第二十八章 終局のフォーマットと、新世界の夜明け
轟――!!!
終夜がすべての因果の断片と論理鍵を、同時に光網の底層コアへ叩き込んだ、その瞬間。
「天幕之眼」の核心制御室全体が、まるで世界そのものを引き裂こうとするかのような、耳をつんざく轟音を響かせた。
天井を覆う億万の因果の光糸は、論理鍵に触れた瞬間、鮮烈な紅と幽青が入り混じった波紋を一斉に広げた。
次の瞬間。
無数の金色の文字列が、滝のように晶壁のあちこちから噴き出した。
文字列は狂ったように跳ね回り、次々と崩壊していく。
「……そんな、馬鹿な!」
高次元の虚影。
それまで冷淡で傲慢だった声に、初めて隠しきれない驚愕と動揺が混じった。
「低次元の虫けらが……どうして底層アーキテクチャに直接触れられる?!」
すべてを見下ろしていた虚影が激しく歪む。
まるで、信号の途切れかけた映像のように、明滅を繰り返していた。
「不可能なんてものはない」
終夜の目は赤く充血していた。
体内の霊力と因果の断片は、すでに完全に燃え尽きようとしている。
それでも彼は、狂ったように反噬してくる論理鍵を両手で押さえ込んだ。
声は低く、冷たかった。
「お前たちが高みに立ち、衆生を牧養してきた時代は――」
一瞬、言葉を切る。
「もう終わりだ」
轟隆隆――!!!
底層ロジックが完全に書き換えられた。
その瞬間。
数万年もの間、修仙界全体を覆っていた巨大な「天網」が、全面的な連鎖崩壊を始めた。
北境の空。
鉛色の風雪に閉ざされていた黒い雪山が、轟音とともに炸裂した。
天地の霊気を封じていた無数の規則の枷が砕け、点々とした星光へ変わりながら、虚空へ消えていく。
同時に。
南方の万里に広がる青空。
中原の繁栄した仙山。
東海の果てしない波濤。
修仙界のあらゆる場所で、生きる者たちはその瞬間、はっきりと聞いた。
――ガラスが砕けるような、澄んだ音を。
そして。
億万の修士たちの頭上を長年押さえつけていた、あの見えない威圧が。
跡形もなく消えた。
核心制御室。
墨三は目を見開き、目の前で完全に崩壊していく光網を見つめていた。
手にしていた歯車羅盤は、すでに無数の部品へと分解され、床に散らばっている。
「システムが……」
墨三は呆然と呟いた。
「本当に、フォーマットされた……」
晏清はゆっくりと剣を下ろした。
因果の反噬によって生じた余波が、最後の震動となって身体を駆け抜けていく。
彼女は周囲を見渡した。
次第に暗くなっていく晶壁。
そして、完全な静寂へと戻っていく核心制御室。
晏清は長く息を吐いた。
張り詰めていた身体から、ようやく力が抜けていく。
高次元の虚影は、数度の悔しげな咆哮を残した。
そして。
完全な虚無へと変わり、崩壊していく核心制御室の奥へ消えていった。
……
数か月後。
修仙界には、かつてないほどの大きな変化が訪れていた。
上宗連盟による幾重もの収奪も。
天網による因果の刈り取りも。
もう存在しない。
天地の霊気は、以前よりも荒々しく、無秩序になっていた。
だが同時に。
それは初めて、誰の所有物でもないものになった。
無数の底層の散修と凡人たちは、ようやく自分たちの運命を縛っていた枷から抜け出す可能性を目にした。
北境の荒野。
風雪は相変わらず吹き荒れていた。
けれど、そこにはもう、あの刺すような殺意はなかった。
初春。
雪解けが始まった荒野の片隅に、三つの人影が並んで立っていた。
墨三は手の中で、新しく組み上げた小さな機械を弄びながら、隣の二人を見た。
「ねえ、二人とも」
いつものように、軽い笑みを浮かべている。
「『天幕之眼』は、もう完全に瓦礫になっちゃったけど……これから、どこへ行く?」
彼女は遠くを見ながら続けた。
「この広い世界には、書き換えられるのを待ってる新しい規則が、まだまだたくさんあるんだから」
晏清は重剣を背負い直した。
その視線は、遠く広がる茫漠とした地平線へ向けられている。
そして、ほんのわずかに口元を緩めた。
「どこへ行くかは重要じゃない」
「大切なのは――」
彼女は足元を見た。
「ようやく、自分の歩く道を他人の顔色で決めなくてよくなったことだ」
終夜はゆっくりと振り返った。
腰に差した一本の鉄剣。
刃を入れられていない、あの鈍い鉄剣。
それはいつの間にか、長い年月と数々の出来事を刻み込んでいた。
終夜はそれを一瞥すると、顔を上げた。
遠くから昇り始めた、初春の暖かな陽光を見つめる。
そして、静かに言った。
「行こう」
一歩、踏み出す。
「次の場所へ」
――全書・完




