第十四章 破法と因果の清算
「轟――!」
雷鳴のような重い轟音が、主峰の頂を揺るがした。
晏清の重剣と終夜の鉄剣が、この瞬間、完璧に交わった。
性質のまったく異なる二つの力。
そこへ護宗大陣の反噬によって残された地脈の余波までもが重なり、大長老の護体罡気に生じた亀裂へ、容赦なく叩き込まれる。
「バキィッ!」
乾いた、耳を刺すような破砕音。
それと同時に――
高みに君臨していた元嬰期の大長老。
その身を誇り高く守っていた護体罡気が。
二人の若者によって、真正面から粉々に砕き散らされた。
しかも、その二人はともに築基期。
そのうちの一人に至っては、霊脈すら完全には覚醒していない。
「ぐはっ!」
大長老の口から、鮮血が激しく噴き出した。
その身体は恐るべき反震の力によって、数十丈も後方へ吹き飛ばされる。
そして――
主殿前に立っていた白玉の石獅子へ、無様に叩きつけられた。
「ガシャァン!」
石獅子が砕け散る。
大長老は瓦礫の中から、震えるように顔を上げた。
その視線の先。
全身を血に染めながらも、青松のように真っ直ぐ立っている終夜。
その姿を見つめる大長老の目に――
初めて、信じられないという恐怖が浮かんだ。
「こ……これは、何という剣技だ……?」
声が震えている。
「お前たちは……一体、何者だ!?」
大長老には理解できなかった。
数百年もの間、天剣宗が力によって押さえつけてきたこの世界に。
なぜ突然、二人の若者が現れたのか。
なぜ、彼らは自分の真元の弱点をことごとく見抜くことができるのか。
そして――
なぜ、護宗大陣の反噬すら、自分たちの力として利用できるのか。
まるで、怪物だった。
終夜はゆっくりと腰を伸ばした。
肩から血が滲んでいる。
鉄剣を握る虎口からも鮮血が滴っていた。
呼吸も、わずかに乱れている。
それでも、その目だけは異様なほど静かだった。
大長老の叫びには答えない。
ただ、重い足取りで。
一歩。
また一歩。
大長老へ向かって歩いていく。
「俺たちが何者かなんて、重要じゃない」
終夜の声は大きくなかった。
だが、その言葉には、人の心を直接突き刺すような冷たさがあった。
「重要なのは――」
終夜は足を止めない。
「高みに立ち、他人の命を草芥のように扱ってきたお前たち仙人が」
「今日くらいは――」
その目が、大長老を真っ直ぐ見据える。
「雲の上から泥の中へ落ち、跪く側の味を知ることだ」
「身の程知らずが!」
大長老の顔が歪んだ。
「この老夫が今日ここで形神ともに滅びようとも――」
その身体から、凄まじい殺意が噴き上がる。
「お前たちを道連れにしてやる!」
元嬰後期の神魂が、突如として激しく暴れ始めた。
両手が素早く印を結ぶ。
最後に残された元嬰の力を燃やし尽くし、同じ場所で死ぬための禁術を使おうとしていた。
だが――
真元が逆流した、その瞬間。
周囲の虚空が、突然まばゆく輝いた。
終夜があらかじめ引き起こしていた、古代の陣紋。
それらが一斉に浮かび上がる。
無数の金色の鎖へと姿を変え――
「何だと!?」
大長老の四肢と全身を、瞬く間に絡め取った。
「くっ……!」
金色の鎖が身体へ食い込む。
大長老の瞳孔が大きく縮んだ。
体内の真元が、完全に押さえ込まれる。
どれほど力を込めても――
もはや、ほんの一分たりとも動かすことができない。
終夜は、すでに大長老の目の前まで来ていた。
余計な言葉は一つもない。
ただ、血に濡れた鉄剣を片手でゆっくりと持ち上げる。
そして――
一切の躊躇なく。
振り下ろした。
「ザシュッ!」
鮮血が、空へ舞った。
絶望に満ちた叫び声が、主峰の上に響き渡る。
その瞬間。
かつて天剣宗の威光を象徴した大長老の姿が、完全に消え去った。
彼自身が築き上げた護宗大陣。
そして、その大陣を終夜自身が引き裂き、逆流させた力。
そのすべてが絡み合う場所で――
天剣宗の大長老は、跡形もなく消滅した。
天地の間に。
ほんの一瞬だけ、静寂が訪れた。
遠くでは雲海がゆっくりと渦巻いている。
夕日は、まるで血のように赤かった。
晏清は重剣を杖代わりにして、片膝を地面についた。
大きく息を吐く。
一度。
また一度。
目の前で起きた出来事に、心の震えが収まらない。
終夜は振り返った。
遠くでは、すでに完全な混乱に陥った天剣宗の残存弟子たちが、あちこちへ逃げ惑っている。
終夜はそれを一瞥しただけだった。
そして、静かに視線を戻す。
「行くぞ」
淡々とした声。
「ここは、まだ最初の山に過ぎない」
終夜は遠くの空を見上げた。
「俺たちが向かう場所は――」
その視線の先。
果てのない天幕が、夕焼けの彼方へ広がっている。
「天幕の果てだ」




