第二十六章 死のループと核心の裂け目
轟――!
断魂谷の幽青色の晶壁が、数百体にも及ぶ因果監察傀儡の集団的な威圧を受け、今にも耐えきれなくなりそうな軋みを上げた。
全身が白く、噛み合う歯車の隙間から紅い電光を走らせる傀儡たちが、まるで潮のように押し寄せてくる。
その一撃一撃には、空間すら引き裂くほどの規則判定の力が込められていた。
「――ッ!」
晏清が怒号を上げる。
重剣を横薙ぎに振り抜く。
先頭の三体の傀儡が、まともに一撃を受け――
無数の砕けた歯車と、霊気の残滓となって地面へ叩き落とされた。
だが――
さらに多くの傀儡が、仲間の残骸を踏み越えて押し寄せてくる。
しかも、その傷口では――
新たなデータの流れが、肉眼でも分かるほどの速度で再構築されていた。
「無駄だよ!」
墨三が焦った声を上げる。
「ここの傀儡は、外にいる修士たちとは違う!」
「主システムが直接呼び出してる『リアルタイム・プロセス』なんだから!」
「いくら倒しても、終わらない!」
彼女の手の中にある論理鍵は、過負荷によってすでに熱を持ち、煙まで上げ始めている。
「プロセスなら――」
終夜は淡々と言った。
「死のループに入れてしまえばいい」
終夜の表情は静かだった。
その瞳の奥には、冷たく鋭い因果推演の光が宿っている。
四方から迫り来る殺気にも、彼は目を向けなかった。
意識のすべてを――
傀儡たちの胸部で明滅している、核心コードのノードへ集中させる。
そして。
数十体の傀儡が一斉に武器を振り下ろし、終夜を貫こうとした、その瞬間。
終夜が動いた。
手にした刃のない鉄剣には、華麗な剣気など一切ない。
ただ、常識では考えられないほど正確な軌道で――
連続して数度、突き出される。
その一撃一撃のたびに。
血の付いた古びた銅銭が一枚ずつ、強引に傀儡の核心回路へと叩き込まれていった。
――轟!
――轟!
――轟!
鈍い爆発音が連続して響く。
だが、終夜に打たれた数体の傀儡は、これまでのように再構築されなかった。
突然、その場で動きを止める。
眼窩の紅い光が激しく明滅し始めた。
そして――
内部の歯車が、あり得ない方向へと猛烈な勢いで逆回転を始める。
次の瞬間。
逆向きに動き始めた傀儡たちから、異様な「因果汚染波」が噴き出した。
それは瞬く間に周囲へ広がっていく。
「え……?」
墨三が目を見開いた。
「あなた……」
「まさか、こいつらの底層ロジックを書き換えたの?!」
目の前の光景に、墨三は完全に言葉を失った。
逆向きに動く傀儡たちの干渉によって――
断魂谷全体の警戒ネットワークが、一瞬で論理的な混乱へと陥った。
後方から押し寄せていた傀儡たちは、矛盾した指令を受信する。
そして――
互いを敵と認識し始めた。
次々と同じ仲間へ襲いかかり、自ら殺し合っていく。
先ほどまで完璧に張り巡らされていた紅い光網にも、一瞬で無数の亀裂が走った。
「システムが最も恐れるのは、攻撃じゃない」
終夜は鉄剣を引いた。
顔色がわずかに青白くなっている。
それでも、その瞳は鋭く輝いていた。
「死のループだ」
「行くぞ」
「今のうちだ!」
晏清が重剣を一閃させた。
混乱したロジックによって動きを止めた前方の最後の防衛線が、重剣の一撃によって完全に吹き飛ぶ。
次の瞬間。
三人の姿が、三筋の流光となって駆け抜けた。
断魂谷の防衛線全体が麻痺した、その一瞬を逃さず――
三人は、天地の果てにそびえ立つ漆黒の雪山へ、一気に突入していった。
その先にあるのは――
天幕之眼。
その核心制御大厅だった。




