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世界を救わない契約者、神々に抗うための「引子」となる  作者: 亀


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第四章 因果に絡まれて、最初の仲間

荒野を吹き抜ける風には、修仙界特有の冷たい霊気が混じっていた。


風が、荒れ果てた茶屋を通り過ぎていく。


終夜は目の前に立つ女を見つめていた。


ところどころ破損した重甲。


その身にまとった、絶望。


それでも決して屈することを選ばない、死に物狂いの意志。


その姿は――


数日前。


青石鎮で一本の鈍い鉄剣を握り締めていた、あの少年によく似ていた。


「契約は結べる」


終夜はわずかに目を細めた。


その声は穏やかだったが、そこには探るような響きがあった。


「ただし、勘違いするな」


「俺の契約は、慈善事業じゃない」


終夜は晏清を見つめる。


「俺についてくるということは、あの高みにいる宗門と真正面から向き合うということだ」


「いつ死んでもおかしくない」


「死体すら残らないような場所で、命を落とす可能性だってある」


「それでも――」


「本当に、その背中を俺に預けるつもりか?」


晏清は――


一瞬たりとも迷わなかった。


手にしていた重い長剣を、勢いよく鞘へ収める。


「ガチンッ!」


重い金属音が荒野に響いた。


「私の宗門は、半月前に『天剣宗』によって皆殺しにされた」


「私が今日まで這いつくばって生きてきたのは、あなたの説教を聞くためじゃない」


晏清は終夜を真っ直ぐ見つめた。


「あなたが青石鎮で、上宗の掟を叩き壊した」


「なら――」


「あなたの手にある刃は、私のものより鋭いのでしょう」


終夜の口元が、わずかに吊り上がった。


「……成立だ」


その笑みには、どこか面白がるような色があった。


「今この瞬間から――」


「俺の正面はお前に預ける」


「お前の背中は、俺が預かる」


終夜は軽く肩をすくめた。


「――これで公平だ」


二人の間で契約が成立した瞬間。


空気の中に、ほとんど感じ取れないほど微かな因果の波紋が広がった。


だが――


その直後だった。


異変が起きた。


先ほどまで晴れ渡っていた荒野の空に、何の前触れもなく巨大な黒雲が押し寄せた。


雲の中では、金色の雷光が不気味に明滅している。


同時に――


息が詰まるほどの恐ろしい霊圧が、一気に茶屋全体を覆い尽くした。


「これは……追跡の秘術?」


晏清の顔色が変わった。


反射的に剣の柄へ手をかける。


その瞳に緊張が走った。


「天剣宗の『捜魂鎖霊陣』……!」


「どうして、こんなに早く……?」


「青石鎮で死んだ長老が、上宗の命魂簡を持っていたからだ」


終夜は顔すら上げなかった。


頭上から押し潰してくるような霊圧など、存在しないかのように。


ただ、ゆっくりと衣についた埃を払う。


「一人殺せば、一群が寄ってくる」


「修仙界の蝿ってのは――」


終夜は小さく息を吐いた。


「本当にしつこいな」


「――轟ッ!」


その瞬間。


凄まじい轟音とともに、数本の金色の雷光が天を切り裂いた。


雲間から三人の修仙者が姿を現す。


三人とも、流れる雲を思わせる白い長衣をまとっていた。


冷たい顔。


鋭い眼差し。


そして――


身体から放たれる霊圧は、明らかに築基後期。


青石鎮で少年に殺された長老よりも、はるかに強い。


三人は剣に乗り、そのまま高空から荒野へ降り立った。


先頭の白衣の修士が、終夜と晏清を見下ろした。


その目には、陰湿な殺意が宿っている。


「見つけたぞ」


「この二匹の蟻だ!」


男は冷笑した。


「よくも上宗の長老を謀って殺したものだ」


「今日、お前たちがどこの散修であろうと関係ない」


「魂を抜き、魄を練り上げ――」


「宗門の門前に吊るして見せしめにしてやる!」


圧倒的な敵を前にしても、晏清は怯まなかった。


体内の真元が瞬時に限界まで駆け巡る。


身につけた重甲の亀裂が、赤く淡い光を帯び始めた。


秘術を強引に発動させようとした、その時――


一つの手が、彼女の肩を押さえた。


「焦って命を捨てるな」


終夜の声だった。


奇妙なほど落ち着いている。


終夜はゆっくりと立ち上がった。


腰に差していた、血の付着した鉄剣を抜く。


そして、空に浮かぶ三人の強敵を静かに見上げた。


「さっき言っただろ」


「俺の正面は、お前に預ける」


「だが――その前に一つ教えてやる」


終夜の目が、冷たく細められた。


「高みにいる修仙者を相手にするとき――」


「最初に、どう戦えばいいのかをな」


その言葉が終わるより早く――


終夜の身体が弾けた。


まるで雷光。


だが、真正面から相手の最も強い剣気を受け止めようとはしない。


終夜は周囲の霊気の流れを読み取っていた。


荒野に転がる無数の岩。


その間を縫うように――


足を三度踏み込む。


一歩。


二歩。


三歩。


「――カチッ」


三歩目が地面を踏み抜いた瞬間。


周囲百メートル。


それまで辛うじて保たれていた霊気の均衡が――


一気に崩れた。


「なに……?」


荒野に残されていた、かつての法陣の節点。


それを終夜は見抜いていた。


そして、ほんの僅かな力だけで――


一気に引き起こした。


「――ドンッ!」


霊気が爆発した。


「法陣だと……!?」


白衣の三人の顔色が一斉に変わった。


「いつの間に、こんな仕掛けを――!」


完璧だったはずの包囲陣形が、一瞬で崩壊する。


そこに――


致命的な隙が生まれた。


「晏清!」


終夜が空中から叫ぶ。


「左翼!」


「三寸下――気門を叩け!」


余計な説明は必要なかった。


晏清は、開いた隙を見た瞬間に理解した。


身体が先に動く。


「――ッ!」


鋭い気合いが荒野を震わせた。


晏清の身体が、巨大な隕石のように突進する。


その手に握られた重剣が、凶暴な光の帯へと変わった。


「――ハァッ!」


一閃。


狙いは――


左翼の修士の喉。


「……!」


白衣の修士が目を見開いた。


回避しようと身体を捻る。


だが、間に合わない。


重剣が空気を裂く。


血が――


荒野へ飛び散った。


圧倒的に不利な二人が、強大な修仙者たちへ挑む。


命を賭けた戦いが――


血の雨が降る荒野で、今まさに幕を開けた。

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