を散りばめたようなその銀色のカーペットは、文字通り「星の道」――天の川を連想させた。


 続いて、木々の陰や晩餐会場の周囲の暗闇(くらやみ)から、冷たい青い光と銀色に輝く魔法の粒子を散らしながら、次々と舞姫たちが現れた。彼女たちが身に(まと)うパールホワイトのレトナ・シルクの衣装は、月光を受けて神秘的な光彩を放っている。


 身を(ひるがえ)すたびに、体を霧のように包み込む幾重もの薄く透明なシルクの(ころも)が、四方に月光を振りまいているかのようだった。


 舞姫たちの銀色の髪飾りから、フェアリースリーブ(妖精の袖)の(すそ)、そして指先へと繋がるシルクガーゼのベールが空中でしなやかに混ざり合い、巨大な月光の霧がうねり巻くかのような壮観(そうかん)な景色を作り出していた。


 客人たちはまるで夢の中に誘われたかのような心地よさに浸り、その公演に深く目を奪われていた。息を呑む音すら聞こえないほどの静寂(せいじゃく)が会場を支配する。


 それは、彼らがこれまで知っていたレトナシルクの、まったく異なる一面だった。月光から(つむ)ぎ出されたかのように(ほの)かな光沢を放って繊細に(ひるがえ)る衣装と、柔らかな霧のように空中をたゆたうベール。すべてが幻想的で、非現実的な美しさを極めていた。


 次第に音楽のテンポが速まり、それに呼応して舞姫たちの動きも躍動していく。刹那、ピタリと音楽が止まり、互いに向かい合って円陣を組んだ舞姫たちが、一斉に地面へとしなやかに身を伏せた。


 時を同じくして、地面に銀色の魔法陣が浮かび上がり、その中央からさらにもう一人の舞姫が姿を現した。


 さざ波のように流麗なハープの旋律(せんりつ)に合わせ、(まばゆ)い銀の仮面をつけた舞姫が踊り始めると、客人たちの間からどよめきが漏れた。


「あれは……オロールではないか?」

「まさか……あの事件以来、二度と舞台には立たないはずなのに……」


 他の舞姫たちが愛らしく可憐な「月の妖精」だとすれば、オロールの舞いはさながら「女王」のように堂々としており、気品に満ちあふれていた。


 舞いが最高潮に達したその時、オロールは両腕を交差させ、長い袖で顔を覆い隠した。そして、ゆっくりと腕を引くと――仮面はいつの間にか消え失せ、オロールの素顔、あの元の美しい顔が(あら)わになった。


 オロールの過去を知る者たちは、文字通り驚愕(きょうがく)(うず)に叩き落とされた。それはあの凄惨(せいさん)な事故の直前、彼女が最も光り輝いていた時期の、大輪(たいりん)の花のごとき全盛期の姿そのものだったからだ。


 10人の舞姫たちが立ち上がり、オロールを囲むように円を描いて踊り始める。オロールの顔が完全に回復していた事実を知らされていなかった舞姫たちの顔にも、驚愕に近い衝撃が走っていた。


 それでも彼女たちはプロフェッショナルだった。その動揺を微塵(みじん)も表に出さず、一寸の乱れもない完璧な演舞(えんぶ)を続ける。


 幻想的な群舞が続き、薄霧(うすぎり)のように(あわ)くきらめくベールが長くたなびいて舞姫たちを優しく包み込む。呼応するように、地面の魔法陣が(まばゆ)い光を放った。次の瞬間、舞姫たちはその光の奔流(ほんりゅう)に呑み込まれ、忽然(こつぜん)と姿を消してしまった。


 その時、遠方にそびえる『レトナの翼』が凄まじい輝きを放ち、強烈な光に導かれるように全員の視線が一点に集中した。翼の前面、その大空に何かが浮かび上がっている。


 翼の光が徐々に和らぐにつれ、宙に浮いていた存在がくっきりと輪郭(りんかく)を結び、こちら側の庭園に向かって優雅に飛行を始めた。それは、きらきらと輝く6枚の半透明な(はね)を背中に生やした――シャイナだった。


 降り注ぐ後光を背に負い、6枚の(はね)をゆったりと羽ばたかせながら、水中を優雅にたゆたうように舞い降りてくるその姿は、まさに夜の妖精、あるいは降臨した女神そのものだった。


 シャイナが接近するのと同時に、ふわりと甘い香りが辺り一面に(ただよ)い、夜空から無数の花びらがひらひらと舞い落ちてくる。客人たちはうっとりとした恍惚(こうこつ)の表情で空を見つめた。


 緩やかに高度を下げて舞い降りたシャイナは、客人たちの間をすり抜け、大伯爵ルヴェインの目の前に着地した。地面へと軽く降り立った彼女は、腕に抱えていた大きな花束を彼に捧げ、(うやうや)しくその場に(ひざ)を折った。


 ルヴェインは満面の笑みを浮かべ、その花束をしっかりと抱き受け止める。その瞬間、固さに呑まれて見守っていた人々から、割れんばかりの熱烈な拍手と歓声が沸き起こった。


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