第九話 心の友を見つけた俺
『おいそこの、』
「シーア、本当にもう平気なのか?」
「うん。お兄ちゃんがここまでおんぶしてくれたから・・・」
少し照れたように笑ったシーアが左隣に並ぶと、今度はメルがえへん、と偉そうに胸を張ってわくわくしたような目で見上げてくる。
「じゃあ次は妾をおぶ、」
「みえみえ。」
「ほう?なら、小動物その一は構わんのじゃな?」
「・・・痛っ!ご主人様ぁ、足がとっても痛いですぅ。」
「!?」
どうやら足が痛いのを相当我慢してたようで、しゃがみこんだファムが足を押さえて潤んだ茶色の瞳でじっと見上げてきた。
「ったく、お前らはまだ子供なんだから。今度からは痛くなったらすぐに言うんだぞ?んじゃ・・・」
森沿いの草原で、ファムの前にしゃがんで背中を向ける。
ここまで休憩も無かったし、やっぱ子供だけじゃそんなに歩けないもんなんだな。
もう少しで町に着く予定だけど・・・一回休憩しようかと思った背中にファムが遠慮がちに乗ってくる。
「ほら、遠慮すんな。」
「それなら・・・」
首に腕を回したファムをおんぶして立ち上がると、一回揺すって安定させる。
それでも不安だったのかぎゅっとしがみついて首筋に頭をくっつけてきた。
「あったかい・・・」
「ムーカーツークー!なぁんじゃその勝ち誇った顔は!お主もお主じゃ!そんな簡単に騙されおって!!」
「メルちゃん?ファムちゃんは足が痛いって言ってたからしょうがないよ?」
シーアと話してるメルがぷるぷる震えていて、きっとあいつも足が痛いんだろうと簡単に予想できる。
次はメルの番だな、と思いながら素通りしようとした森と平原の境にある飾り気も屋根もない段差だけの小さな祭壇には黒一色の長剣が意味ありげに刺さっていた。
『おい小僧、この状況でも我輩に気づかないとぬかすなら、』
「うっさいわ!このがらくたが!」
どこか苛ついたメルの放った火の玉が祭壇に刺さった黒い剣に命中する。
『・・・頼む。少しでいいから聞いてくれ。』
俺は生まれて初めて剣が泣く瞬間を見た。
いや、見たんじゃない。感じたんだ。
そして直感が告げている。こいつは、心の友だ!
「剣よ、みなまで言うな。俺にはわかる。お前は理不尽な目に遭ってこんなところにいるんだよな?俺と同じじゃないか・・・だったら、この旅にお前も連れて行ってやるよ!」
ぐっと親指を立てて心でキラリと微笑むと、黒い剣が嬉しそうに黒光りした気がする。
『では貴様も感じたというのか、この、心揺さぶる波動を!』
「ああ!お前は俺の心友だとはっきりな!」
『そうか!ならば貴様を主と定めようではないか!』
ずずっという摩擦音を残し、黒い剣が祭壇から抜けるとそのまま高い位置まで浮き上がる。
くるりと切先を上に向けてゆっくりと降りてくる姿は、黒くなければ伝説の剣のように神々しい。
それに右手を伸ばししっかりと柄を掴んだ瞬間、ゆらりと剣のまわりが揺らめいてうっすら現れた黒い霧が剣身を取り巻くように漂いだした。
『我輩は闇の深淵より生じし暗黒魔剣ディジェスタノーヅ。さあ主よ、共に世界を混沌に導こうぞ!』
あー、やる気になってるとこ悪いがちょっと待ってくれ。
お前ってもしかして連れてっちゃダメな種類の剣じゃないか?
「置いてっていいよな?」
気持ち、爽やかな笑みを浮かべて右手の黒い剣を見た。
『何故だ!?』
「お前のことは忘れない。」
祭壇に元通りに戻すとわずかにキコキコ揺れて、何でどうしてと騒いでいる。
『主はメルティアーナを連れているではないか!なのにどうして我輩はダメなのだ!?』
「え?お前メルを知ってるの?」
知り合い?とメルを振り返れば、メルは不機嫌そうに眉間にシワを寄せてそっぽを向いてしまった。
『・・・まさか、聞いてない、のか?』
えー!嘘ー!と頬に両手をあてて黒い剣が仰け反ったように見えたのは気のせいか?