第十三章 死地に絡み合う契約
狂風が吹き荒れる。
大長老は、天をも砕く元嬰の威をまとい、その指を突き出した。
指先が虚空を裂く音は、まるで悪鬼の悲鳴。
それは一直線に、終夜の眉間へ迫っていた。
生死を分ける、ほんの一瞬。
だが――
終夜の目には、微塵の動揺もなかった。
その脳裏を、雲嵐山脈へ足を踏み入れてから見てきた、あらゆる霊気の軌跡が駆け抜けていく。
一つ一つの因果の節点。
地脈の流れ。
護宗大陣の残された痕跡。
すべてが、一つにつながっていく。
「境界の隔たりは、確かに埋められない……」
終夜は低く呟いた。
その声は、自分自身にしか聞こえないほど小さかった。
「だが――」
「人を殺すのに、境界なんてものは必要ない」
大長老の指先が触れる、その寸前。
終夜は手にした刃のない鉄剣を、勢いよく身体の前へと横たえた。
同時に、もう片方の手を虚空へ伸ばす。
そして――
あらかじめ用意していた古びた銅銭を、強く握り潰した。
「轟――!」
銅銭が砕け散った瞬間。
大長老の元嬰威圧によって、周囲百メートルにわたって凝り固まっていた霊気が――
一瞬だけ、極めて異様な「逆行」を起こした。
それは、終夜が青石鎮と鉱洞の外で仕掛けていた、最後の因果の仕掛け。
自らを餌とすることで、天剣宗の護宗大陣に残された、乱れた地脈の力を強引に引き出す。
「何だと……!」
大長老の顔色が変わった。
自分の勝利を確信していた一撃。
その指が鉄剣へ触れた瞬間――
突如として地脈から噴き上がった反噬の力が、指先の軌道を強引に半寸ほど逸らした。
「ブシュッ!」
指風が終夜の耳元を掠める。
熱い血が一筋、宙へ散った。
だが――
終夜は、その場から吹き飛ばされなかった。
むしろ、その恐るべき衝撃を利用する。
一歩踏み込み、相手の力を自らの力へと変えた。
そして手にした鉄剣を、勢いのまま大長老の胸――
命門の急所へ叩き込む。
「身の程知らずの小僧が!」
大長老が激昂した。
袖袍を振り払う。
その瞬間、膨大な真元が一気に噴き出し、強固な護体罡気へと変わった。
だが――
その瞬間だった。
側面から、山岳そのもののように重い黒い影が突っ込んできた。
「お前の相手は、私だ!」
鋭い叫び声。
晏清だった。
全身を血に染めながら、彼女は重剣を振り抜く。
燃え尽きる寸前まで引き出した、すべての真元。
その重剣は、まるで落下する隕石のような勢いで大長老の護体罡気へ叩き込まれた。
「バキッ!」
元嬰期修士の罡気。
その強固さは、本来ならば簡単に破れるものではない。
だが――
護宗大陣の反噬。
そして、終夜と晏清。
二人が命を懸けて繰り出した、極限の連携。
そのすべてが重なった瞬間。
強固だった罡気に、一本の亀裂が走った。
「……!」
終夜の目が鋭く光る。
一瞬。
ほんの一瞬だけ生まれた隙。
それを、終夜は見逃さなかった。
その目に冷たい光が宿る。
手にした鉄剣へ、すべての力を集中させる。
そして――
比類のない重さを持つ鈍撃が、容赦なくその亀裂へと叩き込まれた。




