第十五章 星火は燎原へ、天幕の果てへ
天剣宗主峰の頂。
血のように赤い夕日が、果てしなく広がる雲海を真紅に染めていた。
大長老の死とともに。
かつて高みに君臨し、冷酷な威厳によって千里四方を支配していた修仙宗門は――
ついに、完全に崩れ落ちた。
生き残った内門弟子や長老たちは、皆、顔から血の気を失い、四方へ逃げ散っていく。
かつて厳然としてそびえ立っていた楼閣や宮殿も、制御を失った霊気の奔流に飲み込まれ、次々と瓦礫へ変わっていった。
終夜は、手にしていた鉄剣をゆっくりと収めた。
剣身に残った血が、刃のない鈍い切っ先から一滴、また一滴と流れ落ちる。
焦げた石板の上に、暗い赤の染みを残していく。
終夜は静かに目を閉じた。
体内で激しく揺れ動く真元。
そして、識海の奥深くで、密かに変化している因果の糸。
天剣宗の護宗大陣を打ち砕き、元嬰期の大長老を斬り伏せたことで――
彼の「引子」という名は、知らぬ間に巨大な信念と気運を集め始めていた。
だが。
それでも、まだ足りない。
「行くぞ」
終夜は目を開いた。
そして、すでに調息を終えていた晏清へ視線を向ける。
晏清は重剣を杖代わりにして立ち上がった。
そして、崩壊した宗門を複雑な表情で見つめる。
かつて彼女は、復讐など到底届かない望みだと思っていた。
ましてや――
これほどまでに巨大な上宗が崩れ落ちる瞬間を、自分自身の目で見ることになるなど、想像すらしていなかった。
晏清は血の匂いが混じった空気を深く吸い込む。
そして、低い声で尋ねた。
「これから、どこへ行く?」
「天剣宗は確かに終わった。でも――」
晏清は遠くへ視線を向ける。
「上宗連盟の耳目は、天下のいたるところにある。ここには、もう長くはいられない」
「北境へ行く」
終夜の視線が、遥か北の空へ向けられた。
そこには、雲霧の向こうに墨色の大雪山がかすかに浮かんでいる。
どこか荒涼としていて、古代から変わらぬような気配を漂わせていた。
「天剣宗は、あの網に結ばれた一つの結び目に過ぎない」
終夜は静かに言った。
「俺たちが探している真実も――」
「そして、本当に高みに立って衆生を見下ろしている連中も」
遠くの北境を見据える。
「すべて、天幕の果てにいる」
二人は、それ以上その場に留まらなかった。
夜の闇に紛れ。
崩れ落ちた雲嵐山脈の山門を、静かに後にした。
その背後で。
修仙界全体は、天剣宗の滅亡によって、激しい動揺に包まれていた。
やがて。
青石鎮の少年。
そして――
鈍い鉄剣を手にした「引子」。
その二つの名が、少しずつ人々の間へ伝わり始める。
底辺で生きる無数の散修たち。
そして、これまで修仙者の影に怯えて暮らしてきた凡人たち。
彼らの間に、一つの物語が広がっていく。
それは、まだ弱々しい火種に過ぎなかった。
だが、その小さな星火は――
錯綜する因果の網を伝いながら。
暗闇に覆われた修仙界の中で。
静かに、確かに燃え始めていた。
――星火、燎原へ。
(第一巻・完)




