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18. 確認

 リズベットたちはアルゼンとルヴェイン大伯爵、そして二つの魔導士家門の当主を伴って図書室へと向かった。図書室の外を騎士たちが厳重に警備する中、特別閲覧室に入った人々はリズベットを中心に彼女を囲むように立った。


 ギスカールが本を取り出した瞬間から、一同の間に強い緊張が走った。ヴィーチェが頼んだ。

「リズベット、今の言葉ではなく、神聖語のまま読み上げてもらうことはできるかな?」


 これまでは頭に浮かぶ意味を伝えるだけで、元の言語で音読したことはなかった。半信半疑ながらも口を開くと、自然と見知らぬ言語が彼女の唇から溢れ出した。


 それは、どこでも聞いたことのない、奇妙で神秘的な響きだった。限りなく低くなったかと思えば、突然突き抜けるように高くなり、舌を鳴らすような吸着音(きゅうちゃくおと)や口笛のような音が混じり合っている。


 リズベットの音声に周囲の空気が共鳴し、重厚な波動が広がって空気の密度が変化した。妙な圧迫感を感じる一方で、空間にはきらめく金の粒子が発生し、舞い踊るように揺らめいた。


 人々は、本が勝手にめくれ、挿絵が動き、文字が再配列されて光り輝く様子を、魂を奪われたかのように見つめていた。二人の魔導士は、目を見開いたまま涙を流していた。


 ある瞬間、ルヴェインがアルゼンの腕を強く掴んだ。彼の額に脂汗が滲んでいるのを見たアルゼンが、ヴィーチェに目配せをした。


「ここまでにしましょう」

 ヴィーチェの言葉に従いリズベットが朗読を止めると、周囲を重く圧迫していた空気の密度が次第に和らぎ、金の粒子も静かに消えていった。


「神聖語が持つ神聖な権能により、空間が一時的に変化したのです。少し休息を取れば、すぐに落ち着かれるでしょう」

 ギスカールがそう説明した。


 一行は特別閲覧室を出て、図書室にある大きな机を囲んで座った。


「お茶を淹れてまいります」

 シャロナが動くと、リズベットも後に続いた。


「私も手伝います」

「いえ、奥様はそのままお休みになっていてください」


「大丈夫です、一緒にやりましょう」

 シャロナの遠慮を押し切って、リズベットは彼女について行った。自分を見る人々、特に二人の魔導士の畏敬(いけい)の念がこもった視線が、あまりにも重荷だったからだ。


 リズベットがシャロナと共に席を外すと、ルヴェインがヴィーチェに尋ねた。

「ギスカールから、リズベットが『知恵の加護』を持っているようだと聞いたが。ゆえに、あの本を読めるということなのか?」


 ヴィーチェは鼻で笑った。

「もしそうなら、古代の神秘などとっくに解き明かされていますよ。知恵の加護は稀少ではありますが、歴史上、持っていた者は何人か存在しました。  

 ですが、誰一人として古代の神聖文字を解読できた者はいません。リズベット様は何か特別な、極めて特別な存在だと見るべきでしょう」


「ふむ……」

 その言葉を聞き、深い思索に耽っていたルヴェインがアルゼンに向かって言った。


「前々から感じていたことだが……どうやらエンジット公爵家では、リズベットがどのような子であるか、全く知らなかったようだな」


「あちらで、あまり良い経験をしたようには見えません」


「やはりな。知っていれば、これほどあっさりと外に出すはずがない。  

 ということは、あの家では自分を徹底的に隠していたのだろう。あの一族の性情を(かんが)みて、悪い方向に利用されるだけだと判断したのだな。  

 果たして賢い子だ。我々にとっては、実にもったいないほどの幸運よ」


 ルヴェインは非常に満足げな顔で椅子に身を預けた。


 アルゼンは黙って図書室内を見渡していたが、別の机の上に置いてある画材などに目を留めた。席を立ってそこへ向かったアルゼンは、道具の間にリズベットを描いたスケッチを見つけた。


 机に(ひじ)をつき、片手にペンを持ったまま、何かを熱心に考えている姿だった。


 隣に歩み寄ったヴィーチェが言った。

「ああ、それ? 昨日私が描いたのよ。発表の内容を練るために必死に考え込んでいる姿が、なんだか可愛くてね」


 絵をじっと見つめているアルゼンに対し、ヴィーチェはスケッチをくるくると丸めて差し出した。

「気に入ったなら、持っていけば?」


「……では、遠慮なく」

 アルゼンは辞退することなくそれを受け取った。


 ヴィーチェは意味深な笑みを浮かべて、そんな彼を見つめていた。


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