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33. 魔剣士シャイナ

 普段とは違い、軽装の鎧に身を包んだシャイナは、堅牢(けんろう)な石壁に四方を囲まれた空間を見渡した。幼い頃から祖父ギスカールや母シャロナに連れられて城へは何度も来ていたが、この場所は初めてだった。


(四方に強力な魔法の結界が張られているわね。訓練場かしら)

 今日、彼女は伯爵からの呼び出しを受けてここへやってきたのだ。


 しばらくすると、アルゼンが現れた。重厚な鎧をまとい、武装した彼の後ろには、3人の家臣と侍従が従っていた。


「急に呼び出してすまないな」

 アルゼンの挨拶に、シャイナは(うやうや)しく答えた。

「いいえ。どうせ研究のために毎日のように来ていますから」


 この日、アルゼンがシャイナを呼んだのは、手合わせのためだった。大剣と魔法を自在に操る「魔剣士」という存在に、アルゼンが興味を抱いたのだ。


 対戦に先立ち、武器の検分が行われた。


「定められた手順ですので、ご容赦(ようしゃ)を」

 テイトン子爵がシャイナに歩み寄り、声をかけた。


「わかっています。重いから気をつけてくださいね」

 シャイナは素直に大剣を解き、テイトンに差し出した。両手で柄を握ったテイトンの眉間が微かに動いたが、彼はすぐに平然とした表情で刃を改めた。


「異常ありません」

 点検を終えたテイトンが下がった。


 シャイナは片手で大剣を握り、対峙(たいじ)するアルゼンを見据えた。長身で引き締まった体躯から放たれる威圧感は相当なものだ。


 魔導師であるゾネン子爵がアルゼンに各種の強化魔法をかけている間、シャイナもまた自身に強化魔法を唱えた。


(伯爵様は『闘神の加護』を持つ稀代(きだい)の騎士様だっけ? 腕前を拝見させてもらおうかしら)


 不敵に微笑んだシャイナは、大剣を握っていない方の手に、巨大な火球を生成した。


 開始を告げる角笛の音が響き渡ると同時に、シャイナは手の中の火球をアルゼンへと放った。火球は彗星(すいせい)のように長い尾を引き、アルゼンの胸元を狙って飛んでいく。


 この場合、相手の反応は二つに一つ。避けるか、受けるかだ。

 避ければ火球は彼を追尾(ついび)して注意を()ぎ、正面から受ければ、それはそれで隙が生まれる。


 アルゼンは後者を選んだ。彼の剣が火球を切り裂く刹那、高く跳躍したシャイナが大剣を叩きつけた。


 アルゼンは左手で短剣を抜き、シャイナの大剣を受け止めると同時に、体を(ひるがえ)してその衝撃(しょうげき)を受け流した。


        ***     ***


「アルゼンと手合わせをしたの?」

「うん、かなり面白かったよ」


 応接室でリズベットと向かい合ったシャイナは、菓子を次々と口に放り込みながら(しゃべ)りまくった。


「正直、今まで出会った相手の中で一番強かった。やっぱり『闘神の加護』って凄いのね。私の一撃を弾き飛ばす人なんて初めて見たわ」


「結果はどうなったの?」

「ある程度やって、適当なところで切り上げたわ。生死を賭けた戦いじゃなくて、あくまで手合わせだもの」


「もし……もしもよ? 訓練じゃなく、本気の戦いだったらどうなっていたと思う?」

 好奇心から尋ねてみると、意外にもシャイナは即答した。

「当然、私の負けよ」


「どうしてそんなに断言できるの?」

 リズベットが不思議そうに聞き返した。


「伯爵様は指揮官だもの。実戦なら周りにいる部下たちが一対一なんてさせないでしょ?

 ゾネン子爵だって強力な攻撃魔法の使い手として有名だし、それに……あのテイトン子爵とか言ったかしら? あの人も普通じゃないわ」


「テイトン様が?」

 アルゼンの最側近の一人で、普段は秘書のように付き添っているテイトンは、リズベットにとっても馴染みのある人物だ。


 中肉中背で少し痩せ型、穏やかな印象の男性で、武闘派揃(そろ)いの家臣たちの中では誰が見ても文官タイプだった。


「私の大剣を持って点検してたじゃない。普通の男の人なら、持ち上げるどころか地面を引きずって運ぶのさえ一苦労なのに」


「そうなの? それは意外ね……」

 テイトンにそんな一面があるとは、リズベットにとってもかなりの驚きだった。


「あ、そうだ。私にお願いしたいことがあるって言ってたわよね? どんなこと?」

 シャイナの問いに、リズベットはこの日の本題を切り出した。

「私の『モデル』になってくれないかしら?」


「モデル? 何よ、それ」

「半年後に大きな夜会があるのは知っているわよね? その時に着るドレスを私がデザインしようと思っているのだけれど、ここの仕立屋さんが私のデザインをどれくらい形にできるか、一度試してみたいの」


「それと私に何の関係があるの?」

「まずはシャイナをモデルにして、服や小物を作ってみようと思って。私が考えたスタイルで、シャイナをプロデュースしてみたいのよ」


 菓子を食べていたシャイナの手が止まった。

「そんなことなら、他にも適任がいるじゃない。侍女たちだっているし、ヴィーチェ婆さんだって……

 あの人はリズベットのことを気に入ってるから、喜んでそのモデルだか何だかを引き受けてくれるわよ」


「私は、どうしてもシャイナを飾りたいの」


 シャイナがしゅんとした様子で呟いた。

「私を飾ったって、子供に見えるだけよ。リズベットみたいに背が高くてスタイルがいいわけでも、綺麗でもないんだから」


 やはり。シャイナにとって、小柄な体躯はコンプレックスだったのだ。自分に似合わない大人びた服や化粧に固執していたのも、「大人に見られたい」という切実な願いからだった。


「シャイナには、シャイナだけの素敵なところがあるわ。それを最大限に引き出してみたいの。だから私を信じて、モデルになって」


 リズベットが重ねて頼み込むと、シャイナは渋々といった様子で頷いた。

「わかったわよ。……がっかりしても知らないからね」


「そんなことにはさせないわ。私に任せて」

 リズベットは自信たっぷりに微笑んだ。


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